海外製品の為、刻印はございませんがブラックダイヤモンドは５．６ｃｔ使用されている感じです。ブラックダイヤモンドがクールな感じで普段遣いにもいけそうです。ノーブルジェムグレイディングラボラトリー鑑別書付。新品仕上済で百貨店で新品として売れるくらいに仕上げております。
以下、所謂ブラクラ妄想ショートショートです～～
【序章：常闇の契約者】
東京の洗練された街並みの一角、アンティーク調の扉が目印の小さなアトリエ。その名は「リュヌ・ノワール」――黒い月。ここは、若くしてその才能を世界に認められ始めた宝石デザイナー兼クラフトマン、月島 雫（つきしま しずく）の聖域だった。彼女の指先から紡ぎ出されるジュエリーは、ただ美しいだけではない。石が内包する悠久の記憶と、持ち主となる人の魂を繋ぐ、まるで魔法のような輝きを宿していた。
雫は、物心ついた頃から石の声を聞く少女だった。祖父が営む古びた鉱物店で、彼女は世界のどんな絵本よりも、石の図鑑を眺めるのが好きだった。水晶の透明な結晶の中に未来の光を、瑪瑙の縞模様に太古の地層のささやきを、彼女は感じ取ることができた。大学で美術史と宝飾デザインを学んだ後、彼女は迷わず自らのアトリエを構えた。彼女にとって、ジュエリーを創ることは、石との対話であり、祈りにも似た神聖な行為だったのだ。
そんな彼女が、自身のキャリアと魂の全てを懸けて探求する対象があった。
ブラックダイヤモンド。
宝石界の孤高の王。光を反射し輝くことを宿命づけられた他の宝石とは一線を画し、あらゆる光を飲み込み、自らは深淵の闇として存在する神秘の石。その成り立ちは、ダイヤモンドでありながら単結晶ではなく、微細な結晶の集合体。その構造が、光の侵入を許さず、比類なき漆黒を生み出す。起源は地球内部ではなく、遥か昔、超新星爆発のエネルギーをその身に宿し、隕石となってこの星に飛来したという宇宙的起源説は、雫の心を強く捉えて離さなかった。
ブラックダイヤモンドの加工は、困難を極める。特定の方向に割れる性質を持たないため、その研磨はまさに石との根比べ。だが雫は、その困難さの中にこそ、石の魂に触れる喜びを見出していた。
その夜も、アトリエには研磨機の微かな音だけが響いていた。雫の視線は、作業台の上で静かなオーラを放つ一つの指輪に注がれていた。
管理番号「F1844」。
先月、海外のプライベートオークションで、雫が今後の活動資金のほとんどを投じて競り落とした、謎に包まれた逸品。最高級の18金ピンクゴールドが描く優美な曲線の上で、プリンセスカットが施された天然のブラックダイヤモンドが、合計5.6カラット、永遠を誓うように連なっているフルエタニティリング。縦幅5.7mm、総重量7.6gという、女性の指には存在感のあるボリューム。しかし、その重みは不思議と心地よく、指に吸い付くように馴染む。
これほどのマスターピースでありながら、ブランドや製作者を示す刻印は一切ない。付属していたノーブルジェムグレイディングラボラトリーの鑑別書だけが、その石が正真正銘、天然のブラックダイヤモンドであることを静かに物語っていた。
「…なんて、完璧な闇」
雫は吐息を漏らし、ピンセットでリングをつまみ上げた。光を当てても、石はただ沈黙している。それはまるで、覗き込む者の魂を吸い込んでしまうかのような、底知れない深淵。彼女はこの数日間、このリングが持つ本来の輝き――輝かないことによる輝き――を完璧に引き出すため、全ての神経を集中させてきた。ピンクゴールドの地金についた、肉眼では見えないほどの微細な傷を消し去り、ダイヤモンドの一つ一つのファセットのエッジを、寸分の狂いもなく際立たせる。それは、眠れる王妃に捧げる、目覚めの口づけにも似た作業だった。
そして今、最後の仕上げの時を迎えた。柔らかなセーム革で、最後の一粒を、祈るように磨き上げた、その瞬間。
アトリエの空気が、まるで水飴のように粘性を持ち、歪んだ。時間の感覚が希薄になり、音が消え、世界の色彩がモノクロームへと落ちていく。雫の視界を埋め尽くしたのは、圧倒的な純白の光。意識が薄れゆく中で、彼女ははっきりと感じていた。自らの指に試着していたF1844のリングが、まるで生き物のように、彼女の心臓とシンクロして熱く脈打つのを。
