遠藤彰子（1947年東京都生まれ）は、武蔵野美術大学短期大学油絵科卒業後、1972年に女流画家協会展でマツダ賞を受賞し画家としてデビュー。「楽園」シリーズを開始し、1978年に昭和会展で林武賞を受賞、1986年には「街」シリーズの《遠い日》で安井賞を受賞し高い評価を得る。1990年、二紀展で文部大臣賞受賞。1999年に武蔵野美術大学教授に就任し、2017年には名誉教授となる。2004年には府中市美術館、2014年には上野の森美術館で個展を開催。2007年に芸術選奨文部科学大臣賞、2014年に紫綬褒章を受章。作風は、初期は素朴で童画的な「楽園」シリーズを展開し、70年代後半から「街」シリーズで都市の躍動感を描く。1989年以降は500号単位の超大作を制作し、多視点構図や螺旋構成を追求。2000年代以降は1000号、1500号の大作を発表し、壮大な物語性と圧倒的なスケール感を特徴とする。

遠藤彰子 油彩 10号
遠藤彰子の本作では、愛らしい少女と猫の姿が印象的に描かれています。少女は床に座り込み、頬杖をつきながら物憂げな表情を浮かべています。その傍らには黒い猫が寄り添い、どこか鋭いまなざしでこちらを見つめています。二人の間には静かな親密さが感じられ、孤独と安心感が交錯する独特の雰囲気が漂っています。 作品全体に施された緻密な筆致と、鮮やかながらも柔らかい色彩が特徴的です。少女の服や帽子には暖色系の色が重ねられ、背景の青みがかった木壁や幾何学模様の床とのコントラストが、画面に奥行きを与えています。この独特の色使いと質感の豊かさは、遠藤彰子の初期作に見られる「楽園」シリーズにも通じるものがあり、童画的な優しさと、どこか幻想的な世界観を醸し出しています。

遠藤は、のちに超大作へと移行し、多視点構図や螺旋構成を駆使した壮大な物語性を描くようになりますが、本作のような作品にも、彼女の持つ深い洞察力と表現力が感じられます。少女と猫が寄り添う姿には、遠藤の作品に共通する「生きることへの眼差し」と「日常の中の静かな詩情」が込められており、観る者の心に温かい余韻を残す一枚です。