浮田克躬（1930年2月17日生まれ、1989年没）は、東京都杉並区出身の洋画家で、一水会会員および日展評議員を務めました。幼少期に母方の祖父である浮田和民に育てられた後、東京美術学校油画科に進学し、安井曽太郎や伊藤廉に師事しました。1950年に新制作派協会展で初入選し、その後、一水会や日展で多くの受賞歴を重ねました。特に1958年には「丘の工場」で日展特選を受賞、1967年には「サンマルタン水路」で再び特選を受賞しました。また、西欧や中南米を旅し、その風景を堅牢な構築性と重厚なマチエールで描いた作品が高く評価されました。1986年に「城砦の島」で第4回宮本三郎記念賞を受賞するなど、鋭利な構図と色彩感覚が特徴的な風景画家として知られました。享年59歳。

浮田克躬「入江の集落」油彩 4号 1981年作
本作《入江の集落》は、洋画家・浮田克躬が1981年に描いた油彩作品であり、彼の画業における成熟した構築性と重厚な絵肌（マチエール）が際立つ一枚です。画面には、穏やかな入江に臨む丘陵の斜面に、赤い屋根の家々が密集して広がる情景が描かれ、中央の高台には中世の城砦を思わせる石造りの塔が静かにそびえ立っています。海と陸、自然と人の営みが調和しながらも緊張感を持って共存するその構図は、浮田作品の特徴である「堅牢な構築性」を如実に示しています。絵具を厚く塗り重ねた筆致は、建物や大地に独特の質感と存在感を与え、陽光の下に照らされた村落の生命感を感じさせます。赤褐色の屋根や黄土色の地面、深い緑の木立といった色彩の調和は、画家が旅の中で体得した土地の空気と記憶を反映しており、単なる写実を超えた叙情性を湛えています。

浮田克躬は、西欧や中南米を旅しながら各地の風景をモチーフに制作を続け、視覚的な印象のみならず、そこに息づく時間や文化の層までも描こうとした画家です。この《入江の集落》もまた、異国の風景を題材としながら、その奥にある普遍的な人間の営みへのまなざしが感じられる作品です。構図の巧みさ、重厚な色彩、緊張と静寂が同居する画面づくりにより、本作は浮田克躬の画業の精髄を体現する風景画のひとつといえるでしょう。