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まえがき

有機合成化学——その工業ならびにその基礎技術――の近年における発展はまことにめ ざましいものがあり、その製品である合成化合物の種類と数のいちじるしい増加と共に新 たな応用面が常に開発されつつあることは周知の通りである。本書の目的とする合成医薬 品も他の合成農薬,合成香料,合成染料,合成洗浄剤,合成工業薬品などの低分子化合物、 合成樹脂、合成繊維、合成ゴムなどの高分子化合物と同じく合成による製品でありながら 従来はその共通の場である筈の合成化学の立場から一括して論じられることは少なく、た とえば医薬品製造化学,医薬品合成化学といった名称のもとに個々に論ぜられその内容も 既知化合物の合成法の羅列にとどまり実際の製造的見地から述べられたものは少なく、新 たな医薬品を合成するにも指針となる面に欠けるうらみがあったようである。しかし合成 医薬品も他の一般の合成物と同じく合成という化学技術によって得られる chemicals であ る点に変わりはなく、それを製造する工業*――医薬品合成化学工業——―も立派に近代合 成化学工業の一端を担っていることはその経済的数字から見ても明白な事実である。

さてその合成を応用する立場から前記の種々のものを考えてみると、医薬品や農薬品は いわゆる“くすり”としてその物質の作用を利用しているのに対し合成香料では香がある という性質を、合成染料では有色に染めるという性質を、合成樹脂、合成繊維では機械的 強度のあるものとか肌合のよいとかいった性質を利用している点、前者を作用物質と呼べ ば後者は性質物質とでも表現すべきものでその取扱い方には自ら差を生じてくる、勿論そ の物質がある作用を示すこともその性質の一つと考えられ、事実染料と医薬品との関係に ついては後述するが嗅覚を対象とする合成香料、味覚を対象とする合成調味料や合成甘味 料などではその反応機構の解明は医薬品作用機構のそれと相関関係があるといわれてい る、医薬品、香料では対象が人体という高分子 (?) であり、農薬、染料では植物体や繊維 という高分子である点も興味あるが、いずれにせよ性質物質ではその物質の物理性(機械 性、電気性その他)や物理化学性を利用するに対し、作用物質ではその化学性に基づく作 用を利用するといい得よう。

本書では医薬品合成を既知物の製造化学的見地よりの検討というよりは、合成という技

・ 新医薬品の製造は特許その他秘密事項の点が多く所謂!!ノーハウ!! 面が少ない、・・・