ディスク1には1974年8月26日のセッションが収録されている。オープニング・ジングル「One Hand Clapping」にも複数のテイク/バージョンがあり、さらに前後のチャットまで収録されている。「Jet」と「Junior's Farm」などは歌も演奏も非常にラフなRaw Takeを収録。この時代の疾走感あふるる演奏は本当に素晴らしい。それをエフェクトがかかっていないポールの歌唱で聴ける。「Let Me Roll It」はギター音を確認した後に高らかなカウントで始まるRaw Take他、これまたボーカルにエフェクトがかけられていないバージョンを収録。このようなRaw Takeの数々は、まさに目の前で歌っているかのような生々しいボーカルで本作の目玉のひとつであろう。「Little Woman Love」のリハーサル音源ではポールとリンダの会話などと共にスタジオの雰囲気が感じられる。
ディスク2は1974年8月27日のセッションが収録されている。「Band On The Run」のRaw Takeもまた演奏前のスタジオの様子から収録されており、ベース音が極端に大きいのもウイングスの特徴であろう。本作に収録のいずれの曲も、未加工のボーカルがダイレクトにポールの歌唱の魅力を再確認させてくれる。「Go Now」は後のツアーと異なりエレピでイントロが奏でられているのはスタジオならでは。「Bluebird」では演奏前にポールが指示を出している様子、それにリンダがおどけて答えている様子から収録されている。そして有名な未発表曲[Soily」は採用されなかったアウトテイク。「Live And Let Die」のRaw Takeも、他の曲と同じようにエフェクトなしのボーカルにドタバタしたドラムである。
ディスク4は1974年8月30日の「Nneteen Hundred And Eighty Five」のセッション、ラフ・ミックスが2バージョン、その他エフェクトやオーケストラ・パートなどが収録されている。続いて1974年10月1日に行われたオーバーダブ・セッションである。さすがにスタジオにオーケストラを入れるわけにいかず、既にレコーディングした「Live And Let Die」「My Love」「Band On The Run」に別途オーケストラを重ねる様子を聴くことが出来る。面白いのはポールのボーカルが入っていないテイクにリンダとデニーがコーラスを入れているトラックであろうか。二人がひとつのマイクで歌っている様子が目に浮かぶようである。「Bluebird」はあの印象的なサックスをオーバーダブしている音源などを収録。
ディスク5は1974年10月9日に行われたリテイク・セッションを収録。One Hand Clappingのセッション、レコーディングは8月末で一旦は終了したものの、仕上がりに納得が出来なかったのか、10月に入り再び3曲を収録し直している。再録音したのは「Jet」「Soily」「Junior's Farm」の3曲。さらに映像作品用に1974年10月13日には「Baby Face」のブラスバンドのオーバーダブとミックスが行なわれている。またボーナストラックとしてジェフ・エメリックが作成したアセテート音源から「Junio'r Farm」「Jet」「Soily」の3曲を収録している。
どうだろう。1974年8月末に行われたセッションを時系列、曲ごとに収録。さらに10月に入ってからの再レコーディング及びオーバーダブのセッションまで、One Hand Clapping のセッション音源もここに極まれりという感じである。これまでのRECORDING VAULTシリーズ同様、ほとんどが初登場音源、これまで聴けたテイクも曲前後のチャットを含め長く収録している。これぞまさしく、ウイングス・ファンが求めていたタイトルであろう。美しいピクチャー・ディスク仕様の永久保存がっちりプレス盤。