大型図録本 世界陶磁全集 21 イスラム陶器 イスラム古陶磁 古美術 イスラーム陶器 イスラム美術
写真集 解説 原色カラー図版299点 単色図版209点 やきもの 陶芸 茶道具 茶陶 古陶磁 古美術 陶磁器 アンティーク 骨董 煎茶道具 イラン イラク ペルシャ ペルシア カシャーン レイ ニシャプール 波斯
ペルシア陶器・ペルシア三彩・ラスター彩・ミナイ手・青釉・白釉・イズニーク・タイル 多数掲載
作品集 写真集 写真解説 論文 論考
座右宝刊行会 三上次男 責任編集
小学館
1986年初版第1刷
約31x22.5x4cm
299ページ
カラー図版359点 モノクロ図版 銘款・古文献資料含む210点
函入 カバー付き上製本
※絶版
※月報付き 「ペルシア陶器の技法・装飾について 加藤卓男」本巻執筆者紹介掲載
文化庁協賛 ペルシア陶器に代表されるイスラム陶は、西アジアや地中海沿岸に、はなやかな色彩の饗宴を作り出し、ヨーロッパの焼物にもはかりがたい影響を及ぼした。
イスラーム陶磁を集大成した決定版、大型写真集・大型図録本。
西本巻では、できるだけ現地や世界の最新の研究成果を収録すべく困難な状況の中執筆者・所蔵先の協力およびイラン、エジプト、トルコや欧米の研究者の参加を受け、
世界の名品を選りすぐった今巻は、イスラム陶磁の集大成。
イスラーム世界の輝く色彩とアラベスク
ペルシア三彩・ラスター彩・ミナイ手・青釉・白釉・イズニーク・タイル・ペルシャ・ニシャプール、パルメット樹文、ラスター彩、アモール手、サリー手、ガブリ手、ミナイ手、ラジュヴァルディナ手、スルタナバード陶器、クバチ陶器、トルコ イズニークなどをはじめ、イスラム古陶磁の名品を多数収載。
●原色カラー図版299点
●単色図版209点
●内外研究者の最新の論考を満載
当代の最高権威による論文・解説および関係資料を満載、
その幅広い魅力を総合的・体系的に展開した陶磁研究と鑑賞の基本書。
鉢、皿、碗、水注、壺、瓶、茶碗ほか多数収録、全作品に詳細な解説を付したもの。
古美術・古陶・骨董品等愛好家必携の大変貴重な資料本です。
【全集全体の紹介文】
陶磁の歴史は芸術の面からも、生活のレベルでも人類史と不可分のものです。本全集は世界の陶磁を網羅し、地域別かつ時代別に編集しました。
各巻、カラーおよびモノクロ図版に、専門家による解説、文献目録などをそえた構成。
美術館・博物館所蔵のものに、近年発掘された新中国の古陶磁などを加え、また諸窯の遺品も収録するなど、世界陶磁の決定版全集です。
一つ一つの陶磁に「人類の文化史」を語らせた
今後四半世紀は、実現不可能というべき決定版
世界的に最新資料を集大成した最大規模の決定全集
一万余点の写真資料を駆使、原色図版を豊富に収録
最新発掘の陶片なども、美しいカラーで数多く収録
日本陶磁では特に茶陶を重視、名品を各巻に収めた
各巻冒頭に陶磁文化史を載せ、体系的理解を深めた
【目次】
イスラーム世界の歴史と文化
イスラーム陶器の成立・発展と中国陶磁 イスラーム陶器研究序説
東方イスラーム世界の陶器 ――シリア、イラク、イラン、アフガニスタン、中央アジア
エジプトのイスラーム陶器
エジプト・イスラーム陶器の銘文
トルコのイスラーム陶器
イスラーム陶器の技術――イランを中心に―――
イスラーム陶器とヨーロッパ陶器
イスラーム期イランの陶窯
図版
原色図版・解説
本文挿入原色図版
トランスオクシアナ(ソグディアナ)・イラン・イラク・シリア
エジプト
トルコ
図版解説
エシン・アトゥール 三上次男 谷一尚 オリバー・ワトソン エルンスト・J・グルーベ 杉村棟 ヘレン・フィロン ギョヌル・オネイ ムハンマド・ユースフ・キアニ 川床睦夫
主要文献目録
年表
英文本文目次
英文図版目録
《撮影・資料提供》
逸翁美術館 出光美術館 永青文庫 MOA美術館 大原美術館 岡山市立オリエント美術館 福岡市美術館 五島美術館 中近東文化センター 富山美術館 美術工藝振興佐藤基金 富士美術館 オフィスG 講談社 ブリヂストン美術館 美宝社 佐藤次高 三上次男 杉村棟 宮原正行 本田實信 吉田光邦 ワールド フォト サービス 早稲田大学 アート光村 便利堂 川床睦夫
