職業作家としても十分に通用してしまう才能を生かしたPOPな楽曲を求めるレコード会社と自身が持つロックンロールへのあこがれと渇望、そのはざまで揺れながら製作していた初期のアルバムには、現在では絶対に書けないようなタイプの名曲もたくさんありますが、トータルとしてある種の中途半端さを持っています。しかしそれは逆にいえば、本人の才能の大きさによるものといってもいいでしょう。しかしアルバム「HOME BOUND」でつかんだロックの感触から、余計な要素をすべてそぎ落とし、作風を一気にロック方向にシフトチェンジし、その決意表明のファンファーレのように強力なリフを炸裂させたのが名盤「愛の世代の前に」です。以降傑作ライヴ盤「ON THE ROAD」におけるこのヴァージョンを超えることは本人ですら二度と出来ないであろう奇跡の名演「路地裏の少年」、自身の突き上げるこぶしは心の暗闇であると言い放ってしまった「FATHER’S SON」における衝撃の「少年の夏」等、日本のロックが誇るべき名曲もたくさんありますが、何より名盤「PROMISED LAND」以降、自身のパブリックイメージを全て背負って現在までに走り続けているその姿にはある種壮絶なものさえ感じます。音楽のスタイル伝々ではなく、それこそがロックです。何のタイアップや巨大な宣伝もなく、ほとんどライヴの動員と口コミだけで当時は珍しかった2枚組のアルバム「J.BOY」がチャートのNO.1を独走したことは、そんな彼の活動の結果が形になったものの象徴でしょう。このアルバムのメガヒットは音楽業界に計り知れない衝撃と影響をを与え、以降確実にシーンは変わりました。かつて本人が「5枚目までのアルバムはすべて廃盤にしたい」といっていましたが、ここには現在では絶対に書くことが出来ないようなタイプの名曲がたくさん詰まっています。浜田省吾のセルフカバーにはそこを自身が客観的に理解し、あくまでも現在の自分を投影し再生させようとしているため、原曲にはない、ある種の切なさが漂っています。シングルを発売順に聴いていくと今でもライブで演奏されることの多い「君が人生の時」収録の「明日なき世代」が以降の活動のエポックメイキングな曲であることがわかるでしょう。この曲でつかんだ感触が「HOME BOUND」で爆発していったのです。世代的にも7インチのシングルには特別な感情を持っているであろう浜田省吾のシングルは時代的なアレンジの良し悪しはあれどとにかく名曲のオンパレードです。うるさ型の典型的な音楽評論家、洋楽専門誌ロッキン・オン誌の代表渋谷陽一氏がファンを公言し、そしてなんとあの山下達郎氏が認める数少ないアーティストの一人でもあります。尾崎豊も影響を受けたことを公言し、常に尊敬の念を語っていました。名曲「ON THE ROAD」で幕をあける近年のライブ映像を見ましたがライブアクトとしてのパワーと会場の圧倒的な支配力が全く衰えていないことに思わずのけぞるような衝撃を受けてしまいました。近田春夫氏も言及していましたがこの現在も続いているビジュアルを含めたロッカーとしての現役感は国内に比較できるような人が思い浮かびません。イメージだけで聴かず嫌いな人にこそ聴いてほしい最強のセットです。