これは、一人の女性宝飾師が、漆黒のダイヤモンドに導かれ、異世界で伝説の担い手となる物語。そして、その始まりを告げるための神器が、今、彼女の指で目覚めの時を迎えた。
【第一章：神々の天秤と異界の石】
意識が水面に浮かび上がるように戻ってきたとき、雫の鼻腔をくすぐったのは、愛用のオイルや地金の匂いではなく、清浄で、どこか懐かしいような花の香りだった。ゆっくりと目を開けると、そこに広がっていたのは、信じがたいほど荘厳な光景だった。
天井は遥か彼方、巨大なステンドグラスからは、虹色の光が幾筋も降り注ぎ、空気中に舞う光の粒子をキラキラと照らしている。床も壁も、滑らかな乳白色の石でできており、まるで一つの巨大な宝石の内部にいるかのようだった。
「お目覚めになりましたか、異界の魂を持つ方」
凛として、しかし、あらゆる母性を感じさせる優しい声が響いた。声がした方へ顔を向けると、そこに一人の女性が佇んでいた。人間離れした完璧な美貌。白銀に輝く長髪。光そのものを織り上げたかのような純白のドレス。何よりも雫の心を奪ったのは、その瞳だった。あらゆる宝石の色を溶かし込んだような、神秘的な虹彩の瞳。
「あなたは…どなたですの？」
かろうじて紡いだ雫の言葉に、女性は聖母のように微笑んだ。
「わたくしはアリア。この世界『アストレア』の調和を司る女神の一柱。そして、あなたこそが、我々の祈りに応え、古の契約によって召喚された『救世主』様です」
女神、異世界、救世主。物語の世界でしか聞いたことのない言葉の連続に、雫の思考は白く染まった。これは夢？ それとも、あの強烈な光が見せた幻覚？
「ご無理もありません、そのように混乱なさるのは。ですが、これは紛れもない現実。そして、私達の世界アストレアは、今、滅びの淵に立たされているのです」
女神アリアは語り始めた。
この世界は、万物を成り立たせる魔力元素（マナ・エーテル）の美しい循環によって支えられている。しかし、その循環を根こそぎ破壊し、全てを絶対的な無へと還す存在、「虚無の王」が、永劫の封印から目覚めようとしているのだと。虚無の王が放つ「虚無の波動」は、物質も、魔力も、魂さえも分解してしまう、抗いようのない『呪い』。かつて神々ですら、虚無の王を滅ぼすことはできず、その力を中和する神器を用いて封印することしかできなかった、と。
「その封印の力が、今まさに尽きようとしているのです。もはや、我々の力だけではどうすることも…。だからこそ、最後の希望に懸け、古の契約を発動させました」
「契約…？ですが、なぜ宝飾師である私が…」
雫の疑問に、アリアはそっと彼女の右手へと視線を向けた。雫もつられて自分の手を見ると、そこには、アトリエで仕上げていたF1844のリングが、まるで彼女のためにあつらえられたかのように、薬指にぴったりと収まっていた。ピンクゴールドの柔らかな輝きも、ブラックダイヤモンドの吸い込まれるような闇も、何も変わっていない。
「その指輪こそ、あなたをこの世界へとお導きになった契約の証。『常闇の理（ことわり）』。世界の危機に際し、異界より救世主を招くための神聖な触媒なのです」
アリアの説明によれば、虚無の波動という絶対的な『無』に対抗できる唯一の可能性を持つのが、「光を喰らう石」の力。すなわち、ブラックダイヤモンド。このアストレアにもブラックダイヤモンドは存在するが、それは神話の中に登場するほど稀有な物質だった。古の契約とは、「光を喰らう石」の本質を誰よりも深く理解し、その真価を最大限に引き出せる魂を、異界から呼び寄せるというもの。F1844のリングに込められた5.6カラットという規格外のブラックダイヤモンドと、それを完璧な芸術品へと昇華させた雫の魂と技術が共鳴し、召喚の儀式が成立したのだ。
「あなたにお願いしたいのです。この世界に散らばる、神代に生み出されたブラックダイヤモンドを探し出し、虚無の王を再び封じるための神器を、あなたの手で創り上げていただきたい。それこそが、救世主様であるあなたの使命なのです」