アドゥヤマン博物館 アマスヤ博物館 アシュモレアン博物館(オックスフォード) ベナキ博物館(アテネ) チニリ・キオスク博物館(イスタンブール) ガルヴァーニ家コレクション デトロイト美術館 民俗学博物館(アンカラ) フィッツウィリアム博物館(ケンブリッジ) フリーア美術館(ワシントンD.C.) ヘッチェンス博物館(デュッセルドルフ) イラン・バスタン博物館(テヘラン) イラク博物館(バグダード) イズニク博物館 コンヤ・カラタイ神学校博物館 ロサンゼルス・カウンティ美術館 ルクソール博物館 ルーヴル美術館(パリ) 市立博物館(ボローニャ) 国際陶磁博物館(ファエンツァ) イスラム美術館(ベルリン) イスラム美術館(カイロ) ビクトリア国立美術館(メルボルン) フィラデルフィア美術館 スコットランド王立博物館(エディンバラ) フランス国立美術館連合写真部(パリ) ウズベキスタン文化・芸術国立博物館(サマルカンド) テウフィク・クヤシュ・コレクション(イスタンブール) シカゴ美術館 大英博物館(ロンドン) クリーブランド美術館 デイヴィッド・コレクション(コペンハーゲン) メトロポリタン美術館(ニューヨーク) ネルソン・アトキンズ美術館(カンザスシティ) ペンシルベニア大学博物館 トプカプ宮殿(イスタンブール) ヴィクトリア&アルバート博物館(ロンドン) ウォルターズ美術館(ボルチモア) アブドゥ・エル=ラウフ・アリ・ユースフ アラステア・ハンター エルンスト・J・グルーベ ギョヌル・オネイ ジョセフ・P・ジオロ ムハンマド・ユースフ・キアニ
【執筆者紹介】(月報に掲載)
本田實信 京都大学文学部長・教授。イラン中世史専攻。「イルハンの冬営地・夏営地」「イスラム世界の発展」他。 佐藤次高 東京大学助教授。イスラーム史専攻。
『イスラム事典』(共同監修) 『イスラム世界の人びと』(共編)「バグダードの仁侠・無頼集団」他。
三上次男 東京大学名誉教授・中近東文化センター理事長。東洋考古学専攻。本巻責任編集者。 『図録ペルシアの陶器」(正・統)『陶磁の道』『ペルシアの陶器』他。
杉村棟 国立民族学博物館助教授。イスラーム美術史専攻。「白釉黒彩文字文の皿」「ペルシアの名開』「The Encounter of Persia with China」(近刊)他。
川床睦夫 中近東文化センター主任研究員。イスラーム考古学・文化史専攻。「フスタート出土のフィルター」「エジプト アル・フスタート遺跡の発指調査」(第五次)他。
岡野智彦 中近東文化センター研究員。イスラーム美術史専攻。「当館所蔵のラスター彩陶片資料について」「四弁形高台を持つラスター彩陶片資料について」「ラスター彩陶器』他。
アブド・アル・ラウーフ・アリ・ユースフ (Abdel-Raouf Ali Youssef) カイロ・イスラーム美術博物館館長。イスラーム美術史専攻。「Fa・ timid Potters and Their Artistic Styles」
FIslamic Art in Egypt』他。
ギョスル・オネイ (Gonul Oney) イズミール・エーゲ大学文学部長・教授。トルコ美術史専攻。『トルコのタイル」 「Anatolian Turkish Minor Arts and Decoration」他。
吉田光邦 京都大学名誉教授。技術文明史専攻。 『中国科学技術史論集』『工芸と文明」「やきもの』 「西アジア採集のガラスおよび釉薬の科学的研究」(共著)他。
エルンスト・グルーベ (Ernst J. Grube) ヴェネツィア大学教授。ニューヨーク・イスラーム芸術財団理事長。イスラーム絵画・陶器專攻。 The World of Islam, Islamic Pottery
in the Keir Collection」他。
