中畑艸人（なかはた・そうじん／Sojin Nakahata、1912-1999）は和歌山県生まれの洋画家で、和歌山県師範学校を卒業後、硲伊之助に師事。1933年に帝展に初入選し、1946年に一水会会員となる。1953年には一水会展で会員優賞を、1955年には第11回日展で特選を受賞。1964年以降はたびたびヨーロッパを訪れ、馬を主題にした躍動感あふれる作品世界を確立した。1968年には鴨居玲らと具象画団体「赫土会」を結成し、大阪中央公会堂の椴帳原画や、1975年には那智山青岸渡寺三重塔の壁画を制作。一水会常任委員を務めるほか、中央競馬会馬事文化賞の選考委員も歴任した。代表作を集めた作品集『優駿讃歌・中畑艸人作品集』（1990年）も刊行されている。1999年に87歳で逝去。

中畑艸人「丘」油彩 20号 大作
赤く染まる空と緑に覆われた大地、その境界に立つ切り立った崖の上に、互いに寄り添う二頭の馬。その周囲には、夕焼けを駆けるように群れが走り、空気全体に生命の息吹が満ちています。本作《丘》は、生涯を通じて「馬」に魅せられ、その存在を主題とし続けた洋画家・中畑艸人の代表的なモチーフを力強くも詩的に描き上げた一作です。画面中央の白馬と黒馬は、対照的な色彩ながらも深い絆を感じさせ、まるで自然界における陰と陽、静と動を象徴するような神秘的な調和を見せています。彼らが立つ崖は孤高でありながら、どこか安らぎのある舞台。背景に広がる鮮烈な夕景は、画家特有の大胆な筆致と厚みのある色彩で描かれ、まるで心象風景のように見る者の内面に訴えかけてきます。

疾走する馬たちの姿は、単なる動物の動きにとどまらず、自由への憧れや人間の根源的な情動を投影しているかのようです。中畑は、写実に留まらず、馬という存在に人間の精神性や時間の流れすらも重ね合わせていたことが、この作品からも明確に感じ取れます。1933年の帝展初入選以来、一水会や日展などで数々の受賞を重ね、1960年代以降はヨーロッパでの研鑽を経て、独自の馬の世界を確立した中畑艸人。彼の作品に共通するのは、対象への深い愛と洞察、そして「動」の中に宿る「静」の美しさです。《丘》は、そうした画家のまなざしと美意識が凝縮された一枚であり、観る者を自然と生命の根源へと誘う、雄渾かつ抒情豊かな傑作です。