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はしがき

拙編著『現代中東の民族主義と共産主義」(晃洋書房、一九八九年)を刊行したあと、中東研究家から手きびしい書 評をいただいた。しかし、わが国の中東研究家と称する人たちが、九○年八月二日の湾岸戦争開始を予測できたのであろうか。イラン・イラク戦争の勃発をまったく予測できなかったのに続く失態である。筆者は、日本の中東研 究家なるものをいっさい信用しないことにしている。

挑編著『現代中東の民族主義と共産主義』では、中東地域における共産主義の没落とそれに代わる民族主義の優 位を分析した。そして、当時、パレスチナ国家独立宣言を行って得意の絶頂期にあったPLO(パレスチナ解放機構) のアラファト議長が、早晩凋落すると見通した。

湾岸戦争を仕掛けたイラク・バース党のフセイン大統領は、民族主義のおごりに反省しなかった。彼を支持した アラファトは、失脚の瀬戸際まで追いつめられている。だが、湾岸戦争は、頻発・多発する地域紛争の一つの局面 にすぎない。本書では、冷戦終結後、湾岸戦争そしてソ連クーデター「三日天下」と激変する中東における地域紛争の新しい可能性を探ろうとした。

本書の意図とその分析のいたらぬ点については、今後読者の皆さんから御叱正・御批判をいただいて、是正して いきたいと思う。しかし、その本筋では間違っていないと確信している。