F4301 金剛不壊の眠りK18喜平W6無垢首飾り 50g/50cm(50.5cm 50.44G 5.72mm) 

F4301 金剛不壊の眠りK18喜平W6無垢首飾り 50g/50cm(50.5cm 50.44G 5.72mm)  收藏

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以下、所謂ブラクラ妄想ショートショートです〜〜


金剛不壊の眠り

序章:令和の不眠症
東京の空は、いつもどこか白茶けている。コンクリートとガラスが吐き出す熱気が、星々の瞬きを薄いヴェールで覆い隠してしまうからだ。大学院で日本近代史を専攻する僕、水沢麟太郎(みずさわ りんたろう)にとって、この眠らない都市は巨大な不眠の同胞のように感じられた。僕自身、もう二年近く、まともな眠りというものを知らない。
原因は不明。精神科医は「持続的知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)に併発する不安障害の一種」だとか、「非定型うつ病の初期症状」だとか、様々な病名を並べ立てたが、結局どの薬も気休めにしかならなかった。夜が更けるほどに意識は冴え渡り、思考は明晰になるのに、身体だけが鉛のように重く沈んでいく。ベッドに入り、目を閉じても、脳だけが暴走を続けるのだ。歴史上の人物の些細な言動、未解読の古文書の一節、指導教官の何気ない一言。それらが混然一体となって、僕の意識を覚醒の淵に繋ぎ止める。
そんな僕に、大阪の実家に住む母から電話があったのは、梅雨の湿った空気が研究室にまでまとわりつくような、七月の初めのことだった。
「麟太郎? あのな、おじいちゃんが……」
母の声は、電話越しにもわかるほど震えていた。祖父が亡くなった、と。
祖父は、僕が幼い頃に両親が離婚して以来、ほとんど会ったことのない人だった。大阪の南船場で小さな貿易会社を営んでいたと聞いている。母は祖父のことをあまり話さなかった。そこには、僕の知らない複雑な家族の確執があるようだった。
一週間後、僕は黒いスーツに身を包み、大阪行きの新幹線に乗っていた。葬儀は滞りなく終わった。涙は出なかった。祖父の顔を、僕はほとんど覚えていなかったからだ。ただ、祭壇に飾られた遺影の、厳しくもどこか寂しげな眼差しだけが、妙に心に引っかかった。
遺品整理の際、母が桐の箱を僕に差し出した。
「これ、おじいちゃんが麟太郎にって。ずっと昔から言うてたから」
箱の中には、ずしりと重い金のネックレスが鎮座していた。喜平、と呼ばれる独特の編み込みがされたチェーンだ。ぎらぎらとした、ほとんど悪趣味なくらいの輝き。添えられた保証書には「K18喜平W6面無垢首飾り 50g/50cm」と記されている。
「……なんで、僕にこんなものを」
「さあ……。あの子が生まれたら渡すんや、て。それだけしか」
僕にとって、それは祖父という存在の不可解さを象徴する遺品にしか思えなかった。正直、迷惑ですらあった。こんな派手なものを身につける趣味はない。研究費の足しにでもなれば、とその足で換金することにした。母は少し寂しそうな顔をしたが、何も言わなかった。
スマートフォンの地図アプリを頼りに、僕は心斎橋の喧騒を抜け、南船場の落ち着いた一角にあるという宝石店に向かった。店の名前は「ブランドクラブ」。ガラス張りのモダンなファサードに、少し気圧される。ドアを開けると、澄んだベルの音が鳴った。
「いらっしゃいませ」
カウンターの奥から現れたのは、白髪を上品に結い上げた、初老の女性だった。凛とした佇まいで、鑑定士なのだろう。僕は少し躊躇いながら、桐の箱をカウンターに置いた。
「これ、買い取っていただきたいんですけど」
女性は静かな所作で箱を開け、ルーペを片手にネックレスを丹念に調べ始めた。その表情は真剣そのものだ。留め具に刻まれた「K18」の文字と、造幣局の検定マークである菱形の刻印を、彼女は特に時間をかけて確認しているようだった。
「素晴らしいお品ですわ。六面ダブルカットの喜平。密度が高く、編み込みも均一。何よりこの輝き……。金剛不壊、という言葉が相応しい」
女性はそう言うと、ふと顔を上げて僕を見た。その瞳は、僕の顔の奥にある何かを見透かすように、深く、澄んでいた。
「お客様、少しお疲れのようですわね。目の下に、濃い隈が」
「あ……まあ、ちょっと」
「よろしければ、少しお話でも。美味しいお茶を淹れますから」
