「仮題」とありますが、そのまま決定稿となり、第7話として1990年11月23日に放送されました。
五代目隠密同心・葉月裕之介(橋爪淳)の表の顔は寺小屋の先生。
チームは町方同心の秋草新十郎(京本政樹)、浪人・松原蔵人(隆大介)、尼僧・花小路お光(中村あずさ)。
密偵に六助(小松政夫)と魚屋のおしん(吉野真弓)。
橋爪淳さんは当時、「若大将天下ご免!」でブレークした時代劇のホープ。
「大江戸捜査網」も数年ぶりの再開ということで、否やが応にも期待が高まりました。
しかしながら今一つ軌道に乗らなかったらしく、2クールで早くも終了。
半年後に再開したシリーズでは設定が大きく変えられていました(何しろ秋草新十郎以外キャラクターが全員変わってしまいます)。
いま見るとキャスティングの注目は、先頃亡くなった隆大介さんでしょうか。
無名塾出身、黒沢明や五社英雄作品の個性派が、「大江戸捜査網」のような勧善懲悪時代劇に出演していたこと自体、何かの間違いだったような気がしてなりません。
また、かたせ梨乃さん以来の「大江戸捜査網」の名物と言えば、胸の谷間をのぞかせた魚屋の娘さんですが、このシリーズの吉野真弓さんはとてもかわいらしいフェイスながら、そのテのセクシーさにはいささか乏しかったようです(胸の谷間は次シリーズの荒井乃梨子さんから復活しています)。
この回のゲストは未来貴子さん。
「八百八町夢日記」や、ミキプルーンのCM を覚えておいでの方も多いでしょう。
そして加藤純平さん、田中真由美さん、ワル役は遠藤征慈さん、武藤章生さん。
また監督は「東雲楼女の乱」の関本郁夫が担当しています。
ここに注目のポイント①
脚本を読んでみて驚かされるのは、善悪ともに登場人物が全員、隠密同心を通じて顔見知りであること。
呆れるほど狭い人間関係のなかで事件が起きています。
いくら江戸時代でもこんなことはあり得ないはずですが、文字の脚本が映像になるや、そこいらの違和感は消えてしまう…これは時代劇のお約束ごとです。
ここに注目のポイント②
今回隠密同心が暴く悪事は時代劇の定番ネタ、飾り職人を拐かしてきてニセ小判を作らせる…というもの。
お約束すぎるネタですが、今回はもう一捻りがあって、わざとニセモノと分かる小判で勘定奉行を失脚させようという陰謀が事件を複雑にします。
ワルにもそれなりに考えがあるわけですが、それなら何故もう少し慎重に行動しないのでしょうか。
わざわざ目立つようなことばかりやって自分から騒ぎを起こし、挙句に隠密同心にしっぽを掴まれてしまいます。
その自制心のなさには歯がゆくなる限りですが、これも時代劇のお約束ごと…ワルが賢すぎると、単純明快なヒーローでは太刀打ちできなくなってしまいます。
ここに注目のポイント③
本作はまだシリーズ再開後間もないエピソードということもあり、裕之介や新十郎のキャラクターが固まっていない面も目立ちます。
二人が意見を交わしているうちに激昂してしきて、喧嘩になるシーンがあります。
チームワークの良かった里見浩太朗さんの頃の隠密同心には見られなかった内輪揉めです。
香盤表の設定だと、裕之介は30歳、新十郎32歳、蔵人28歳となっています。
設定と役者のイメージ年齢にに意外とギャップがあります。
特に葉月裕之介の設定は橋爪淳さんのキャスティングを受けて、若くて青春を前面に出したキャラクターへと変えられていることが分かります。
ここに注目のポイント④
また、シリーズ再開後、今回のエピソードから、夜の町を横並びで歩きながら「死して屍ひろう者なし」のナレーションがかかる有名なシーンが復活しています。
脚本ではあのシーン、どのように書かれているのでしょうか?