CHOPIN: Polonaisen und MazurkaenSEITE 11. Plonaise op. 26, Nr. 22. Mazurka Nr. 5, op. 7, Nr. 13. Mazurka Nr. 17, op. 24, Nr. 44. Plonaise op. 26, Nr. 1SEITE 21. Mazurka Nr. 21, op. 30, Nr. 42. Mazurka Nr. 25, op. 33, Nr. 43. Mazurka Nr. 40, op. 63, Nr. 24. Plonaise fantaisie, op. 61MANAHEM PRESSLWR, KlavierSMS-2539 STEREO2023年5月6日に逝ったメナヘム・プレスラーは、生前何ら躊躇うことなく巨匠と冠することのできる最期のピアニストだった。半世紀余の間、一貫してピアニストを務めたボーザール・トリオは2008年9月6日、ルツェルン音楽祭でのコンサートをもって解散して以降も矍鑠として専らソリストの道を邁進し世界各国で演奏活動を繰り広げた。また一方で歌手やヴァイオリニストとのデュオ・リサイタルも行い、2014年4月10日のサントリーホールでの庄司紗矢香とのデュオ・リサイタルはNHK衛星放送でも放映され大きな反響を呼んだ。とはいえ彼はボーザール・トリオ結成時には既にソリストとして公演活動及びMGMレーベルへ得意のドビュッシーやデ・ファリャのリサイタル、英Parlophoneにショスタコーヴィッチのピアノ協奏曲第1番と同ピアノソナタ第2番等の録音を行っており、トリオ結成後もコンサートホール・ソサエティを中心に数多くの協奏曲の名盤を残している。当LP国内外ともCD未復刻(LP再発も皆無)の貴重な魅力盤で、故佐藤泰一氏は自著『ショパン・ディスコロジー, 音楽之友社、昭63』のなかで当出品LPに言及して次のやうに語っておられる。「ボーザール・トリオのピアニストとして有名なメナーハム・プレスラーのショパンが、予約販売システムのコンサートホール・レーベルに2、3枚あったのをっご存じの方も多いだろう。そのうちのポロネーズとマズルカばかりが入った1枚は、なかなか出色のもので現在でも愛聴している。この人の変ホ短調(註:協奏曲)はそんなに大袈裟な弾きかたではない。むしろ内面的、個人的あるいは閉塞的とすら言ってよい、小宇宙を見つめる行き方だ。ポロネーズのリズムの刻みようも控えめであるが、聴き手が曲の奥底に入っていきやすい弾き方をしているので、最後の非業の叫びも感動的だし、後味が至極良い。・・・幻想ポロネーズの演奏者リストをみていてもうひとつ気づくことは、ユダヤ系のピアニストが、かなりを占めることだろう。・・・ヴェテラン、プレスラーの憧れと慈しみに富んだ熱演は捨て難い。」このLPに収録されている作品33の第4はマズルカのなかでも最も人口に膾炙した色々描写的逸話のある名曲だが、メナヘム・プレスラーはこの作品を2017年10月16日、サントリーホールで開いたリサイタルで弾いた。その演奏のは若々しい情熱に溢れ優美で滋味に富み、このLPに聴く演奏とフレージングもテンポも全く変わっていない感じを受けた。英国の碩学ピアニスト、J.M-Cambellは自著『CHOPIN PLAYING』のなかでつメナヘム・プレスラーのショパン演奏について当LPに言及しつつ次のやうに実に的を射た批評を行っており一言一句に強い説得力がある。拙訳で紹介しておこう。「ピアニストの中でも最も練達の士の幾人かはソリストであるより室内楽奏者を好んでいるが、メナヘム・プレスラーはそのやうなピアニストの一人である。彼は若年のころから公開の場で弾いてきたが、数年前にいくつかのショパン作品の録音を行った。そのなかにはホ短調協奏曲、アンダンテ・スピナートと華麗なる大ポロネーズ、そして数曲のマズルカとポロネーズがある。ボーザール・トリオのピアニストとしてひときわ令名が高いが、彼のショパン演奏を無視するわけにはいかない。その演奏はスケールは小さいが親密で無類の心地よさを醸し出す。マズルカ弾きとしては殆どライヴァルを見ないほどである。彼はマズルカに内在する感傷性や情感の幅広さといったものを完全に我が物としているのだ。彼の演奏は見事なまでに完成されており、またピアニシモを奏で繊細な陰影を表現することにかけては名人の域にある。プレスラーのショパン第一協奏曲の解釈は他のピアニストたちがこの作品の表現にもたらしている英雄的なドラマ性に欠けるところがあっても追懐の穏やかで魅惑的な雰囲気のなかにショパンを表現することで聴き手を力感よりも繊細微妙さでもって感動させる。作品26-2のポロネーズでは、他のピアニストが大言壮語するところを抒情的で神秘的なやり方で演奏されている。彼のショパン作品へのアプローチ方法はショパンの資質のより積極的な面の表出に欠けることがあっても、その至美と詩情の面を解き明かしてくれる。」当LPの盤面は両面とも美麗で殆ど使用感の無い盤面である。注意深く試聴のところ作品26-2のポロネーズと作品30-4で僅かの微かなティック・ノイズ(瑕によるクリック・ノイズの類ではない)が聴かれた他はノイズ等の発生はなかった。ドイツ盤で、材質、プレスが世界各国のコンサートホール・ソサエティ盤のなかでも、音質の鮮明で深みのある艶麗な響き、そして背景雑音が低くS/Nが良いことにおいては頭抜けている。またジャケットは日・英盤と異なりイタリアの古都ラヴェンナの「ガッラ・プラチーディア廟」のドーム型天井のモザイク画をモデルにした《水盤から水を飲む鳩》で藝術的洗練を極めたプレスラーのピアニズムにいかにも相応しい。ちなみにヴァシャーリのショパン・リサイタル盤(DG)のジャケットにもこのモザイク画が使用されていたが、ショパンとの關係は不明である。