高田博厚（1900年8月19日－1987年6月17日）は、日本の彫刻家。石川県七尾市に生まれ、福井で育つ。1918年に上京し、高村光太郎や岸田劉生と交流しながら絵を学ぶ。東京外国語学校イタリア語科に入学するも中退し、ロダンの影響で彫刻を始める。1927年、大調和展に初出品し、国画会展にも参加。1931年にパリへ渡り、ルオー、ロマン・ロラン、マイヨールらと交友し、サロン・ザンデパンダンに出品。第二次世界大戦中は滞欧し、レジスタンス運動を支援。1957年に28年ぶりに帰国し、東京にアトリエを構え、新制作協会会員、日本美術家連盟委員、日本ペンクラブ理事を務める。1964年に鎌倉に転居。敬虔なクリスチャンであり、ガンジーとの親交を深め、無償で彼の像を制作するなど求道的な生涯を送る。代表作にはロマン・ロラン、ルオー、川端康成、武者小路実篤の肖像があり、知的で詩情あふれる真摯な写実を追求。著書に『人間の風景』『薔薇窓から』などがある。

高田博厚「Femme alongee」1972年作 大型作品 ブロンズ 高さ37cm
高田博厚（1900-1987）による本作品は、1972年に制作された貴重なブロンズ彫刻です。本作はフランス語で「横たわる女性」という意味を持ち、女性のしなやかな曲線美と静謐な精神性が見事に表現されています。この作品は、緩やかに体を傾け、片腕を肘掛けに添えながらくつろぐ女性の姿を捉えています。流麗なフォルムと滑らかな造形は、高田が長年にわたって培ったフランス美術の影響を感じさせると同時に、日本人ならではの繊細な感性が息づいています。まるで思索にふけるかのような落ち着いた表情は、単なる肉体美の表現を超え、精神的な奥行きをも感じさせます。

高田は、1931年にパリへ渡り、ルオーやマイヨールといった芸術家たちと交友を深めながら独自のスタイルを確立しました。特にマイヨールの影響を受けた滑らかな人体表現が本作にも反映されています。また、彼は敬虔なクリスチャンであり、ガンジーの肖像彫刻を無償で制作するなど、思想家としての側面も持ち合わせていました。本作にも、そのような精神性が静かに息づいています。本作は、ブロンズの持つ温かみのある質感が活かされており、光の当たり方によって異なる表情を見せます。表面のなめらかな仕上げと微妙な陰影が、女性の柔らかな肉体の美しさを際立たせています。また、大理石の台座による安定感が、作品にさらに洗練された雰囲気を与えています。

1972年は、高田が日本に帰国して15年ほど経ち、鎌倉に拠点を移して創作活動を本格化させた時期にあたります。この時期のブロンズ彫刻は市場にも多く出回っておらず、その希少性からも価値の高い作品といえます。さらに、高田の作品の中でも、女性の全身像を題材にしたものは比較的少ないため、本作は特に貴重な存在といえるでしょう。高田博厚の芸術的円熟期に生まれた、優雅で静謐な美を湛えたブロンズ彫刻です。西洋彫刻の流れを汲みながらも、日本的な精神性が融合した本作は、彼の求道的な芸術観を体現する名作のひとつです。その佇まいからは、ただ美しいだけではなく、時代を超えて静かに語りかけるような深い魅力が感じられます。