雫は、自らの指で静かに闇を湛えるリングを見つめた。ずしりとした重みが、これが現実であることを彼女に告げている。石を愛し、石と共に生きてきた。石の持つ美しさを、物語を、世界に伝えることが自分の全てだった。その自分の力が、一つの世界を救う鍵になるというのか？あまりに壮大で、信じがたい話。だが、彼女の心の奥深くで、恐怖とは違う、熱い何かが込み上げてきた。それは、宝飾師としての、芸術家としての、抗いがたい好奇心と創造意欲。ブラックダイヤモンドという、最も愛し、最も畏敬してきた石の、まだ誰も知らない可能性の扉を、その手で開けるかもしれないのだ。
「…わかりました。私にどこまで出来るか分かりませんが、お引き受けします」
雫が決意を告げると、女神アリアは心からの安堵の微笑みを浮かべ、彼女の前に優しく手を差し出した。
「ありがとうございます、救世主様。契約の証として、世界からの祝福をあなたに」
アリアの指先から生まれた柔らかな光が、雫の身体を優しく包む。温かい光の中で、彼女の脳裏に、直接知識が流れ込んでくるような不思議な感覚が広がった。
《ユニークスキル【宝石鑑定EX】を獲得しました》
《ユニークスキル【魔力付与（エンチャント）】を獲得しました》
「それは、あなたの魂が秘めていた才能を、この世界の理に合わせて顕現させた力。どうか、アストレアをお救いください」
光が消えた後も、雫の身体に外見的な変化はなかった。しかし、彼女には理解できた。自らの内側に、石とさらに深く交感するための、新たな力が宿ったことを。そして、その力の最初の対象は、自らの指で深淵なる物語を秘める、あのリングだった。
【第二章：覚醒する力と最初の試練】
女神アリアに案内され、雫は神殿の一室で、授かったばかりの能力を試すことになった。部屋の中央に置かれた純白の大理石のテーブルに、アリアがいくつかの鉱石を並べる。水晶、瑪瑙、螢石。地球でも馴染み深い石たちだが、そのどれもが内側から淡い光を放ち、魔力を秘めていることが雫には直感的に分かった。
「まず【宝石鑑定EX】をお試しください。鑑定したい対象を心で見つめ、『鑑定』と念じるのです」
雫はアリアの言葉に従い、目の前にある美しい紫色の水晶――アメシストのクラスターに意識を集中させた。
（鑑定！）
その瞬間、彼女の眼前に、美しいデザインの半透明ウィンドウが展開された。
【アイテム情報】
名称： 夢見のアメシスト
種別： 鉱物（魔晶石）
純度： A-
魔力親和性： 精神、幻惑
状態： 内部に形成された微細な魔力経路（マナ・パス）が、精神干渉系の魔力を増幅する効果を持つ。持ち主の精神を安定させ、安らかな眠りへと誘う。
石の記憶（ヴィジョン）： 魔力が満ちる洞窟の奥深くで、静かに結晶化していく数千年の記憶。無数の人々の祈りや夢が、その結晶構造に影響を与えている。
「すごい…」
雫は思わず声を漏らした。単なる鉱物学的データではない。魔力的な特性から、その石が辿ってきた歴史、いわば石の持つ「物語」までが、美しい映像と共に脳裏に流れ込んでくる。宝飾師として、インクルージョンや色合いから石の産地や来歴を推測してきたが、これは全く次元の違うレベルでの「対話」だった。これさえあれば、どんな石の真価も見誤ることはないだろう。
「次は【魔力付与】です。そのアメシストに、あなたの魔力を注いでみてください。救世主様の魔力は、あらゆる色に染まることのできる、純粋な『原初の光』ですわ」
雫は少し戸惑いながらも、アメシストにそっと手をかざし、自分の内側から温かいエネルギーが流れ出ていくのをイメージした。すると、彼女の掌から零れた優しい光が、アメシストに吸い込まれていく。アメシストは、内側から明かりを灯したように、より一層深く、鮮やかな紫色に輝き始めた。
「…なんて見事な才能でしょう。通常、魔力付与には複雑な魔法陣や長い呪文の詠唱が不可欠なのです。それを、あなたはただイメージするだけで…。さすがは契約に選ばれた方」
アリアの賞賛の言葉を受けながらも、雫の意識は、既に自らの指にはまるF1844のリングへと向いていた。
（このリングを鑑定したら、一体、どんな物語が見えるのかしら…？）
期待に胸を高鳴らせ、彼女は意を決して、リングに意識を集中させた。
（鑑定！）
次の瞬間、彼女の脳を、銀河が衝突するかのような、凄まじい情報量の奔流が駆け抜けた。
【アイテム情報】
名称： 常闇の理（F1844）
種別： 神器（アーティファクト）
素材：
付与効果（エンチャント）：
