松村公嗣（まつむら こうじ）は1948年奈良県生まれの日本画家で、片岡球子に師事し、愛知県立芸術大学大学院を修了後、同大学で教授および学長を務めた。現在は日本美術院理事同人、愛知県立芸術大学名誉教授。代表的な受賞歴に、再興第92回院展での内閣総理大臣賞（2007）、再興第89回院展での文部科学大臣賞（2004）、第52回春の院展での外務大臣賞（1997）、第3回足立美術館賞（2007）などがある。長年『文藝春秋』の表紙絵も担当しており、幅広い活躍を見せている。作風は、国内外の風景や人物との「出会い」から得た感動をもとにした幻想的かつ生命力あふれる表現が特徴で、津軽の海、インドの風景、日本の四季や祭事を題材に多彩な作品を制作している。

松村公嗣「ほたる」日本画 10号 金箔 金泥 共シール
本作《ほたる》は、日本画家・松村公嗣による、夏の夜を幻想的に描いた円形の日本画作品です。漆黒に近い深い背景の中、金箔と金泥によって表現された蛍の柔らかな光が点在し、静けさと詩情に満ちた世界を紡ぎ出しています。ふわりと宙を舞う蛍たちの姿と、それを受け止めるように画面を横切る植物のしなやかな線が、自然界の調和と息づかいを感じさせます。画面には強い光や色彩の対比はなく、あくまでも控えめで品格ある輝きが支配し、見る者の心に静かに染み入るような美をたたえています。蛍の一つひとつに丁寧な筆致が施され、その佇まいは儚くも力強く、まるで時の流れを封じ込めたかのような印象を与えます。

作者の松村公嗣は、片岡球子に学び、愛知県立芸術大学で教授・学長を歴任した後、現在は日本美術院理事同人として活躍する現代日本画壇の重鎮です。国内外の風景や人物との「出会い」から得た感動を、幻想的かつ生命力にあふれた表現へと昇華させており、本作もその精神を体現する一作といえるでしょう。《ほたる》は、ただの情景描写にとどまらず、日本人が古来より大切にしてきた「一瞬の光に宿る命の美しさ」へのまなざしを現代に伝える、詩的で洗練された名品です。