ローファイな無垢(むく)さとハイテクな美の結合を想像してみてほしい(なかなかありそうもないことだが)。ギバードの声は不安げな問いかけに満ちている。普通、こんな歌い方は近ごろのエモ・バンドの憂うつそうなシンガーたちぐらいしかやらない。タンボレロのたてるさまざまな雑音やアナログな物音、薄気味悪い騒音は、近づきがたいベッドルーム・エレクトロニカのそれだ。だが同時にこの2人は、この世ならぬ美しさを漂わせたサウンドの波が寄せては引く中、失恋した人々や胸をチクチクと刺すはかない欲望についての物語をモラルを振りかざすことなく中立的な立場で語っていく。幻惑的なビート、ビタースウィートなコンピュータ・ストリングス、悲劇的に盛り上がるフックをもつ「The District Sleeps Alone」は、もっとも愛情深くなる瞬間にメランコリーをあふれさせる。一方、「Sleeping In」は明るく楽しい白昼夢で、世界がどんなに良くなれるかというナイーブな幻想を歌ったもの。