セット価格 188,000円 のうちの一冊。
約26×19×1.5cm
モノクロ
金箔押し布張り上製本
110ページ
※絶版
日本の武道全集本のうちの一冊。
現代武道十種目を中心として、各種武道における、それぞれの技術や歴史、開祖の教え、
伝書などの参考文献も含めて、その思想哲学から現代の組織化されたスポーツとしての側面についてまで網羅。
豊富な写真、資料などの写真図版はもとより、昭和末期刊行当時の、
その道の最高峰・第一人者たちを執筆陣としたもの。
本書は「予防・救急処置心得」。
特に、昭和の時代の武道における精神面での心得についてなどは、
今となっては大変貴重な内容です。
【まえがきより】 高橋華王
柔道であれ剣道であれ、たとえなんであれ、武道の練習をしている者が練習中にケガでもしようものなら、「精神がたるんでいるからだ!」と一喝されたものである。少なくとも戦争前まではそうだった。いや、今でも一部にはそんな言い方がなされていることだろう。なるほど「精神のたるみ」がケガのもとになるのは事実である。集中力が欠けていたり、呼吸法が正しくなかったり、緊張させておくべき筋肉が「たるんで」いたりすれば、ケガをしやすいのは当然で、そうした基本をおろそかにする態度を、「精神がたるんでいる」というふうに言ったのである。
そうはいっても、今日、さまざまな武道を練習する人たちは、ごく少数の「武道家」を志す人をのぞいては、たとえば学校の勉強の合問に練習したり、会社の仕事を終えてから練習するしかない。つまりさまざまな社会的、時問的な制約の中で機会を見つけて練習するのである。そうすると勉強や仕事で疲れていることもあろう、他に気がかりなことも出てこよう。つまり、雑念がわくのである。「たるんで」いるつもりはなくても、結果として集中力が欠けるなどして思わぬ怪我をすることが起きてくる。専業武道家でない限り、ケガは避けがたいと考えたほうがよいのかも知れない。そこでケガの予防と、いざケガをした場合の適切な処置方法についての知識と技能の習得が必要になってくるのである。
以下はわたしが、大学での武道実技教育を通じて、その必要性を痛感させられてきた「安全武道」の基礎知識である。けっしてこれで充分というわけではなく、望むべくは専門のマッサージ師や医師の手をわずらわすべきなのだが、とりあえずこれだけでも心得ておけば相当のケガの予防はできるし、ケガをした場合にも、むやみと慌てずにすむという範囲のことを記したつもりである。
【全集全体の序文より】
『日本の武道』全集刊行にあたって 編者代表 今村嘉雄
「日本のこころ」と武道
現代の武道は、いわゆる古流武道を伝承発展させたものである。古流武道は、われわれの遠い先祖が狩猟を生産活動としていた時代に源を発し、狩猟法からしだいに武技、護身術として発達し、室町時代の後期ごろに流派として素朴な体系をもつようになった。これらの古流武道は、原始的な神霊思想(シャーマニズム)とも関連し、さまざまな祭典や儀式の行事として、また貴族や武家の練武と遊びを兼ねた狩猟活動として、さらには「通し矢」などのような近代的ともいえる記録競技や、江戸時代の藩校に見られるような教科活動として、活発に行われてきた。とくに競技的、教科活動的な側面が現代武道として継承、発展しつつあるとも言えるであろう。
一方、古流武道は神道・仏教(顕・密両教、とくに禅)・儒教・老荘思想、さらには国学思想などとも深いかかわりをもつことによって、日本人としての道徳観や美意識の確立に大きく寄与してきた。これらの思想は、その技法とともに現代武道に伝承され、さらに高度の西欧的な教養を加えて、日本国民の精神構造の基盤をなしている。
戦後、武道は急速に国際化し、昭和三十九年(一九六四)の東京オリンピックには正式種目として「柔道」が加えられた。欧米の産業人や青年層には、今や武道を通して日本人の心を知ろうとしている人たちが急速に増加しているという。戦後数十年で目ざましい経済成長を遂げた原動力を武道の心に求めようとしているのである。もし「武道の心」が新渡戸稲造の言う「日本のこころ」(soul of Japan)に含まれるならば、欧米人の発想は必ずしも短絡に過ぎるとは言えないかも知れない。
しかし日本はいま政治、経済、外交、教育等いずれの面においても、決して楽観が許される状態ではない。とくに教育の荒廃は、それが先進諸国に共通の悩みとはいえ、この複雑な症候群への対策こそは最も急を要する深刻な課題である。
