後藤純男（1930年1月21日～2016年10月18日）は千葉県東葛飾郡木間ヶ瀬村（現・野田市）の真言宗寺院に生まれ、僧侶となる修業を受けながら画家を志し、日本美術院の院展で22歳のときに初入選を果たしたことを機に絵の道を選んだ。山本丘人に師事し、日本美術院に所属しながら風景画を中心に制作を続け、日本美術院賞（大観賞）、内閣総理大臣賞、日本芸術院賞・恩賜賞など数々の受賞歴を持つ。初期には郷里の田園風景を描き、1960年代以降は北海道の滝や渓谷を題材に、神秘性と峻厳さを備えた作品を発表。1970年代以降は奈良や京都の古寺に取材し、光と大気の変化による表情をとらえた作品を多く手がけた。さらに、中国の広大な自然や農村風景を描くなど、取材を重ねながら多様なテーマに挑戦し続けた。1988年には東京・高野山別院の襖絵を制作し、1993年には奈良・長谷寺、1999年には東京・高幡不動尊金剛寺にも襖絵を奉納するなど、宗教的荘厳さを漂わせる作品を残した。1997年には北海道上富良野町に後藤純男美術館が開館し、2016年には第72回日本芸術院賞・恩賜賞を受賞。晩年には大和古寺の四季折々の情景を多く描き、その深い精神性と荘厳な画風で日本画壇に比類なき存在感を放ち続けた。

後藤純男「春映大和」日本画 金泥仕様 15号 大作 共シール 東京美術倶楽部鑑定書付
後藤純男による《春映大和》は、古都・奈良の春を荘厳かつ幻想的に描いた日本画の名作です。本作は、15号という大型サイズに加え、金泥の輝きが際立ち、まるで春の日差しを浴びた寺院の美しさが画面全体に広がるような、圧倒的な迫力を備えています。 画面には、歴史を感じさせる金色の建築と、満開の枝垂れ桜が見事に調和し、春の優雅さと壮麗な雰囲気が表現されています。桜の繊細な花びらが風に揺れる様子は、生命の儚さと美しさを象徴します。

後藤純男は、日本画の伝統技法を継承しながらも、光と大気の移ろいを繊細にとらえることに長けた画家でした。本作では、金泥を効果的に使用し、寺院の荘厳な雰囲気を際立たせるとともに、桜の淡い色彩とのコントラストによって、まるで春の光が画面を包み込んでいるかのような幻想的な空間を生み出しています。 細部にわたる緻密な描写と、金泥の輝きが織りなす豪華な表現が、大和の春をより壮麗なものとして際立たせています。市場に出回ることが少ないこの規模の作品は、その希少性とともに、後藤純男の芸術性を存分に堪能できる逸品といえるでしょう。 本作品は、まさに後藤純男が生涯追求した「日本の美」と「精神性」を体現した作品であり、金泥の煌めきと桜の儚さが織りなす、春の大和の一瞬の輝きを永遠に閉じ込めた傑作です。