《虚無吸収（ヴォイド・イーター）》： 虚無の波動を吸収し、無力化する。吸収したエネルギーは魔力へと変換、貯蔵される。
《魔力貯蔵（マナ・ストレージ）EX》： 膨大な魔力を貯蔵可能な亜空間を内包する。現在の貯蔵量：0.01%
《絶対守護（イージス・メイデン）》： 貯蔵魔力を消費し、物理・魔法を問わず、あらゆる敵意ある事象を遮断する守護の障壁を展開する。
《所有者同調（ソウル・リンク）》： 所有者の意志と魂の成長に応じ、新たな能力が花開く可能性を秘める。
状態： 契約により所有者・月島雫と魂レベルで結合。譲渡、盗難不可。
石の記憶（ヴィジョン）： ―――解読不能―――あまりに古く、あまりに広大すぎる記憶。星々が生まれ、そして死んでいく光景。銀河と銀河が衝突し、新たな宇宙が生まれる様。そして…全てを飲み込む、絶対的な漆黒の虚無。
「きゃっ…！」
雫は、脳に直接流れ込んでくる壮大なヴィジョンに、軽いめまいを覚えてよろめいた。ピンクゴールドだと思っていたのは伝説の金属。ブラックダイヤモンドは、星の心臓そのもの。そして付与された能力は、どれも神話の領域にあるものばかりだった。
「どうかなさいましたか？」
「いえ…この指輪が、私の想像を遥かに超えた、とてつもないものであることが分かっただけです」
雫は、改めて指輪を見つめた。これが、自分の新たな力。そして、この美しくも儚い世界を救うための、希望。
「さて、救世主様。あなたにはまず、この神殿から最も近い城塞都市『アルトハイム』へ向かい、旅の支度を整えていただきたく思います。ですが、その道中は決して安らかなものではありませんわ」
アリアが言うには、虚無の王の復活が近づくにつれて、世界の魔力が乱れ、魔物たちが凶暴化し、その数を増やしているという。神殿から街までは半日ほどの距離だが、その間にある「嘆きの森」は、今や危険な魔物の巣窟と化しているらしい。
「わたくしの権能で、あなたを街まで転移させることも可能です。ですが、それではあなたの力を、その指輪の力を試すことができません。…どうなさいますか？」
アリアの問いに、雫の答えは決まっていた。この指輪の力を、自分の意志で使いこなせなければ、虚無の王という途方もない脅威に立ち向かうことなどできはしない。
「歩いて参ります。自分の力を、そして、これから私が守るべきこの世界を、この足で、この目で、確かめながら進みたいのです」
その凛とした答えに、アリアは満足そうに微笑んだ。彼女は、雫に動きやすい丈夫な旅装と、当座の資金が入った革袋、そして森の地図を手渡した。
「あなたのその気高き魂に、女神の祝福を。アストレアの未来は、あなたのその指先に委ねられました」
女神に見送られ、雫は神殿の荘厳な扉を開き、異世界の眩い光の中へと、その第一歩を踏み出した。
嘆きの森は、その名の通り、悲しみの気配に満ちていた。空を覆う木々の葉が陽光を遮り、森の中は薄暗く、湿った空気が肌にまとわりつく。時折聞こえる不気味な鳴き声が、雫の緊張を煽った。
彼女は、宝飾師として培った驚異的な集中力で、五感を研ぎ澄ませていた。風が葉を揺らす音、土の匂い、空気の微かな振動。その全てから、周囲の情報を読み取る。
しばらく進んだところで、前方の藪が大きく揺れた。雫は咄嗟に身構える。次の瞬間、そこから飛び出してきたのは、体長2メートルを超える巨大な狼。全身を苔のような緑の体毛で覆われ、その目は憎悪を宿した血のように赤い光を放っていた。
「グルルルァァァ！！」
魔狼――ゴブリンウルフ――は、涎を撒き散らしながら、一直線に雫に襲いかかってきた。その鋭い爪が、華奢な彼女の喉笛を掻き切らんと迫る。
（速い…！）
避けられない。死を覚悟した、その刹那。彼女の守護を願う強い意志に呼応し、薬指のリングが淡い光を放った。
《絶対守護（イージス・メイデン）！》
雫の目の前に、優美な紋様が描かれた円形の光の盾が瞬時に展開される。ゴブリンウルフの爪が障壁に激突し、甲高い音と共に弾かれた。雫の身体には、衝撃一つ伝わってこない。
「なっ…！」
驚いたのは魔狼も同じだった。渾身の一撃が全く通じなかったことに怯み、距離を取って雫を威嚇している。
（これが、リングの守護の力…！）