不意の申し出に戸惑ったが、彼女の穏やかな物腰に抗うことができず、僕は勧められるままに椅子に腰掛けた。彼女は奥から美しい切子のグラスに入った冷たい緑茶を運んできてくれた。
「このネックレスは、ただの金塊とは違います。職人が一つ一つの輪を丁寧に組み上げ、六面ものカットを施すことで、この複雑で美しい輝きが生まれる。重さだけやない。人の手の温もりと、時間が込められてますのや」
彼女はネックレスを愛おしげに指でなぞりながら言った。
「50グラムという重さは、人の肌に触れた時、不思議な安心感を与えると言われています。特に、首の後ろ、頸椎のあたりにかかる重みが、自律神経を整えるという話も……」
「自律神経、ですか」
「ええ。昔から、金には精神を安定させる力があると信じられてきました。科学的な根拠は薄いかもしれませんけど、そう信じて身に着けることで、心が安らぐことは確かにあるようですわ」
彼女の言葉は、まるで僕の不眠を見透かしているかのようだった。心が、少しだけ揺らぐ。
「……でも、僕には必要ないので」
「そうですか。では、査定を」
彼女は少し残念そうに微笑むと、手早く計算を始めた。提示された金額は、僕の予想を遥かに上回っていた。研究費どころか、一年分の生活費に相当する額だ。しかし、僕は何故か即決できなかった。
金剛不壊。
彼女の言った言葉が、頭の中で反響する。壊れることのない、不滅の輝き。それは、僕が失ってしまった安らかな眠りとは、あまりにも対極にある概念だった。
「……少し、考えさせてもらってもいいですか」
気づけば、僕はそう口にしていた。
店を出ると、西の空が茜色に染まり始めていた。ネックレスの入った桐の箱が、ずしりと重い。僕はその重みを確かめるように、箱を強く握りしめたまま、ホテルの部屋へと戻った。
その夜も、やはり眠気は訪れなかった。ベッドの上で、僕は虚ろな目で天井を眺めていた。ふと、枕元の桐の箱が目に入る。魔が差した、としか言いようがない。僕は箱からネックレスを取り出し、首にかけてみた。
ひんやりとした金属の感触。そして、確かな重み。50.44グラムというその質量が、鎖骨と頸椎にじんわりと圧をかけてくる。ブランドクラブの店主の言葉が蘇る。
――自律神経を整える。
馬鹿馬鹿しい、と心の中で呟く。だが、その重みは不思議と不快ではなかった。むしろ、地に足がついていないような、浮ついた僕の意識を、身体という器に引き戻してくれるような感覚があった。僕はネックレスをつけたまま、ゆっくりと目を閉じた。思考の渦が、少しだけ、穏やかになっていくような気がした。金の鎖が、肌の熱を吸って、ゆっくりと温かくなっていく。その温もりが、首筋から全身に広がっていく。
意識が、遠のく。
これは、いつもの入眠障害による気絶のような感覚とは違う。もっと穏やかで、自然な眠りの訪れだった。
次に目を開けた時、僕の目に映ったのは、ホテルの見慣れた天井ではなかった。
それは、節くれだった、低い木の天井だった。
第一章:大正時代の夢
障子越しに差し込む光は柔らかく、空気には微かな木の香りと、土の匂いが混じっている。僕はゆっくりと身体を起こした。自分が寝かされていたのは、簡素な木綿の布団の上だった。着ているものも、ホテルのパジャマではなく、藍色の粗末な着物だ。
混乱する頭で、周囲を見渡す。六畳ほどの、古びた和室。壁には煤けた跡があり、隅に置かれた小さな文机の上には、インク瓶と数本のペンが転がっている。窓の外からは、活気のある人々の声や、荷車が土の道を行く音が聞こえてくる。
(夢だ……)
そう思うのが自然だった。あまりにリアルだが、これは僕が渇望していた深い眠りが見せている、精巧な夢に違いない。首筋に触れると、あの金のネックレスの感触があった。夢の中にまで、この重さを持ち込んでしまったらしい。
僕は恐る恐る立ち上がり、障子を少しだけ開けて外を覗いた。
目に飛び込んできた光景に、息を呑んだ。
道行く人々は、皆、和装だった。男性は着物に羽織、女性は色とりどりの着物を着て、日本髪を結っている者もいる。建ち並ぶのは木造の町家で、その軒先には染物屋や米屋の暖簾が揺れている。遠くには、路面電車が走るのが見えた。その風景は、僕が研究室の資料で何度も目にした、大正時代の大阪の街並みそのものだった。
「謙治(けんじ)! いつまで寝とるんや! はよ仕事場に来んかい!」
階下から、野太い男の声が響いた。僕の心臓が跳ねる。謙治? 誰のことだ?