ムハンマド・ユースフ・キアニ (Mohammad Yousef Kiani) 大学講師。イスラーム美術専攻。『Iranian Pottery: A General Survey on the Prime Ministry of Iran's Collection』
「Recent Excavations in Jurjan」他。
エシン・アトゥール (Esin Atil) フリア美術館客員研究官。イスラーム美術史専攻。『Ex-hibition of 2500 Years of Persian Art』『Ce-ramics from the World of Islam』他。
谷一尚岡山市立オリエント美術館学芸員。 西アジア考古学・東西交渉史専攻。『エジプト古代ガラス」「中国出土のローマン・モザイク・ガラス」他。
オリバー・ワトソン (Oliver Watson) ビクトリア・アルバート美術館学芸員。イスラーム陶器史専攻。『Persian Lustre Ware』他。 ヘレン・フィロン(Helen Philon) ベナキ博物館イスラーム部部長。イスラーム美術史専攻。 『Early Islamic Ceramics』他。
ヤマンラール水野美奈子 慶応義塾大学講師。 イスラーム美術史専攻。「イスラーム・ミニアチュールの名作から」「イスラーム美術における玉
座像の一考察」他。
甲子雅代 中近東文化センター嘱託調査。イスラーム美術史専攻。「イブン・トゥールーン・ モスクについての一考察」他。
【各作品解説一部紹介】
黄釉押型幾何文皿 イラク (九世紀)
Freer Gallery of Art, Washington, D.C.
Plate with moulded geometrical design, covered with yellowish glaze. Iraq. 9th century.
高2.8cm 口径28.0cm
型押浮彫で装飾された縁の立ち上がった皿で、平底である(挿13)。内側壁の狭い三本の文様帯が、からみあった組紐と中心の四弁花を取り囲む四つのパルメットからなる主文を縁取っている。組紐とパルメットは連珠と斜線で埋められている。内外ともに金色を呈するラスター釉でおおわれているが、劣化した部分もある。内面のバルメットや組紐上に八箇所、不規則な緑斑がみえる。同類の型押しのものがサマッラやスーサで発掘されており、 この皿もスーサ出土と伝えられている。
こういった初期的なラスター彩の器形と型押技法は金工品からきており、この皿は打出しの金器に倣ったもので、類品中の優品で最大のものとしてしばしば紹介されてきた作品である。胎土はクリーム色。 (エシン・アトゥール)
白釉藍彩パルメット樹文三足皿
イラク (九世紀) ニシャプール出土
Iran Bastan Museum, Teheran
Tripod plate with palmetto design in blue on white glazed ground. From Nishapur. Iraq. 9th century.
口径24.5cm
初期のペルシア陶器には、いろいろの点で、中国の唐のやきものの影響が認められる。いわゆる「ペルシア三彩」はその顕著な例であるが、ここに示した三足の盤も、 唐白磁との関係がうかがわれる器形・釉調のものである。
ただ、アッバース朝下のメソポタミアで作られたと思われるこの器では、やや渋い青彩で大胆な文様を描いて、 中国陶磁とまったく異なった味わいの作品となっている。 見込みには棕櫚の木を、平縁上には弧状にデザイン化さメットの葉を内行花文状に描いている。後者は、 その後のペルシア陶器によく使われる半円連続乃至弧状連続文の原型とも考えられるであろう。
多彩釉刻線文鉢 イラン ニシャプール (九世紀)
岡山市立オリエント美術館
Bowl with incised floral design, covered with three-colour glaze. Nishapur, Iran. 9th century. Okayama Orient Museum.