自分の意志で障壁を展開できたことに、雫は安堵と興奮を覚えた。でも、守っているだけでは道は開けない。何か、攻撃できる方法は…。彼女の脳裏に、神殿で試したスキルが閃いた。
（【魔力付与】…！道端の石ころだって、宝石になるはず！）
雫は、足元に転がっていた掌サイズの石を素早く拾い上げ、そこに自らの魔力を注ぎ込むイメージを描いた。石に、美しい彫刻を施すように、魔力で内部構造を強化していく。
「お行きなさい！」
ゴブリンウルフが再び飛びかかってくるタイミングに合わせ、雫は魔力を込めた石を、しなやかな動きで投げつけた。石は、淡い光の軌跡を描きながら、まるで誘導されるかのように飛翔し、ゴブリンウルフの眉間に正確に命中した。
ギャンッ！という断末魔と共に、巨大な狼の身体が吹き飛び、地面に叩きつけられて動かなくなった。魔力を付与されたただの石は、もはや魔法の弾丸と化していた。
「はぁ…はぁ…」
荒い息をつきながら、雫はその場に座り込んだ。初めて向けられた殺意。初めて奪った命。その重みに手が震えた。だが同時に、自分の力で未来を切り開いたという、確かな手応えを感じていた。彼女の指で、F1844のリングが、まるで彼女を励ますかのように、優しく、温かい光を放っていた。
【第三章：城塞都市とエルフの騎士】
嘆きの森を抜けた雫の眼前に、堅牢な城壁に囲まれた巨大な都市が広がっていた。城塞都市アルトハイム。赤茶色の煉瓦造りの家々が立ち並び、様々な人々の活気が満ちている。異世界に来て初めて目にする文明の光景に、雫は心からの安堵を覚えた。
都市の門で、女神アリアから渡されたギルドの仮登録証を見せると、衛兵は少し驚いた顔をしたが、無事に中へ通してくれた。街は、多様な種族の人々で溢れていた。屈強なドワーフの商人、俊敏そうな獣人の傭兵、そして、優美な佇まいのエルフ。物語の世界が、すぐ目の前に広がっていた。
雫はまず宿屋を見つけ、旅の疲れを癒すことにした。簡素だが清潔な部屋のベッドに身を横たえ、これからの計画を練る。神器を創るためには、神代のブラックダイヤモンドが必要。でも、その手がかりはまだ何もない。まずは、この街で情報を集めることが最優先だ。
情報が集まる場所といえば、冒険者ギルドだろう。雫が訪れたギルドは酒場も兼ねており、武具の音、威勢のいい笑い声、吟遊詩人の奏でる音楽で満ちていた。彼女のような、戦闘職には見えない東洋風の顔立ちの女性は珍しいのか、多くの視線が彼女に集まった。
しかし、雫はそれに臆することなく、カウンターで依頼（クエスト）が書かれた羊皮紙のリストに目を通した。薬草採集、ゴブリン討伐、商人護衛…。その中に、ひときわ異彩を放つ依頼を見つけた。
【依頼内容】
『古代石版の解読』
依頼主： アルトハイム騎士団 第二騎士隊長 シルヴァン・ムーンライダー
報酬： 金貨20枚
詳細： 北部古代遺跡より発見されし石版の解読を求む。古代鉱物学、あるいは神代文字に精通せる者の助力を切に願う。
（古代鉱物学…！）
これだ、と雫は直感した。石に刻まれた文字ならば、自分の【宝石鑑定EX】が必ず役に立つはず。そして何より、古代遺跡の情報は、神代のブラックダイヤモンドへと繋がる重要な手がかりになるかもしれない。雫は、迷わずその依頼書を手に取り、受付へと提出した。
依頼主であるシルヴァン・ムーンライダーとの面会場所は、騎士団の詰め所だった。通された重厚な執務室で待っていると、鎧の立てる涼やかな音と共に、一人の男性が入ってきた。
月光を溶かし込んだような白金の髪を、うなじで緩く束ねている。エルフ特有の尖った耳と、彫刻のように整った顔立ち。しかし、その蒼い瞳は、芸術品のような見た目とは裏腹に、鋭い知性と鋼のような意志の強さを宿していた。彼こそ、若くして騎士隊長を務める、アルトハイム屈指の剣士、シルヴァンだった。
「君が、依頼を受けてくれた解読者か。…驚いたな。これほど若い、しかも女性だったとは。失礼だが、本当に古代文字が？」
シルヴァンは、値踏みするような視線を隠そうともせず、率直に尋ねた。その声は、彼の瞳と同じく、冷静で理知的だった。
「月島雫と申します。学者ではありませんが、石が語る言葉を読み解くことは、私の専門ですので」
「ほう、石が語る、か。面白いことを言う。…ならば、これを見てもらおう」