その声に促されるように、僕の足は勝手に動き出した。軋む階段を降りると、そこは薄暗い土間になっており、奥の作業場では数人の職人が黙々と何かを作っている。火鉢の赤い光が、彼らの真剣な横顔を照らしていた。ここは、貴金属の加工所のようだった。
「ぼさっとすな! これ、磨いとけ」
先ほどの大声の主であろう、恰幅のいい中年の男が、僕の手に小さな銀の簪(かんざし)を押し付けた。親方、と呼ばれているらしい。僕はわけがわからないまま、他の職人の見様見真似で、鹿の皮と磨き粉を使って簪を磨き始めた。
(僕は、謙治という名の職人になっているのか?)
混乱は続いていたが、不思議と身体は自然に動いた。指先が、金属を磨く感覚を覚えているかのように。しばらく無心で作業を続けていると、不意に背後から声をかけられた。
「謙治さん、ええ天気ですなあ」
振り返ると、人の良さそうな笑顔を浮かべた若い男が立っていた。同僚だろうか。
「ああ……そうだな」
僕は曖昧に頷いた。自分の声が、いつもより少し低く、野太いことに気づいて、またぎょっとする。
「今日も、ハルさんのとこ行くんか?」
「ハル……さん?」
「とぼけなさんな。毎日毎日、昼休みになったら飛んでいくくせに」
男はにやにやと笑いながら、僕の肩を叩いた。
ハル。その名前に、僕の胸の奥が、きゅう、と締め付けられるような、甘く切ない痛みを感じた。知らないはずの名前なのに、懐かしくてたまらない。
昼休みになり、僕はまるで何かに導かれるように、工房を飛び出した。足は、慣れた道を勝手に進んでいく。活気のある商店街を抜け、少し寂れた裏路地に入る。その一角に、古い長屋があった。その一軒の前に立つと、中から機を織る音が聞こえてくる。
「ハルさん」
僕は、自分の口から、ごく自然にその名が紡がれるのに驚いた。
「……謙治さん?」
戸の中から、鈴を転がすような、可憐な声が返ってきた。そして、からりと戸が開き、一人の女性が顔を覗かせた。
歳は、二十歳前後だろうか。少しはにかんだような笑顔が愛らしい、黒目がちの瞳の女性だった。結い上げた髪からこぼれた後れ毛が、陽の光を浴びてきらきらと輝いている。彼女が、ハル、という人らしかった。
彼女は僕の姿を見ると、ぱっと顔を輝かせた。
「まあ、来てくれたんやね。今日は早かったんやない?」
「ああ……うん」
「今、お茶淹れるさかい、上がって」
促されるまま、僕は彼女の部屋に上がった。機織り機が部屋の半分を占めている他は、質素な暮らしぶりが伺える。ハルさんは、僕のために手際よくお茶を淹れてくれた。
「仕事、どう? 親方にまた怒鳴られてへん?」
「……大丈夫だ」
「そう? 無理したらあかんで。謙治さんの手は、綺麗なもんをぎょうさん作り出す、宝物の手なんやから」
そう言って、彼女は僕の手をそっと取った。金属の粉で汚れ、たこのできた、ごつごPyramidとした手。それを、ハルさんは愛おしそうに両手で包み込んだ。その温もりが、僕の胸にじんわりと沁みた。
僕はこの時、確信した。これはただの夢ではない。僕は、この謙治という青年の身体を借りて、大正時代の大阪を生きているのだ。そして、僕の、いや、謙治の心は、このハルという女性に深く惹かれている。
その日を境に、僕の「眠り」は一変した。
令和の東京で眠りにつくと、僕は大正時代の大阪で「謙治」として目覚める。謙治としての時間は、数時間から、時には丸一日に及ぶこともあった。そして、ふっと意識が途切れると、僕は東京のホテルのベッドの上で目を覚ますのだ。
目覚めた後の僕は、決まって深い充足感に包まれていた。あれほど僕を苦しめていた不眠が嘘のように、毎晩、深い眠りにつくことができるようになった。そして、目覚めは爽快だった。睡眠改善、というにはあまりに劇的すぎる変化だった。
僕は、この奇妙な現象の謎を解く鍵が、祖父の遺したK18の喜平ネックレスにあると直感していた。そして、僕が入り込んでいる謙治という青年は、僕の祖先、おそらくは曽祖父にあたる人物ではないか、と。
