中村琢二(1897-1988)は、日本芸術院会員で一水会運営委員を務めた洋画家。新潟県佐渡相川町生まれで、兄は洋画家の中村研一。福岡県立中学修猷館在学中に兄の影響で油絵を始め、東京帝国大学経済学部を卒業後、兄の勧めで画家を志し安井曽太郎に師事。1930年第17回二科展に「材木座風景」で初入選し、1938年一水会会員に。1941年新文展で特選を受賞し、1952年「扇を持つ女」で芸能選奨、1962年「画室の女」で文部大臣賞を受賞。翌年日本芸術院賞、1981年日本芸術院会員となる。風景や人物を主題に明快な構図と軽妙な筆触を特徴とし、写実を基盤にしながらも柔和で爽やかな画風を確立。兄の力強い造形とは異なり、軽やかで歯切れの良い表現が人々に親しまれた。著書に『一日で描く風景画』(共著)、作品集に『中村琢二画集』がある。

中村琢二「仙丈岳 春」油彩 8号
中村琢二《仙丈岳 春》は、南アルプスの名峰・仙丈岳を背景に、春の信州の田園を描いた一枚です。画面には残雪を抱く青紫の山並みと、萌えるような新緑に包まれた山裾の集落、そして水を張った田が広がり、季節の息吹が鮮やかに表現されています。明快な構図と軽やかな筆触によって、雪解けの冷たさと芽吹きの温もりが同居する春の清新な空気が画面全体に満ちています。

作者の中村琢二（1897-1988）は、新潟県佐渡に生まれ、日本芸術院会員・一水会運営委員を務めた洋画家です。兄・中村研一の影響で画の道に進み、安井曽太郎に師事。1941年新文展特選、1962年文部大臣賞、翌年日本芸術院賞など数々の栄誉に輝きました。風景や人物を主題に、写実を基盤としながらも爽やかで柔和な画風を確立し、明るく歯切れの良い表現によって多くの人々に親しまれました。本作にもその特徴が遺憾なく発揮されており、雪を戴く山の雄大さと、人々の営みが息づく田園の情景が調和し、自然と暮らしの美しさを軽やかな感性で描き出しています。中村琢二が追い求めた「明るく爽やかな風景画」の魅力を端的に伝える秀作といえるでしょう。