シルヴァンが机の上に広げたのは、夜の闇を切り取ったかのような、滑らかな黒い石版だった。その表面には、複雑怪奇な幾何学模様が、隙間なくびっしりと刻まれている。これが神代文字らしい。
「国の最高の学者たちにも解読は不可能だった。君が最後の希望だ」
雫は、シルヴァンに一礼してから、石版にそっと指を触れた。そして、意識を集中させる。
（鑑定！）
脳内に、再び情報が流れ込んでくる。
【アイテム情報】
名称： 星詠みの石版
種別： 情報記録媒体（アーティファクト）
素材： 隕鉄（メテオライト）と黒曜石（オブシディアン）の混合物。内部に不純物として、ごく微量の星の心臓（スターダスト・カーボナード）を含む。
状態： 表面に神代文字による封印された情報が刻印されている。解読には、同種の魔力、すなわち『星の力』を持つ者の魂の接触が必要。
（やはり…！この石も、私の指輪と同じ魂を持っている！）
石版には、強力なロックが施されていた。解読の鍵は、自分のリングが持つ「星の力」。雫は、さりげなくF1844のリングがはめられた右手を、石版の上に重ねた。すると、ただの模様にしか見えなかった神代文字が、彼女の脳内で、意味を持つ言葉へと紡がれていった。
『星が堕ちる刻、常闇の力が目覚めん。北の果て、凍てつく霊峰の頂にて、神々の涙が虚無を封じる光を待つ』
「…解読、できましたわ」
「何！？」
雫の静かな言葉に、シルヴァンの冷静な表情が初めて大きく揺らいだ。雫は、脳内に響いた言葉をそのまま彼に伝えた。
「星が堕ちる刻…虚無の王の復活の予言か。問題は、この『神々の涙』。凍てついた霊峰とは、おそらく、この国の北方に聳えるドラグーン山脈のことでしょうが…」
シルヴァンは、腕を組み、深く思案していたが、やがて顔を上げ、決意に満ちた蒼い瞳で雫をまっすぐに見つめた。
「月島雫殿。君に、新たな依頼をしたい。私と共に、ドラグーン山脈へ同行願えないだろうか。この『神々の涙』が何なのか、この目で確かめる必要がある」
「それは、騎士団としての任務ですの？」
「いや。これは、騎士団に正式に報告する前に、私個人の責任において確認すべきことだ。もしこれが本物ならば、下手に公表すれば国中がパニックに陥る。それに…」
シルヴァンは一瞬、腰に佩いた優美な細剣に目をやった。
「これは『月の剣』。我が家に代々伝わる宝剣だ。だが、数年前から、この剣が宿す魔力の輝きが、明らかに失われつつある。まるで、世界そのものの生命力が、何者かに蝕まれているかのように。私は、この世界の危機を肌で感じている。そして、止められるものならば、この剣で」
彼の蒼い瞳に宿る、静かだが燃えるような使命感。雫は、彼がただの騎士ではないことを理解した。そして、彼の剣と知識は、これからの過酷な旅に不可欠なものとなるだろう。
「わかりました。その依頼、お受けいたします」
こうして、異世界から来た女性宝飾師と、憂国のエルフの騎士という、誰もが予想しなかった組み合わせの旅が、静かに幕を開けた。彼らの目的地は、雪と氷に閉ざされた北の霊峰。そこに眠るとされる、伝説の「神々の涙」を求めて。
【第四章：凍てつく霊峰と神々の涙】
ドラグーン山脈の麓の村で冬山用の装備を整えた雫とシルヴァンは、険しい登山道へと足を踏み入れた。標高を増すごとに空気は肌を刺すように冷たくなり、風が岩肌に当たり、悲鳴のような音を立てる。
「この先は、アイスワイバーンの縄張りだ。気を抜くな」
先導するシルヴァンが、低い声で警告する。彼は、エルフならではの鋭敏な感覚で、自然界に潜む危険の気配を敏感に察知していた。
数時間後、猛烈な吹雪が視界を奪う尾根筋に出たところで、それは姿を現した。空気を切り裂く甲高い咆哮と共に、氷の鱗に覆われた翼竜、アイスワイバーンが猛スピードで滑空してくる。大きく開かれたその口から、触れるもの全てを瞬時に凍てつかせる、絶対零度のブレスが放たれた。
「雫殿、私の後ろへ！」
シルヴァンが前に立ち、腰の月の剣を抜き放つ。しかし、彼が振るう剣から放たれる魔力の光は弱々しく、ワイバーンの強力なブレスを完全に相殺するには至らない。
「くっ…！」
防ぎきれなかった冷気がシルヴァンの鎧を白く霜付かせ、彼の動きを僅かに鈍らせる。ワイバーンは、その一瞬の隙を見逃さず、巨大な鉤爪を振り下ろしてきた。