僕は、東京の研究室に戻ると、早速調査を開始した。まずは、自身の戸籍謄本を遡るところから始めた。果たして、僕の曽祖父の名は「水沢謙治」だった。彼は大阪で貴金属加工の職人をしており、僕の祖父が生まれてすぐに、病気で亡くなっている。
(やはり、曽祖父だったのか……)
では、ハルさんは? 彼女は僕の曽祖母なのだろうか。しかし、戸籍に記された曽祖母の名前は「ハル」ではなかった。「シズエ」という名の女性だった。ハルさんは、謙治がシズエさんと結婚する前に付き合っていた、別の女性なのだろうか。
僕は、このタイムスリップ現象を、もう少し学術的に考察してみることにした。もちろん、オカルトや非科学的な話として片付けるのは簡単だ。しかし、現に僕の身に起きている。僕は大学の図書館の奥深く、普段は誰も見向きもしないような古い書庫に足を運んだ。
そこで、一冊の古びた論文集を見つけた。発行は1970年代。心理学と生理学の境界領域を扱う、マイナーな学術誌だった。その中に、ある論文が掲載されていた。
『体性感覚入力がレム睡眠中の意識状態に与える影響についての考察』
著:安西 朔太郎
論文の要旨はこうだ。
「特定の周波数を持つ持続的な体性感覚刺激(圧覚、温覚など)は、被験者のレム睡眠中の夢の内容に著しい影響を与える可能性がある。我々の実験では、頸部周辺に特定の質量(45g-55g)の物体を接触させた状態で入眠した被験者の多くが、通常よりも高精細で、かつ過去の記憶や遺伝的記憶(いわゆる『集合的無意識』)と関連する可能性のある夢を報告した。これは、頸部への持続的な圧刺激が脳幹の睡眠中枢を介して、記憶を司る海馬傍回や扁桃体の活動を特殊な形で変容させるためではないかと推察される。特に、熱伝導率の高い素材(金、銀など)を用いた場合、その効果は増強される傾向が見られた……」
――遺伝的記憶。
その言葉が、僕の目に突き刺さった。僕が体験しているのは、まさにこれではないのか。K18のネックレス。50.44グラムという質量。金の持つ高い熱伝導率。それらが僕の脳に作用し、曽祖父・謙治の記憶を、夢として追体験させているのではないか。
にわかには信じがたい仮説だった。しかし、僕の不眠が治ったという事実と、あまりにリアルな大正時代の体験が、この論文の信憑性を裏付けているように思えた。僕は、もっと謙治とハルさんのことを知りたい、と強く思った。彼らの物語の行く末を、この目で見届けたい、と。
その日から、僕の二重生活は、より深く、色濃いものになっていった。
第二章:金剛不壊の誓い
謙治としての生活にも、僕はすっかり慣れていた。工房の親方の怒声にも動じなくなったし、同僚たちとの他愛もない会話も自然にこなせるようになった。何より、ハルさんと過ごす昼休みのひとときは、僕にとってかけがえのない時間となっていた。
彼女は、長屋の一室で、西陣から送られてくる糸を使って、美しい帯を織っていた。指物職人だった父親を亡くし、病気の母親を一人で養っているのだという。彼女の境遇は決して楽なものではなかったが、その表情にはいつも柔らかな光が宿っていた。
「謙治さんの作るもんは、みんなを笑顔にする。ほんまに、魔法の手やね」
僕が作った小さな銀の指輪を、彼女はそう言って、宝物のように大切にしてくれた。
謙治は、腕は確かだが、口数の少ない、不器用な男だった。だが、彼のハルさんへの想いは、その実直な瞳を見れば痛いほど伝わってきた。僕が謙治としてハルさんと過ごす時間は、僕自身の乾いた心をも潤してくれた。令和の東京で、人間関係に疲れ果て、他者との間に壁を作って生きてきた僕にとって、彼女の屈託のない優しさは、何よりも心地よいものだった。
しかし、二人の間には、見えない壁が存在することも、僕は少しずつ知るようになっていった。
ある日、ハルさんがぽつりと言った。
「うちのお母さんがな、あんまり謙治さんと会うたらあかん、て言うんよ」
「……どうして」
「職人は、不安定やから、て。娘を苦労させたくないんやろね。それに……」
彼女は言葉を濁した。僕が問い詰めると、彼女は観念したように、小さな声で続けた。
「うちの遠い親戚に、神戸で大きな商店をやってる人がいてはるの。その人が、うちの家のことを心配してくれて……。その人の息子さんと、一度会ってみないか、て」
