基本情報|Release Information
■ レーベル:King Records
■ 品番:DY-4804/05
■ フォーマット:2LP, Stereo, Promo Only
■ 国:Japan
■ リリース年:1973年
■ タグ:Soundtrack, Orchestral, Digest, Japanese 1970s, Studio Work
作品の解読|Decoding the Work
これは“聴かれるため”ではなく、“知られるため”に作られたレコードである。1973年、映画音楽の製作と流通において圧倒的な制作力を誇ったキングレコードが、関係者・放送局向けに制作した非売プロモーション盤『New Screen Themes Digest 1973 Vol.1』は、当時の映画市場を音で横断する一種の「音響的編年史」である。2枚組LPというヴォリュームに刻まれているのは、単なる人気映画の主題歌ではない。オーケストラによって再構成されたテーマ群は、それぞれが映画に刻まれた“情動の断片”を抽出し、抽象化し、次なる文脈へと媒介するサウンド・インターフェースのように機能している。
本作に明記された「映画音楽のキング」「サントラのキング」という冠詞は、単なるレーベル自賛ではない。むしろこれは、70年代日本のメディア環境において映画音楽がいかに共有可能な記憶装置=パブリックな感情アーカイブとして扱われていたかを示す文化的証言であり、同時に「カバーによる再提示」という手法そのものが、アナログ録音時代における記憶と制度の再構築であったことを物語る。たとえ原曲が失われようと、この盤に収められたバージョンが“どこかで聴いた”情景を蘇らせる。そうした映画—音楽—記憶の回路を再接続する鍵が、本作には潜んでいる。
『New Screen Themes Digest 1973 Vol.1』は、一見するとただの映画音楽カバー集に見える。だが、その本質はむしろ、商業音楽と放送/産業音楽との接続点において機能していた制度的メディアである。ここで重要になるのが、「ミュージック・ライブラリーレコード」および「放送用音源」としての文脈である。
1. ライブラリーミュージックとの連関:音楽の〈用途化〉
1970年代、日本でも英国のKPMやDe Wolfe、仏Telemusicに呼応する形で、各レーベル(特にキング、ビクター、コロムビア)は、放送局・映画会社・広告代理店向けに“使用可能な音楽”=ライブラリーレコードを独自制作していた。これらは著作権処理済、演奏時間や雰囲気別に分類されたトラック群で構成され、創造性よりも**即応性と制度互換性(BGM、ジングル、場面転換への適用)**が重視された。
『New Screen Themes Digest』のようなダイジェスト構成、明示的なオーケストラ編成、そして非売品という頒布形態は、まさにこの文脈に接続する。つまりこれは**映画主題歌の再演ではなく、放送用としての“再素材化”**であり、用途として再フォーマットされた“産業用の音響テンプレート”でもあった。
2. 放送音楽制度における「代替性」:オリジナルではなく、“流通可能な版”としての音源
テレビやラジオの放送枠では、著作権や演奏権のクリアランス処理を簡略化するために、既存音楽の代替版=「スタジオ録音版」や「プロモカバー版」が重宝された。特に70年代の地上波メディアでは、海外オリジナル音源の使用が制限されたため、「耳馴染みはあるが権利的に使いやすい」カバー版が制度的に生き残る仕組みがあった。
この『Digest 1973』はまさにそうした**“擬似記憶装置”としてのサウンドライブラリー**であり、聴取者の記憶に寄り添いながらも、制度的都合で構築された“代理的映画音楽”である。つまり、これは「聴かせる」のではなく「使わせる」ために設計された音楽であり、記憶と放送のあいだを媒介する制度的生成物に他ならない。
3. モノとしての制度:非売プロモ盤が物語る頒布構造
本盤が「非売品」として制作されたことも偶然ではない。この種のレコードは、**放送局、映画館、配給会社、広告制作会社などへの“営業用”資料として送付されるものであり、商業流通というよりは“制度内での頒布”**によって生きる形式である。これはライブラリーレコードと全く同じ配布論理に基づいている。
そのため、本作は**“昭和メディア・インフラの裏面”を可視化する音響遺物**であり、記憶・制度・使用権・物質性が交差する接点に位置する、非常に貴重なレコードと言える。
まとめ:映画音楽の〈再素材化〉としての制度的位置
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**映画主題曲の「聴かせ直し」ではなく「使わせ直し」**への転回。
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**音楽の感情的資源性(emotional utility)**を制度的に再編する実践。
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アナログ媒体が果たした“制度の不可視部分の記録媒体”としての機能。
このように『New Screen Themes Digest 1973』は、ポピュラー音楽や映画音楽というカテゴリに収まりきらない、制度的音楽アーキビングの断面を見せるレコードである。その意味で、これはレコードという形式がもつ「音楽を運ぶ」力ではなく、「制度を封じる」力を証言する、極めて重要な音響文化遺産である。
状態詳細|Condition Overview
メディア:NM(盤面きわめて良好)
スリーブ:VG+(表面にリングウェア、若干の汚れ、下辺に約6cmの裂け)
付属品:非売品・白ラベル仕様
支払と配送|Payment & Shipping
発送:匿名配送(おてがる配送ゆうパック80サイズ)
支払:!かんたん決済(落札後5日以内)
注意事項:中古盤の特性上、微細なスレや経年変化にご理解ある方のみご入札ください。完璧な状態をお求めの方はご遠慮ください。重大な破損を除き、ノークレーム・ノーリターンにてお願いいたします。