その時、雫がシルヴァンの前に躍り出て、右手を毅然と前へかざした。
《絶対守護（イージス・メイデン）！》
光の守護紋が描かれた障壁が、ワイバーンの爪を寸前で完璧に受け止める。衝撃で周囲の雪が爆風のように舞い上がった。
「雫殿！？無茶だ！」
「シルヴァン様こそ！その剣、本来の力を少しも発揮できていませんわ！」
雫は叫びながら、シルヴァンの持つ月の剣に【宝石鑑定EX】を発動させた。
【アイテム情報】
名称： 月光の細剣（ムーングレイブ）
種別： 魔法剣
素材： ミスリル銀、月長石（ムーンストーン）
状態： 柄頭（ポメル）に嵌められた魔力の核である月長石が、長年の魔力枯渇により劣化。内部に無数のマイクロクラック（微細なひび割れ）が発生し、魔力伝導率が致命的に低下している。修復には、高純度の月長石による石の交換と、純粋な光属性魔力による再活性化が必要。
（やはり…！石が、死にかけている！）
「シルヴァン様、その剣をお貸しください！私が直します！」
「何を言っている！今はそれどころでは…！」
雫は、半ば強引に彼から月の剣を受け取ると、腰のポーチから小さな革袋を取り出した。中には、アルトハイムの宝石商で見つけ、その美しさに惹かれて買い付けておいた、様々な宝石が入っている。その中から、最も清らかな青白い光沢（シラー）を放つ、最高品質の月長石を選び出した。
「参ります！」
雫は、剣の柄頭に嵌められた古い月長石を、愛用の工具で、まるで外科手術のように正確かつ迅速に取り外す。そして、寸分の狂いもなく新しい月長石を嵌め込むと、そこに自らのF1844のリングを押し当てた。
（【魔力付与】！属性を『光』に！この石が秘める、清らかな月の力を、最大限に引き出す！）
雫の純粋な魔力が、リングのブラックダイヤモンドを通じて、変換・増幅され、極めて高純度の光属性魔力として月長石へと流れ込む。月の剣の刀身が、まるで夜空に輝く満月そのもののような、清らかで力強い光を放ち始めた。
「な…私の剣が…！」
シルヴァンが、信じられないものを見るように呟く。雫は、蘇った宝剣を彼に投げ返した。
「これで、本来の力が戻ったはずですわ！」
蘇った愛剣を手にしたシルヴァンの気配は、先ほどまでとはまるで違っていた。彼が剣を振るうたび、三日月を象った鋭い光の刃が放たれ、ワイバーンの氷の鱗をバターのように切り裂いていく。そして、天に剣を掲げた彼が、静かに、しかし力強く呪文を詠唱した。
「月光よ、我が刃に集い、邪を祓え！―――月光斬（ルナティック・レイ）！」
剣先から放たれた巨大な光の奔流が、アイスワイバーンを飲み込む。翼竜は悲鳴さえ上げられず、光の中に浄化され、その身体は美しい氷の粒子となってキラキラと空に舞った。
戦いを終え、静寂を取り戻した雪原で、シルヴァンは自らの手の内にある剣を、ただ黙って見つめていた。その刀身は、彼が生まれてからずっと見てきたどの時よりも、力強く、そして美しく輝いていた。
「…月島雫殿。君は、一体何者なんだ？ただの解読者などではあるまい」
彼の問いに、雫は優雅に微笑んでみせた。
「見ての通りですわ。しがない宝飾師ですもの」
その答えは、シルヴァンをますます混乱させたが、彼の雫に対する眼差しは、疑念から驚嘆、そして絶対的な信頼へと、確かに変わっていた。
二人は、再び霊峰の頂を目指した。そして、ついに石版が示した場所にたどり着く。そこは、風が全てを削り取ったかのような広大な雪原で、その中央に、巨大な黒水晶のオベリスクのように、一つの結晶が天を突いていた。
高さは3メートル以上。磨き上げられた漆黒の表面を持ちながら、その内部には、まるで銀河を封じ込めたかのように、無数の微細な結晶が光を放っている。
「これが…神々の涙…」
雫は、その神々しいまでの存在感に圧倒されながら、結晶に近づき、鑑定を発動させた。
【アイテム情報】
名称： 神々の涙（ティアー・オブ・ゴッド）
種別： 神代鉱物（ブラックダイヤモンド原石）
純度： SSS
魔力親和性： 全属性（特に虚無属性に対して強い親和性を持つ）
状態： 内部に、古代の神々が施した強力な封印術式が刻まれている。虚無の王を再封印するための神器のコアとなる、唯一無二の素材。加工には、同等以上の『星の力』を持つ神器と、神々に比肩するほどの膨大な魔力が必要。