いわゆる、縁談の話だった。謙治の胸が、ずきりと痛んだ。それは、僕自身の痛みでもあった。
謙治の親方もまた、二人の関係を快く思っていなかった。
「おい、謙治。お前、あの機織りの娘とどうなっとるんや」
仕事の後、親方に呼び出された。
「あの子の家は、えらい苦労しとるらしいな。お前が嫁にもろても、食わしていける甲斐性があるんか。職人の世界は厳しいで。一人前になるには、まだ十年はかかる。それまで、あの子を待たせる気か」
親方の言葉は、正論だった。この時代の職人の下積みは長い。謙治には、今すぐハルさんを幸せにしてやれるだけの経済力はなかった。
謙治は、何も言い返せなかった。その無力感と悔しさが、僕自身の心にも重くのしかかる。ハルさんを失いたくない。その一心で、謙治は仕事に打ち込んだ。寝る間も惜しんで、技術を磨いた。彼の作る簪や帯留めは、徐々に旦那衆の間で評判になっていった。しかし、それでも、一人前の職人として独立するには、まだ遠い道のりだった。
そんなある夜、僕は再び、あの奇妙な論文のことを思い出していた。
『体性感覚入力がレム睡眠中の意識状態に与える影響についての考察』
僕は、この論文の著者である安西朔太郎という人物に、直接会って話を聞いてみたい、という衝動に駆られた。論文の奥付には、彼が当時所属していた大学が記されている。幸い、都内の大学だった。僕はすぐに大学に連絡を取り、安西氏がすでに退官していること、しかし、今も時折、大学の研究室に顔を出すことがある、という情報を得た。
数日後、僕はその大学を訪れた。古い校舎の一室で、僕は安西朔太郎氏と対面した。彼は、想像していたよりもずっと若々しく、柔和な雰囲気の老人だった。僕が、彼の論文を読んで感銘を受けたこと、そして、自分自身が体験している不思議な現象について、思い切って打ち明けた。
もちろん、タイムスリップなどという突拍子もない話を、彼が信じるとは思えなかった。しかし、安西氏は眉一つ動かさず、興味深そうに僕の話に耳を傾けてくれた。
「……なるほど。実に興味深い。K18の喜平ネックレス、50.44グラムか。私の論文で述べた仮説と、奇妙なまでに符合するね」
彼は、少し興奮した面持ちで言った。
「君が体験しているのは、おそらく『遺伝子記憶へのアクセス』とでも呼ぶべき現象だろう。金という触媒と、その質量がもたらす特殊な脳波状態が、君のDNAに刻まれた祖先の記憶を、現実のようによみがえらせているのかもしれない。古来より、金は神聖な金属とされてきた。それは単なる輝きの美しさだけでなく、人間の意識の深層に何かを働きかける、未知の特性を持っているからではないか……。私は、そう考えているんだよ」
安西氏の話は、僕の体験に、一つの輪郭を与えてくれた。
「先生。この現象を、僕の意思でコントロールすることはできるんでしょうか。過去を変える、なんてことは……」
「それは、危険な問いだ」
安西氏は、穏やかだが、きっぱりとした口調で言った。
「タイムパラドックス、という言葉を知っているかね。過去へのいかなる干渉も、未来に予測不可能な結果をもたらす。君の存在そのものが、消えてしまう可能性だってある。君は、傍観者でいるべきだ。君の曽祖父が体験した人生を、ただ静かに見守るんだ。それが、君自身のためでもある」
彼の言葉は、重く僕の心に響いた。だが、僕は本当に、ただ見ているだけでいられるだろうか。謙治の苦悩と、ハルさんの悲しみを、僕はすでに自分のことのように感じていた。
その夜、謙治として目覚めた僕は、ある決意を固めていた。
彼は、工房の親方に内緒で、夜中にこっそりと作業を始めた。彼が作ろうとしているのは、喜平のネックレスだった。これまで彼が作ったどんな作品よりも、大きく、重く、そして輝かしいもの。彼が持てる全ての技術と、情熱を注ぎ込んだ、渾身の一作。
彼は、純金(K24)では柔らかすぎると考え、強度と輝きを両立させるために、銀と銅を混ぜた十八金(K18)を選んだ。輪を繋ぎ、一つ一つを叩いて締め、六面にカットを施していく。気の遠くなるような作業だった。彼の指は豆だらけになり、背中は鉄のように強張った。それでも、彼は手を休めなかった。ハルさんの笑顔を思い浮かべながら、一心不乱に金槌を振るい続けた。