この『日本の武道』は、武道が日本人固有の最もすばらしい文化財の一領域であるという認識に立ち、二十一世紀の日本を展望しながら、新しい時代に即した武道による社会秩序の教育的再建を、健全な良識をもつ人々に広く呼びかけようとするものである。
本叢書では、まず武道の成立過程やその思想的背景を大観しながら、武道の古典の中にそのまま現代武道の学習に通ずる技法・心法の妙があることを示すとともに、それらが現代武道にどのように生き生きと、しかも力動的・合理的に実現されているかなどを、現代武道十種目を中心に実証しようと試みた。すなわち数十ページに及ぶ口絵に事理一元(技と理論との一致)の武道精神を象徴化し、本文では豊富な連続写真、図解などによって技法の分析的かつ総合的な解明を試みた。
その場合、当然ながら武道とスポーツの関係が解明されなければならない。武道と武士道との関係、武芸または武術と武道との関係も同様である。武道が競技的な側面を持つことは当然のことながら、西欧スポーツは本質的に「遊び(プレイ)」を前提とし、武道は本質的に「人間形成(修身)の行い」であることを前提とする。それは嘉納治五郎が「競技」という用語を避けて「大日本体育協会」とし、「スポーツ振興法」(昭和三十六年制定)が、競技的・非競技的な運動を含めて、スポーツは「心身の健全な発達を図るためにされるもの」と規定したのと同軌である。いずれもスポーツ解釈の武道的・日本的杷握とみてよい。
なお本叢書では、武道と特に関連の深い、美術、伝統芸能(茶・書・能・花)をはじめ、禅、儒、養生訓までを採りあげた。冒頭にも述べたように、武道をわが国囚有の根源的な文化財として総合的に把握することを編集基本方針の一つとしたためである。
また、先にも触れたように各武道の巻頭には独特の導入ページ(口絵)を設け、それぞれの武道の精神を視覚的に把握できるように工夫した。さらに本文のまえに、武道を志向する読者の精神的な支えとなるような特別読物を、広く各界の権威の方々から寄稿していただいたりして収める等の配慮を加えた。
この『日本の武道』は、直接には学校や職場や町なかにあって、みずから武道にはげみ、またその指導に当っておられる方、武道を職務の一端とされている驚察官、自衛官、および有段者を含む一般の武道愛好者の方、を対象として編述したものであるが、それらの方々の子弟である学生・生徒の諸君にもぜひ愛読されるよう心から熱望してやまない。
【目次】
マッサージ
マッサージとは
マッサージの種類と適用のしかた
軽擦法
強擦法
揉棯法
押圧法
叩打法
振動法
関節への補助的運動
自己マッサージ
自分で行なえるマッサージ
身体各部へ
ツボと指圧
ツボと指圧について
ツボと指圧
指圧の基本的な方法
人体の主要なツボ
ツボの探り方
テーピング
テーピングとは
テーピングの科学的考え方
基礎用語
身体各部のテーピング法
踵
足の親指
土踏まず
膝
大腿部
ふくらはぎ
肩
肘
手首
指
救急処置
救急処置の考え方
部位別の救急処置法
肩胛骨の骨折
鎖骨の骨折
上腕骨の骨折
肘の骨折
前腕や手首の骨折
大腿骨の骨折
膝の骨折
膝下の骨折
足首や足元の骨折
背骨の骨折
首の骨折
ケガ人の移動法
椅子を使う
前後を支えて運ぶ
―人の腕で椅子をつくる
三人の腕で運ぶ
三人で抱えこむように
六人で両側から支える
人きな毛布を利用
担架を使う場合
ほか
【高橋華王】(著者)1928年(昭和3年) - 2003年(平成15年)
古武術研究家・武道家(宮本武蔵円明流判官派第14代宗家)、教育者。
経歴
福島県伊達市出身。福島師範学校(現:福島大学)、東京教育大学、日本体育大学を卒業。東京教育大学、東京外国語大学、明治大学、日本女子体育大学講師を経て、東京理科大学経営学部教授。その間、東京大学医学部解剖学教室にて人体解剖生理学を研究。
宮本武蔵円明流判官派第14代宗家(関西・武蔵円明流、東京・武蔵円明流判官派などとは異なる)。東洋医学に精通し、鍼灸の資格も持っていた。日本健康長寿学会、武医道会、日中少林武術会、国際武道学会の会長も務めた。
主な著書として
「スポーツ・マッサージ(1978年)」
「銃剣道教本」
「居合抜刀道―大学体育居合抜刀道」
「空手イラストレイテッド―体育空手の実技と理論」
(共著)「合気柔術入門 (大学正課体育武道シリーズ (3))」などがある。