高 14.4cm 口径44.0cm 底径18.5cm
紅褐色の胎土を白土の化粧掛でおおい、この白地に刻線で文様を彫り込んでいる。刻線文は見込中央底部にハート形の四花文を配し、そのそれぞれが口縁に向かう三縦連の花文につながっている。この四つの三縦連花文の間に二縦連花文を描き、それぞれの花文の間を小渦文で填めている。この上に銅の緑釉と鉄の黄褐釉を施し、焼成したもので、伏焼のため釉は口縁部に向かって流れている。ただし、やや斜めに伏せられていたため(あるいはゆるい傾斜の登窯か) 口縁部の釉垂れは一方向に集中してみられる。この部分の最外部の花文の付根に「フセイン作」の銘が刻まれている。三叉トチン跡は見込中央にあり、外側は素文であるが、施釉されている(挿11)。 口径44センチという大型の鉢でありながら、有銘で完全な形をとどめている作品として貴重である。
多彩釉刻線花文碗 イラン ニシャプール (九一十世紀)
出光美術館
Bowl with incised floral design, covered with three-colour glaze. Nishapur, Iran. 9th-10th century. Idemitsu Museum of Arts, Tokyo.
高12.4cm 口径22.0cm 底径10.3cm
ニシャブールの初期イスラーム陶器を代表するものの一つに鉛釉による多彩釉刻線文陶器がある。多くは鉢形の器形であるが、ここに示したような深碗もときどきみることができる。
この器は、しっかりとした低い底部から一旦横に張り出した外側が、腰の所でわずかに開きながら立ち上がる標準的な深碗形の器形である。口縁は平緑となっている。素地は紅褐色の細かい土で、その上に白化粧を施し、 緑・黄褐・紫褐の三色の釉をかけ分け、あるいは点彩し、黄味を帯びた透明釉でおおっている。外側には鋭い刻線で楯形変形パルメット文が表わされているが、文様には崩れがない。内面に刻文はない。
ラスター彩奏楽人物文鉢 イラク (十世紀)
Freer Gallery of Art, Washington, D.C.
Bowl decorated with a man playing a lute in lustre. Iraq. 10th century.
高9.9cm 口径35.9cm
外反気味の側壁がさらに外反した口縁に至る大鉢で、 クリーム色の胎土、不透明白釉の上にラスター彩による装飾が加えられているが、ラスター彩は風化して光彩を失い、現在は黄色の着彩としかみえない。見込中央にはリュートを奏でる有髯長髪の人物が描かれ、左上方には先端が双葉様になった折枝のようなもの、右上には「信頼せよ、そうすれば」という意味の文字が書かれた花枠を置き、口縁は半円を連らねたようなスカラップで飾り, 空間を魚子文で埋める。裏面側壁には六箇の同心円をめぐらせ、内円の中と背景を点綴と細線で埋めている(挿 17)。九一十世紀のイラク製とされる単色ラスター彩陶器の典型的な装飾である。一般に「サマッラ・タイプ」と呼ばれるこの手の陶器は西はスペインから東はインド地方に至るイスラーム世界全域で発見されている。
(エシン・アトゥール)
白地黑彩双鳥文鉢 イラン ニシャプール (十世紀) 永青文庫
Bowl with two birds design in brown on white ground. Nishapur, Iran. 10th century. Eisei Bunko, Tokyo.
高7.5cm 口径25.0cm 底径11.6cm
九一十世紀のニシャブールの代表的な製品の一つに、ここに掲げたような白地黒彩陶器がある。白化粧をした素地にマンガンを含む鉄の彩料で黒く文様を描き、クリームがかった透明釉をかけたものである。
この鉢は、内反り気味の平底からわずかにふくらみをもつ側壁が斜めに立ち上がった器形で、底部外側の近くに断面三角状の溝をめぐらして高台の役割をさせている。胎土は赤褐色微砂質である。内面に相対する鳥を描き、 口縁部に太く縁取りを施している。双鳥は互いによく似ているが、爪などの細部の表現は異なっている。鳥の形姿の中には文字が隠されており、とくに側腹部にはクーフィ文字が明らかにみえる。全体に丁寧な作行きで、器形から十世紀のものと考えられる。同工のもので片方の鳥の向きを変え、互いに後を追う形に描かれたものもある。
黒地白彩鳥文鉢 トランスオクシアナ (九~十世紀)
出光美術館
Bowl with bird and floral design in white on black ground. Transoxiana. 9th-10th century. Idemitsu Museum of Arts, Tokyo.