数週間後、ネックレスは完成した。
全長50センチ、重さ50グラム。六面ダブルカットが施された金の鎖は、薄暗い工房の中でも、自ら光を放っているかのように、圧倒的な輝きを放っていた。それは、謙治の、ハルさんへの想いの結晶そのものだった。
彼は、そのネックレスを懐にしまい、ハルさんの元へと向かった。
「ハルさん。話がある」
いつもの昼休みではなかった。仕事が終わった後の、夜。ハルさんは、彼のただならぬ様子に、少し驚いていた。
「どうしたん、謙治さん。改まって」
謙治は、懐からネックレスを取り出し、彼女の前に差し出した。
「これを、君に」
ハルさんは、息を呑んだ。蝋燭の光を浴びて、金のネックレスが燃えるように輝いている。
「……こないな、高価なもん、もらわれへん」
「これは、俺の誓いだ」
謙-治は、まっすぐに彼女の目を見て言った。
「今はまだ、お前に楽な暮らしをさせてやれん。一人前の職人にもなれてへん。せやけど、俺は必ず、お前を幸せにする。このネックレスみたいに、絶対に壊れへん、色褪せへん気持ちで、お前を一生守る。金剛不壊の誓いや。やから……俺を、信じて待っていてくれへんか」
不器用な、しかし、心の底からの告白だった。
ハルさんの大きな瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。それは、悲しみの涙ではなかった。
「……嬉しい。謙治さん……」
彼女は、こくん、と頷いた。
「待ってる。うち、いつまでも待ってるから」
二人は、どちらからともなく、固く抱きしめ合った。
僕、水沢麟太郎は、その光景を、ただ静かに見つめていた。曽祖父と、彼が愛した女性の、純粋で、力強い愛の誓い。僕の胸は、熱い感動で満たされていた。
しかし、この時、僕はまだ知らなかった。
彼らの未来に、過酷な運命が待ち受けていることを。そして、僕の曽祖母が「ハル」ではなく、「シズエ」であったという、厳然たる事実の意味を。
第三章:引き裂かれた運命
謙治がハルにネックレスを贈ってから、二人の絆は一層深まった。ハルはそのネックレスを決して人前で身につけることはなかったが、いつもお守りのように、小さな布袋に入れて大切に持ち歩いていた。謙治も、彼女の信頼に応えようと、さらに仕事に精を出した。彼の評判はますます高まり、やがて親方も、彼の腕を認めざるを得なくなった。
ささやかながらも、幸せな日々だった。僕もまた、謙治として過ごす時間に、安らぎと充実感を覚えていた。このまま、二人は結ばれるのだろう。僕が知っている歴史が、少しだけ変わるのかもしれない。曽祖母の名前が、シズエからハルに。それくらいの変化なら、許されるのではないか。安西氏の警告を忘れたわけではなかったが、僕はそんな淡い期待を抱いていた。
だが、運命は、残酷なまでに非情だった。
その日、ハルが機を織っていた長屋から、火が出た。
火元は隣の部屋だったらしい。折からの強風に煽られ、炎は瞬く間に燃え広がり、古い木造の長屋を舐め尽くした。
謙治が火事を知って駆けつけた時、あたりはすでに黒煙と火の海に包まれていた。
「ハルさん! ハルさんはどこや!」
彼は、制止する野次馬を振り払い、燃え盛る長屋に飛び込もうとした。周りの男たちが、数人がかりで彼を羽交い締めにする。
「あかん! もう手遅れや!」
「離せ! ハルさんが、ハルさんがまだ中に!」
彼の絶叫は、炎の轟音にかき消された。やがて、長屋は大きな音を立てて崩れ落ちた。その場にいた誰もが、もう助からないと悟った。謙治は、崩れ落ちた瓦礫の前で、ただ泣き崩れることしかできなかった。
翌日、焼け跡から、二つの遺体が見つかった。ハルさんと、彼女の母親だった。
謙治は、完全に心を失ってしまった。仕事も手につかず、工房の隅で、ただ虚空を見つめて座っているだけの日々が続いた。あの輝くような笑顔も、鈴を転がすような声も、優しい温もりも、全てが一瞬にして灰になってしまった。
