1953年、ジョセフ・グラドによりニューヨーク州ブルックリンで創業されたGRADOは、現在ではヘッドフォンをはじめとする高音質オーディオ製品で広く知られるブランドです。
創業者ジョセフ・グラドは、ティファニーの時計職人としてキャリアをスタートさせました。
1950年代初頭、発展途上だったハイファイ業界と出会い、その流れの中でソウル・マランツと知り合います。
マランツは彼の技術力に深い感銘を受け、グラドをフェアチャイルドへ紹介しました。
グラドは同社の上級エンジニアとしてすぐに抜擢され、ステレオ設計の分野で画期的な「ステレオ・ムービングコイル・カートリッジ」を開発します。
その後、独立を決意した彼は2000ドルをかき集め、自宅のキッチンテーブルでモノラル・カートリッジの制作を開始。趣味の愛好家に直接販売し始めました。そして1955年、父親が営んでいた食料品店跡に工場を構え、グラド・ラボラトリーズを正式に設立します。同年、初の自社ブランド・カートリッジをレナード・ラジオへ納入したことが、GRADOの歴史の大きな一歩となりました。
ムービングコイル自体は古くから回転型・リニア型の両モーターで用いられていましたが、ジョセフ・グラドはこれをフォノカートリッジに応用。1950年代後半には世界初となるステレオ・ムービングコイルの特許を出願し、1960年前後に承認されたと記録されています。
生涯で48件以上の特許を取得した彼は、ステレオ・ムービングコイル・フォノカートリッジの発明者として、現代オーディオ史における最も革新的な人物の一人と位置づけられています。
今回出品する GRADO F28D Constant Impedance MC Transducer Cartridge は、同社が初期にハンドメイドで製造していた歴史上非常に貴重なモデルです。
GRADO初期モデルのみに採用された樹脂製のカンチレバーにヘアライン仕上げのシールドカバー、そして黒いボディーの上面にも機械式時計のムーブメントに見られるようなコートドジュネーブ装飾に似た仕上げが施されているのは元時計職人としての彼のこだわりを感じる部分です。
そのカートリッジ自体の史料的価値に加え、動作確認の取れた個体が市場に出ることは極めて稀です。
音色の傾向としては同時代のFairchild 225 が最も近く感じられますが明らかに違うのは陰影の深さかもしれません。
Fairchildに比べ音のバックグラウンドにより奥行が感じられ、同じレコードをGRADOで聴くとその訴求力の高さに知らず知らずのうちに引き込まれてしまいます。
この時代のカートリッジは同じブランド・モデルでも個体差が大きく一概には評価できないといった難しさがあります。
MC型ですが一般的なMCカートリッジよりも出力がありますので、ある程度ゲインの高いフォノEQやプリアンプであればそのままMM入力でも使用が可能です。
スタイラスはオリジナルのヌード針です。
実体顕微鏡で検査しましたが先端部の光の反射状態から摩耗はないと判断しました。
主なスペック
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発電形式:MC型
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再生周波数帯域:18~28,000 Hz
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出力:6 mV(@ 10 cm/sec)
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インピーダンス:600 Ω
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適正針圧:3~7g
付属品
到着後すぐに動作確認が行えるよう、画像のとおりシェルに取り付けた状態で発送いたします。