口径20.6cm
九~十世紀のトランスオクシアナ地方の上手の製品の一つに黒地白彩陶器があるが、この図の鉢は、その中でも優品の一つである。 図12と同じく、平底の底面外周近くに溝をめぐらせ、 またわずかに丸みを帯びた側壁が外に開きつつのび上がる器形である。成形は端正で、表面を篦で丁寧に整えてある。紅褐色の素地の全面に黒褐釉を幾度かかけ、深みのある黒地を作り出し、その上に白土で雄渾な文様を描いている。内面は中央に翼を広げた鳥、周縁にアラベスク風なクーフィ文字、外側面には平行直線を使って構成した三角文を三箇所に配している。全体をおおう薄緑味を帯びた透明釉が、黒地と白の文様双方に独特の深みのある味わいを添えている。
黄地彩画騎馬人物文鉢 イラン ニシャプール (九世紀)
Bowl with a horseman design in brown and green on yellow ground. Nishapur, Iran. 9th century.
高8.3cm 口径20.5cm 底径8.5cm
ニシャプール独特の黄地彩画陶で、その絵は民族意識に満ちあふれている。器形もこの手の典型的な姿である。 側壁は豊かにふくらみ、低い台形の底部は内反りとなっている。全体に丁寧な成形である。胎土は褐色の微砂質で、白化粧を施し、内面は淡黄色に塗りつぶした上に濃紫褐彩や緑彩を使い、誇り高い民族英雄の騎馬人物を大きく中央に描き、鳥や花文で間隙を埋めている。外側面には杉綾風の文様と楕円文が紫褐彩で描かれ、楕円文には黄と緑が交互に塗られている。豊かな器形といい、大胆で力強さに満ちた絵付といい、初期ペルシア陶器の代表的な作例の一つといえよう。
黄白地彩画鳥文鉢 トランスオクシアナ (九一十世紀)
永青文庫
Bowl with bird design in yellow and red on buff gro-und. Transoxiana. 9th-10th century. Eisei Bunko, Tokyo.
高 5.2cm 口径31.3cm 底径15.0cm
白あるいは黄白の地に、紫黒・黒褐・緑・黄、あるいは朱土・黄土などで文様を描くのは、アッバース朝期のトランスオクシアナ陶器の特色である。
この器は、口縁部が大きく外反した浅鉢で、平底である。紅褐色の胎土に白化粧を施し、紫黒に朱土と黄土を用いてラスター彩に倣った絵付をしている。内面中央に大きく描かれているのは胸腹をついばむ一羽の鳥で、器形に合わせて円く見事に文様化されている。その鳥の輪郭とまわりの圏線、口縁部の内行花文は黄土色で、鳥の胴体や翼に描かれた唐草などの文様は紫黒色、鳥の尾の下の半バルメットは朱土色である。内行花文と圏線の間の紐繋風の文様は、文字文の変形であろう。全体として初期ラスター彩の雰囲気をよく表わしている。
白地彩画飛鳥文鉢(アモール手) イラン (十~十一世紀) 福岡市美術館
Bowl with flying bird design in brown, red and amber on white ground. Amol type. Iran. 10th-11th century. Fukuoka Art Museum.
高6.8cm 口径21.5cm 底径9.5cm
十世紀後半から十三世紀にかけてのカスピ海南岸や西北イランのアゼルバイジャン地方では、独特のいわゆる 「後期鉛釉陶器」が作られた。ここに示したものもその一つで、カスピ海東南岸地域の一窯の製品と考えられる。 アモール窯とも称されるが、明らかでない。
平底の外縁に沿って断面半円形の溝をめぐらせ、そこから豊かな曲線を描いた側壁がのび上がった鉢で、丁寧に仕上げられている(挿21)。淡紅色の胎土を白化粧でおおい、内面に一羽の鳥を紫褐・朱土・黄土の三色で描いている。やや抽象化された鳥は、白地の空間の中に浮かび、おだやかな夢幻的な雰囲気を醸し出している。
白地彩画鳥文鉢(サリー手) イラン (十~十一世紀) ブリヂストン美術館
Bowl with bird design in brown, red and amber on white ground. Sari type. Iran. 10th-11th century. Bridge-stone Museum of Art, Tokyo.