僕、水沢麟太郎の心もまた、深い絶望に沈んでいた。眠りにつくのが怖かった。目覚めれば、そこには謙治の、魂が抜け殻になったような姿があるからだ。僕があれほど渇望した深い眠りは、今や、耐えがたい苦痛の時間と化していた。令和の東京で目覚めても、涙が止まらないことがあった。それは、謙治の涙なのか、僕自身の涙なのか、もはや区別がつかなかった。
なぜ、こんなことになったのか。
僕が歴史に干渉したからだろうか? いや、僕は何もしていない。ただ、見ていただけだ。これが、もともと決まっていた、変えることのできない歴史の事実なのだろうか。
数週間後、焼け跡の整理をしていた消防組の男が、謙治の元を訪れた。彼が差し出したのは、黒く煤けてはいるが、紛れもなく、あの喜平のネックレスだった。
「お嬢さんが、これを強く握りしめたまま、亡くなっていたそうですわ。お母さんを庇うようにして。きっと、あんたさんからの、大事なもんやったんでっしゃろ」
男の言葉に、謙治は声を上げて泣いた。
金は、火にも溶けない。
金剛不壊の誓いは、形としては残った。しかし、その誓いを交わした相手は、もうこの世にはいない。ネックレスの輝きは、あまりにも空しく、そして悲しかった。
この出来事が、謙治の人生を大きく変えた。
彼は、抜け殻のようになりながらも、親方の工房で働き続けた。だが、彼の作るものから、以前のような輝きは失われていた。ただ、黙々と、感情を殺したように手を動かすだけだった。
そんな彼を、親方は不憫に思ったのだろう。一年ほど経った頃、親方は彼にある縁談を持ちかけた。相手は、親方の遠縁にあたる娘で、名をシズエと言った。
「お前も、いつまでも一人ではおれん。ハルちゃんのことは気の毒やったが、死んだ人間は帰ってこん。前を向いて生きんかい」
謙治は、断らなかった。もはや、彼にとって、誰と結婚しようと、どうでもいいことだったのかもしれない。
シズエさんは、物静かで、控えめな女性だった。彼女は、謙治の心にハルがいることを知りながらも、文句一つ言わず、甲斐甲斐しく彼の世話を焼いた。やがて、二人の間に子供が生まれた。僕の祖父にあたる、正一(しょういち)だ。
しかし、謙治の心が癒えることはなかった。彼は、ハルを失った悲しみと、別の女性と家庭を持った罪悪感に、静かに苛まれ続けていた。そして、祖父が生まれて間もなく、彼は流行り病であっけなくこの世を去った。戸籍に記された、短い生涯。その裏に、こんなにも悲しい愛の物語があったことを、僕以外の誰も知らない。
僕は、曽祖父の最期の瞬間まで、彼と共にした。
薄暗い病室の布団の中で、謙治はシズエさんに、一つの頼みごとをした。
「……あのネックレスを……正一が大きくなったら……」
彼の声は、か細く、途切れ途切れだった。
「いや……正一の、その子供に……男の子が生まれたら、渡してやってくれ……。これは……俺の、たった一つの……」
そこで、彼の言葉は途切れた。
彼は、最後まで、ハルの名前を口にすることはなかった。だが、彼が何を言わんとしていたのか、僕には痛いほどわかった。
彼は、自分の果たせなかった「金剛不壊の誓い」を、未来に託そうとしたのだ。ハルという女性がいたこと、そして、彼女を心の底から愛した男がいたことの証として。僕、水沢麟太郎に、このネックレスが渡されたのは、偶然ではなかった。それは、曽祖父の、時を超えた、悲痛な願いだったのだ。
謙治の意識が消えると同時に、僕のタイムスリップも終わりを告げた。
次に目覚めた時、僕は東京の自分の部屋にいた。窓の外は、白々と明け始めていた。首には、あのネックレスが、ひんやりとした感触と共に、ずしりと重くかかっている。
僕の頬を、一筋の涙が伝った。
もう、眠りにつくのが怖い、とは思わなかった。僕の不眠は、完全に治っていた。しかし、その理由は、もはやどうでもよかった。僕の心は、曽祖父とハルさんの悲しい物語で、張り裂けんばかりに満たされていた。
終章:令和のブランドクラブ
それから、一ヶ月が過ぎた。
僕は、大学院に休学届を提出した。歴史を、客観的な事実の連なりとして研究することが、今の僕にはできそうもなかったからだ。一つの史実の裏には、僕が体験したような、無数の人々の喜びや悲しみが埋もれている。その重みに、今の僕は耐えられそうになかった。
