最初読んだ感想は、「このご時世に珍しいイタい本」だった。
30代半ばまでミュージシャンをしていた著者がSEとして身を立てて起業するまでを綴っているが、
著者がご年配ということを考慮しても、世間的には全く無名な人間がさも偉人のように語った内容は
読んでいてこちらが恥ずかしくなった。わざとらしい関西弁も少々うざい。
ちなみに私自身いわゆるWebサービス系の業界のIT技術者で、
これまで世間的にはそれなりに名の知れたプロジェクトやサービスに関わってきたが、
著者のことは聞いたことすらなかった。
読了後、すぐに星1つをつけたい衝動に駆られるほど読後感は微妙だったが、
不思議なことに、その後時間を置いてから読み返すと本の印象が変わった。
まず本書の素晴らしい点は、0からSI系のSEのキャリアの築き方が丁寧に書かれている点だ。
業務内容や各職位で持つべき視点が具体的に書かれている。
また、簡単な出世物語にもなっていて、読み物としてもなかなか楽しめる。
もう一つが、35歳を目前にSE生活をスタートして階段を上りきり、立身出世を果たした著者に刺激をもらえる点だ。
80年代の黎明期で業界のハードルが低かったとはいえ、
30代半ばからの挑戦でキャリアを築くのは容易なことではなかったはずだ。
通常は一通りの経験やスキルが揃う年齢であり、就転職においても当然求められる条件は高くなる。
そうした状況をくぐり抜けた著者が少々自惚れるのも無理もない。
むしろ自信家の自惚れ屋であることも成功の一因のように思えた。
技術者に限らず、キャリアで苦労している人には参考になる部分が少なからずあるかもしれない。