【SFと科学をつなぐ】
SFの成果を現実の科学技術に基づき平易に解説する良書だ。科学的な新規発想こそは SF の生命線だが、果たしてそれらがどの程度可能なのか、あるいは逆の視点で現代技術がどれほど SF に近づいたのかは SF 愛好者のみならず現代人の関心事の一つだろう。ともすれば未来は何でも可能だと思ったり、あるいは全て絵空事だと思ったりと両極端の人が多いが、SF が現実の科学に豊富なアイデアを提供してきた事実はもっと知られなければならない。
本書の巻頭は近年関心が高まっている軌道エレベーターで始まる。その後、大まかなジャンル分けに従って、過去の SF に現れた技術が紹介される。それは技術説明であると同時に SF への良い案内となっており、SF を読みたいがどれから始めて良いか分からないという人には格好の参考書となるだろう。近年、環境問題などを機に科学に対する反感が強まっているが、科学とは本来人間を新しい世界に導く明るさがある。この本を読めば、まだ科学にはやるべきことがいくらでもあると思うだろう。