僕は、再び大阪行きの新幹線に乗った。向かう先は、南船場の「ブランドクラブ」だ。
店のドアを開けると、あの時と同じ、澄んだベルの音が鳴った。
「いらっしゃいませ……まあ」
カウンターの奥から現れた店主の女性は、僕の顔を見るなり、少し驚いたように目を見開いた。
「お客様。なんだか……お顔つきが、すっかり変わられましたな。以前の、張り詰めたような空気が、すっかりなくなって」
「……そうですか?」
「ええ。何か、良いことでもおありでしたか?」
僕は、静かに首を横に振った。そして、カウンターに桐の箱を置いた。
「これを、売るのはやめます」
僕は、きっぱりと言った。
「これは、僕が一生、大切に持っていなければいけないものだとわかりましたから」
店主は、何も聞かず、ただ、優しく微笑んだ。
「それがよろしいですわ。このネックレスは、お客様の元にあるべきもののように見えますもの」
僕は彼女に深く頭を下げ、店を出ようとした。その時だった。
「あの、すみません」
背後から、柔らかい声がした。振り返ると、そこに一人の女性が立っていた。歳は僕と同じくらいだろうか。大きな瞳が印象的な、優しい雰囲気の女性だった。彼女は、少し困ったような顔で、僕に言った。
「今、お店に入ろうとしたら、ドアが……。このドア、少しコツが要るみたいで」
「ああ、すみません」
僕は慌てて彼女のためにドアを開けた。彼女は「ありがとうございます」と小さく会釈し、店内に入っていった。その時、彼女の首元で、小さなペンダントが揺れるのが目に入った。古い、銀細工の花のデザイン。それは、僕が謙治として、ハルさんのために作った、あの指輪のデザインと、驚くほどよく似ていた。
僕の心臓が、大きく音を立てた。
まさか。そんなはずはない。
でも、もし。もし、ハルさんの血筋が、どこかで続いていたとしたら? 火事で亡くなったはずの彼女に、僕の知らない兄弟か、あるいは、親戚がいて、その繋がりが、令和のこの時代まで続いていたとしたら?
僕の足は、その場に縫い付けられたように動かなくなった。
彼女は、カウンターで店主と何か話している。どうやら、祖母の形見のアクセサリーの修理を相談しに来たようだった。
やがて、彼女は用事を終え、僕の方に向き直った。
「さっきは、ありがとうございました」
「いえ……」
「あの……私の顔に、何か?」
僕が彼女を凝視していることに気づき、彼女は不思議そうに小首を傾げた。その仕草が、僕の記憶の中のハルさんの姿と、鮮やかに重なった。
「……お名前を、聞いてもいいですか?」
気づけば、僕はそう問いかけていた。自分でも、どうかしていると思う。しかし、聞かずにはいられなかった。
彼女は少し驚いたようだったが、にこりと微笑んで答えた。
「ハルカ、です。春に香る、と書いて、遥香」
ハルカ。
その名前を聞いた瞬間、僕の中で、何かが、すとんと腑に落ちた。長い、長い時間のパズルが、最後のピースを得て完成したような感覚。曽祖父・謙治の果たせなかった想い。時を超えて僕に託された、金剛不壊の輝き。その全てが、今、この場所で、一つの線として繋がったのだ。
僕の首にかかった、K18の喜平ネックレスが、胸の上で、ずしりとした確かな重みと、温もりを伝えていた。それはもう、過去の悲しみの象徴ではなかった。時を超えて人を繋ぐ、愛と希望の証だった。
「僕の名前は、麟太郎です。水沢麟太郎」
僕は、自分でも驚くほど、晴れやかな声で言った。
「もし、よかったら、この後、お茶でもしませんか」
彼女は、きょとんとした顔で僕を見て、それから、いたずらっぽく笑った。
「はい、喜んで」
南船場の空は、どこまでも青く澄み渡っていた。
僕たちの新しい物語が、この令和の時代に、今、静かに始まろうとしていた。それはきっと、曽祖父が夢見た、輝かしくて、壊れることのない、素敵なハッピーエンドのジュエリーストーリーになる。僕には、そんな確信があった。

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