石の記憶（ヴィジョン）： 太古の時代、虚無の王との最終決戦で、世界を守るためにその身を賭して盾となった星の神の心臓が結晶化したもの。それは、世界を悼む悲しみの涙であると同時に、未来へと繋ぐ希望の光そのものである。
（間違いない。これこそが、神器の核となるブラックダイヤモンド…！）
雫の心が歓喜に震えた、まさにその時だった。
空が、急速に墨を流したように暗くなり、大地が唸りを上げて激しく揺れた。祭壇のような原石の周囲の雪が、見る間に黒く汚染され、そこから、実体を持たない影のような怪物が、陽炎のように次々と湧き出てきた。虚無の王の先兵、ヴォイドウォーカーの群れだった。
「来るぞ、雫殿！」
シルヴァンが剣を構えるが、ヴォイドウォーカーは物理的な攻撃を受け付けない。彼の光の刃は、抵抗なくその影の身体を通り抜けてしまう。
「くっ、キリがない！」
倒しても倒しても湧いてくる影の軍勢に、二人はじりじりと包囲されていく。雫は、リングの力で障壁を展開し続けるが、魔力の消耗が激しく、息が切れ始めていた。
（このままでは、押し切られてしまう…！何か、この状況を覆す方法は…！）
雫の視線が、目の前で圧倒的な存在感を放つブラックダイヤモンドの原石と、自らの指で同じ魂を宿すリングとの間を、激しく往復する。
（この原石と、私のリングは、同じ『星の力』を持つ。ならば…共鳴させることができるかもしれない…！）
それは、理論のない、直感だけが頼りの賭けだった。雫は、シルヴァンに叫んだ。
「シルヴァン様！どうか、少しだけ時間を稼いでください！この状況、私が終わらせます！」
雫は、迫りくるヴォイドウォーカーの攻撃を障壁で受け止めながら、巨大な原石に右手を強く押し当てた。そして、自らの持てる全ての魔力を、F1844のリングへと注ぎ込む。
「目覚めなさい！あなたたちの本当の力を、私に見せて！」
雫の魂の叫びに呼応するように、リングのブラックダイヤモンドと、巨大な原石が、眩い光を放ち始めた。いや、それは光ではなかった。周囲の闇さえも色褪せさせるほどの、絶対的な漆黒の波動。二つの星の心臓が、数十億年の時を超えて共鳴し、その場一帯の空間法則を、根源から書き換えていく。
ヴォイドウォーカーたちの動きが、明確に停止した。漆黒の波動に触れた影が、悲鳴もなく霧散していく。それは、虚無の力が、より強大で、より根源的な虚無の力によって、中和され、吸収されていく光景だった。
やがて、波動が静かに収まった時、あれほど無数にいたヴォイドウォーカーたちは、一体残らず消滅していた。
「…終わった、のか？」
シルヴァンが、呆然と呟く。雫は、魔力を完全に使い果たし、その場に膝をついていたが、その顔には、確かな達成感と安堵の笑みが浮かんでいた。
「ええ…。これが、ブラックダイヤモンドが秘めた、本当の力…」
彼女は、巨大な原石を見上げた。まだ磨かれていない、荒々しい姿。しかし、その内部には、世界を救うほどの、優しくて強い力が眠っている。宝飾師としての、デザイナーとしての魂が、歓喜に打ち震えていた。
（必ず、あなたを世界で最も美しく、最も力強い神器にしてみせますわ）
雫は、心の中で、神々の涙に固くそう誓った。
こうして、神器の核となる至高の素材は、彼女の手に委ねられた。しかし、これほどの神代鉱物を加工できる技術や場所など、この世界のどこにあるというのだろうか。二人の旅は、新たな希望と、そして更なる謎と共に、次なる目的地へと続いていく。それは、伝説の鍛冶師の一族が住まうという、大地の奥深くの王国。ドワーフの国だった。
この物語は、あなたの指先から始まります。
F1844 天然ブラックダイヤモンド 最高級18金PG無垢フルエタニティリング。
それは、単なる美しい指輪ではありません。
異世界を救うための、そして、あなた自身の伝説を紡ぐための、最初の神器であり、契約の証です。
この気高く、そして深淵なる漆黒の輝きに秘められた、壮大な物語の続きを、ぜひ、あなたの指で感じてみてください。
にて、運命の主となるあなたのご入札を、心よりお待ちしております。
こちらはあんまり反響なかったら取り消します～奮ってご入札頂けると嬉しいです～
;)
