杉山寧（すぎやま・やすし）は、1909年10月20日に東京浅草で生まれ、1993年10月20日に84歳で没した日本画家です。東京美術学校日本画科を首席で卒業し、在学中に松岡映丘に師事しました。帝展では特選を2度受賞し、戦後は日展において会員・常務理事・審査員などを歴任し、顧問も務めました。また、日本芸術院賞（第13回）を受賞し、文化勲章受章、文化功労者に顕彰され、日本芸術院第一部長も務めました。作風は、初期は卓抜な描写力と清新な感覚を特徴とし、中期以降はエジプト遺跡などの取材をもとに象徴的な構成や重厚なマチエールを用いた抽象表現に展開、晩年には夢幻的な空間に裸婦や鳥、動物を配した作品を制作しました。

杉山寧「三寶柑」日本画 8号大 共板
本作「三寶柑」は、日本画家・杉山寧が持つ端正な描写力と澄んだ精神性が静かに漂う一作です。淡く落ち着いた地に、三寶柑の鮮やかな黄色がふわりと浮かび上がり、そこに添えられた緑の葉が清らかな対比を生み出しています。果実の丸みや重み、葉の微妙な色の揺らぎが穏やかな線描で丁寧にとらえられ、控えめでありながら凛とした存在感が画面に宿っています。

杉山寧は、東京美術学校日本画科を首席で卒業し、帝展での特選受賞や日展での要職、日本芸術院賞、文化勲章など、日本画壇の中心で活躍した作家です。初期には卓越した描写力と清新な感覚で注目され、中期以降は象徴的で重厚な表現へと展開、晩年には夢幻的で静謐な空間を描き出しました。その変遷の根底には「対象と静かに向き合い、内に潜む美をすくい上げる姿勢」が一貫して流れています。

本作にもその精神が息づき、三寶柑という身近な果実を、過度な装飾を排した端正な構成で描き出すことで、どこか神聖さを帯びた静物画へと昇華しています。明るい色彩の中に落ち着いた気配が漂い、観る者の心にやわらかな余韻を残す、杉山寧らしい品格と気品を備えた一枚です。