高6.9cm 口径18.2cm 底径6.8cm
前図と同じく後期鉛釉陶器に属するもので、かつて「サリー手」といわれていた種類であるが、筆者らのサリ一窯跡の調査では、この手の破片をみることはできなかった。一方、ジュルジャン (グルガン) では多量に発見されているので、その窯の製品かもしれない。
わずかにふくらんだ側壁をもつ鉢で、高台脇にえぐりを入れている。紅褐色・微砂質の胎土を白化粧でおおい、 文様を描き、黄味を帯びた透明釉を施している。主文様は、頭頂に大きな飾りをもつ鳥で、この手の鉢にみられる典型的な図柄である。空間には円形の花文や小円をつないだ花文を配している。輪郭を紫黒で描き、白い連珠を配するのもこの種のデザインの通例である。鳥体や花文は朱土や黄土で塗り分けられている。何かの物語の一場面を思わせる楽しい図柄である。
白地多彩刻線鳥文鉢
イラン アグカンド地方
(十二一十三世紀)
Freer Gallery of Art, Washington, D.C.
Bowl with incised bird and floral arabesque in green and brown on white ground. Aghkand district, Iran. 12th-13th century.
高9.8cm 口径27.6cm
平縁の鉢で、赤味を帯びた胎土に白化粧を施し、文様を線刻して、緑・黄・紫褐の釉をかけている。見込みいっぱいに堂々たる雄鶏が描かれ、背景には唐草のアラベスクが置かれ、一面に小円点が散らされる。内壁直立部には四分された連珠文帯、口縁にも連珠文を飾る。かけ分けられた色釉は、刻線によって混濁が防がれている。 掻き落として文様を表わす陶器は、アナトリア、シリア、 イラク、エジプト、イランの各地でみられるが、タブリーズ近郊のアグカンドが主要産地とされている。このいわゆる「アグカンド陶器」は、ラカビ手と同様、アラベスクを背景とした動物文がよく描かれる。十二一十三世紀の典型的な掻落技法を示すこの器は、破砕された状態で発見され、今世紀初め頃、二度焼して接合されたものと考えられる。左下部に一部欠失があって後補されている。
黄釉白掻落鳥文鉢(ガブリ手) イラン ガルス地方 (十一~十二世紀) 永青文庫
Bowl with a sgraffiato design of bird, covered with yellowish glaze. Gabri ware. Garrus district, Iran. 11th-12th century. Eisei Bunko, Tokyo.
高6.3cm 口径18.7cm 底径7.2cm
十一一十三世紀のイランのアゼルバイジャン地方では、前期からの技法の伝統をひく掻落しの鉛釉陶器が作られている。ここにあげたのは、アゼルバイジャン地方のガルス窯の製品とされている、いわゆる「ガブリ手」の鉢である。
この器はその典型的な一例で、やわらかな側壁と立派な高台をもつ整った形の鉢である。暗褐色の胎土に厚く白化粧を施し、掻落手法で文様を表わし、上に緑釉をたらしている。全面を黄味を帯びた透明釉でおおうと、插き落とされた部分は紫黒色に光って、白い文様が強く浮き立つのである。主文様の鳥は、胸を大きく張った力強い猛鳥であるが、脚の表現にはどこかユーモラスな味わいがある。空間はセルジューク的な唐草で埋めている。 豪放な中にも格調の高さが浮かび、神秘的なものを感じさせる作品である。
青釉押型文八角碗 イラン レイ (十三一十四世紀)
The David Collection, Copenhagen
Octagonal cup with moulded animals design, covered with blue glaze. Rayy, Iran. 13th-14th century.
口径19.0cm
灰色がかった胎土で厚手に成形されている。やや高めの高台から大きく湾曲して立ち上がった側壁が外反して八角の口縁となって終わっている。胴部も縦の太い稜線で区画された八面取となり、各面の枠内には型押による浮文で左右対称のグリフィンと騎馬人物文、その下には動物文が表わされている。下胴部にも何か装飾があるが、 釉が厚く流れかかり、型押か刻文かも明瞭でない。器形はやや歪みがあり、補修も多いが、紫青色の深みのある釉が美しい。
白釉刻線彩釉鳥文皿(ラカビ手) イラン (十二世紀)
Museum fur Islamische Kunst, Berlin, BRD Dish with incised heraldic bird design in colours. Lakabi ware. Iran. 12th century.
