鈴木信太郎（1895年8月16日－1989年5月13日）は東京都八王子生まれの洋画家で、日本芸術院会員・文化功労者。白馬会洋画研究所で黒田清輝に師事し、織物図案を学んだのち、油絵に専念。第10回文展で初入選し、第9回二科展以降、石井柏亭に学び、樗牛賞受賞後、二科会会員となる。1955年に退会し、野間仁根らと一陽会を結成。1960年日本芸術院賞受賞、1973年文化功労者顕彰。独学で伝統的な絵画観にとらわれず、果物、花、人形などの静物や風景を描き、線遠近法を用いず画面をモチーフで満たし、明澄で豊麗な色彩を特徴とする童画風の陽気で詩的な作風を示した。武蔵野美術大学・多摩美術大学教授として後進を指導し、著書に『阿蘭陀まんざい』『美術の足音 今は昔』がある。1982年、1986年に回顧展が開催され、1990年には遺作展が行われた。

鈴木信太郎「熱海風景」油彩 12号 大作
本作「熱海風景」は、文化功労者・鈴木信太郎が持ち味とする明澄で豊麗な色彩感覚と、童画風の詩情あふれる構図が際立つ一枚です。画面手前には紫や青で力強く描かれた幹と枝が大きく伸び、その間から、紺碧の海と岬、そして明るい色彩の建物が点在する熱海の海岸線が望まれます。丘陵地からの視点で切り取られた景色は、海と山と街が一体となる熱海特有の地形を的確に捉え、陽光に包まれた開放感を伝えています。赤と白の屋根や白い小舟など、随所に遊び心ある色彩が配され、画家の喜びと生命感あふれる視線が感じられます。線遠近法に縛られず、画面いっぱいにモチーフを配置することで、豊かな自然と人の営みが調和する情景を、明るく伸びやかな筆致で描き上げた秀作です。