1969年の創案以来,簡便ながら診断的にも治療的にも深く幅広い適用範囲をもつと評価され,精神科臨床,心理臨床で注目を集める技法の全貌。

「風景構成法」とは、現神戸大学医学部精神科教授中井久夫氏の創案になる全く新しい心理テストである。

これは、氏の「なぐり描き法」の実践(細木照敏、現日大教授から、ナウムブルグの方法の紹介を受け、自らのアイデアで工夫をこらして試みておられた)で患者がしばしば、外側を囲うような描線から始めて、だんだんと中心へ向かうという経験に、河合隼雄(現京大教授)氏の紹介導入された大変ユニークな治療法である「箱庭療法」(The Sandplay Technique,1965.)の話を聞かれた、一九六九年の第一回芸術療法研究会(徳田良仁氏による、現在の日本芸術療法学会の前身)直後にひらめいた「枠づけ法」を基礎にして、分裂病者の箱庭療法への適用可能性をめぐって考案されたものであり、それはやはり一九六九年のことであったと思われる。
箱庭療法における、いわば「退行」を促しやすい砂の上で、これまた「退行」を起こしやすい玩具類を用いて作品を作るという、児童や神経症者にとっては、まさにその点において治療的でありうることが、分裂病者においては、かえって非治療的になる可能性があることを見抜いた中井氏は、これを三次元空間から二次元平面に次数を下げ、先に述べたように川、山、田、道、家、木、人、花、動物、石などといったアイテムを順次述べて、「風景」を構成させる、ということで、箱庭のもつ侵襲性を減じ、かつ、誰にでも、全く同じ導入法で追試可能とすることにより、後続する者にとっては、まことに簡単な用具(画紙とサインペンとクレパス)と方法とで可能となった本法は、実に単純なもののごとくに思われるかもしれないが、アイテムの配列一つをとってみても、なかなかのシロモノであり、事実、これまでの私の十年に至る臨床の場での実際経験からいって、ロールシャッハ法に勝るとも劣らぬ卓越した方法であることが確信されるのである。(「風景構成法」事始めより)