高7.3cm 口径41.0cm
セルジューク時代のペルシア陶器の一つに「ラカビ手」と呼ばれているものがある。ラカビとは絵付を意味するペルシア語である。ここに示したように、盤・皿の類が多く、図柄の輪郭を堆線と太く深い刻線で描き、さまざまの色釉で塗り分ける美しい陶器である。技法的には中国のいわゆる「法花」に似ている。
この平鉢の見込みには、いっぱいに紋章風の鷲が立ち上がった姿が描かれている。横を向いた頭以外は左右対称に描かれ、翼の先端は唐草風になって巻き上がっている。平緑の口縁部には唐草文・做文字文・環文が交互に描かれている。縁・藍・褐・白の色釉が明快である。
ラスター彩騎馬人物文鉢 イラン レイ (十二一十三世紀)
Freer Gallery of Art, Washington, D.C.
Bowl with a horseman design in lustre. Rayy, Iran. 12th-13th century.
高7.5cm 口径43.2cm
平縁の浅鉢で、灰褐色の胎土に不透明白釉をかけ、褐色がかったラスター彩で絵付をしている。内面いっぱいに白抜きで唐草を背景にしてターバンを巻いた騎馬の若者を描き、円や点で飾っている。口縁には撚紐状の文様帯を置く。外側にも薄くラスター彩の施文があったが、今はほとんど?落している。一般に十二世紀末一十三世紀初のレイ製とされる一連のラスター彩の典型的な作例である。
ラスター彩草花文十字・星形タイル イラン カシャーン (十三世紀中葉)
Royal Scottish Museum, Edinburgh Panel of star and cross tiles with floral design in lustre. Kashan, Iran. Mid 13th century.
各径31.0cm
十字形と八星形のタイルを組み合わせた建築装飾は、セルジューク朝時代からモンゴル時代にかけてモスクや聖廟で盛んに用いられた。この一群のタイルは北部のヴァラーミーンにあるイマームザーデ・ヤヒヤー聖祠の装飾に使われていたものの一部である。現在、大英博物館、アシュモレアン博物館などに所蔵されている同種のタイルとともに1261-65年頃に製作されたと考えられる。全面を隙間なく埋め尽くしている装飾モティーフはきわめて精緻なアラベスクで、これを白抜きか、あるいは施されたラスター彩を引っ掻くようにして表現している。 モンゴルの侵略以降にカシャーンで製作されたラスター彩タイルの代表的作例である。
白釉色絵人物文鉢(ミナイ手) イラン レイ (十二~十三世紀)
永青文庫
Bowl with human figures design in colours on white glazed ground. Minai ware. Rayy, Iran. 12th-13th century. Eisei Bunko, Tokyo.
高9.2cm 口径21.8cm
底径7.8cm
ラスター彩とともにイスラーム陶器を代表するといってよいのは「ミナイ手」である。ミナイというのはエナメルを意味するペルシア語で、上絵陶器の通称である。
この器は、豊かなカーブを描いて立ち上がる側壁がロ縁直下でわずかにくびれて段をなし、外反する器形の鉢であり、高台はしっかりと作り出されている。胎土はわずかにピンクがかった白色の細かい土である。錫白釉上に描かれた主文様は見込中央の玉座の人物で、左右に二人ずつ侍者を従えている。上下に花文を飾り、下の花文の左右には孔雀のような鳥が描かれ、はなやかな王庭を表わしている。口縁部は藤色の倣文字文と鋸歯文の二重の文様帯、外側面にはナスキー書体の文字が書かれている。白・黒・青・緑・紺・朱・ピンクに金を添えた豪華な優品である。
青釉黒彩鳥文鉢 イラン (十二一十三世紀) Freer Gallery of Art, Washington, D.C. Bowl with bird design in black, covered with blue glaze. Iran. 12th-13th century.
口径26.6cm
口縁が平縁状をなした鉢で、灰白色の胎土の上に黒で彩画し、青釉をかけている。見込みに大きくのびのびと鷺のような鳥を巧みに描いている。余白は点綴や円弧を囲った文様で埋めているが、これは前期ラスター彩の装飾にヒントを得たものであろう。広い口縁部は黒線と列点文で飾られて、見込みの文様に対して額縁の役割を果たしている。シリアのラッカで発見されたといわれているが、製作地はイランであろう。孔雀文を描いた類品も知られている。
青釉黒地色絵金彩花文鉢(ラジュヴァルディナ手) イラン カシャーンまたはサヴェー
(十三世紀後半)
ブリヂストン美術館
Bowl with floral design in colours and gilt on black ground, covered with blue glaze. Lajvardina ware. Kashan or Saveh, Iran. The second half of the 13th century. Bridgestone Museum of Art, Tokyo.
高8.9cm 口径19.9cm 底径7.8cm
イル・ハーン国時代になると、セルジューク朝時代とは異なった陶器が現われてくる。ここに示した「ラジュヴァルディナ」といわれる形式の器もその一つである。ラジュヴァルディナとは青藍色を意味するラジュヴァルドからきた言葉で、青藍釉の上に色絵金彩を施した陶器を指している。技法的には前代のミナイ手に連らなるものといえる。
この器は、高台際で腰を折って、そこから直線的に開いた鉢で、口縁部近くに二つの小さなくびれがある。装飾はなかなか複雑で、灰白色の胎土に白化粧を施し、ついで黒下地を作り、その黒地を掻き落として文様を表わし、青釉をかける。さらにその上を白色、赤色と金彩で彩っている。側面にはナスキー書体の金文字が書かれている。複雑な技法と文様によって奥深い味わいを出している。
青釉白盛上鳥文鉢(スルタナバード陶器) イラン (十四世紀前半) Ashmolean Museum, Oxford
Bowl with four birds design against a floral background, in white slip with black outlines on grey ground. Sultanabad ware. Iran. The first half of the 14th century.
口径20.3
この手の陶器は同じモンゴル時代に発達した藍地金彩の華麗なラジュヴァルディナ陶器とは対照的に、落ち着いた色合いを基調とするが、新たに芸術のパトロンとなったイル・ハーン国の支配者たちの好みを反映するものであろう。褐色がかった灰色の化粧土の上に白色スリップを盛り上げる独特の技法がとられているが、外側は築文で飾られている。鶴のような四羽の鳥の間隙は独特の草花で充填されているが、この全面装飾の傾向は伝統的なものである。これはスルタナバード陶器と呼ばれているが、カシャーンで焼かれた可能性もある。
白釉多彩人物文皿(クバチ陶器) イラン (十七世紀) Los Angeles County Museum of Art
Dish with human figure design in colours on white glazed ground. Kubatchi ware. Probably Isfahan, Iran. 17th century.
9.5cm 口径35.0cm
いわゆるクバチ陶器の典型的な作例である。この皿は小川に沿って生えている木や灌木の風景の背後から宮廷婦人の半身像が奇妙に現われる図柄で飾られている。人物像は、イラン・サファヴィ朝時代もっとも影響力があり、偉大な画家であったリザ・イ・アッパシーによって指揮されたイスファハン画派の様式に基づいて描かれている。この作品は実際にイスファハンで製作され、その装飾は通常のように陶画工によらず、宮廷画家によって施されたように思われる。
具象的に装飾されたこの種の陶皿、とくに若い宮廷人や宮廷婦人の半身像が、風景のうちや草花文、花パルメット文を背景に描かれた作品は、サファヴィ朝後期に普及していた。それらは当時のサファヴィ朝の首都で製作された画冊や壁画と様式的にも図像的に密接な関係をもっている。
(エルンスト・グルーペ)
白釉多彩花文モスク・ランプ
トルコ イズニーク (十六世紀中葉)
Cinili Kiosk Museum, Istanbul
Mosque lamp with floral and inscription design in pol-ychrome. ?znik, Turkey. Mid 16th century.
高47.5cm 口径29.0cm 底径17.3cm
このランプは華麗な花瓶型で十六世紀に典型的なものである。三つの把耳が付いている。陶土は灰白色で硬い。 釉は透明である。当時のイズニーク陶器は明るいコバルト・ブルー、赤・黒・緑・トルコ青の色調が有名であった。コーランの語句を記した頸部の白い銘文や器体の芍薬や彎曲した葉文がランプを美しく飾っている。このランプはソコルル・メフメット・パシャ・モスクのために製作された。ロンドンのビクトリア・アルバート美術館や大英博物館に類似のモスク・ランプが所蔵されている。
(ギョヌル・オネイ)