代表作には「地下道の眠りシリーズ」「泉シリーズ」「荒野シリーズ」などがあり、生涯を通じて現代リアリズムを追求しました。

佐藤照雄「薔薇の幸子 I」油彩 12号 大作 1984年作
本作《薔薇の幸子 I》は、写実的な人物画で知られる佐藤照雄が1984年に制作した裸婦像です。画面には、白い毛皮の上に静かに座る若い女性が描かれており、彼女は一輪の薔薇を手に持ち、足元には黄色い麦わら帽子が添えられています。どこか遠くを見つめるような表情は、静けさと深い内省を感じさせ、見る者にさまざまな感情を呼び起こします。モデルの名を冠した「幸子」というタイトルや、薔薇という象徴的なモチーフからは、画家の優しいまなざしと女性への敬意が伝わってまいります。背景にはクラシックな絨毯や花器が置かれ、生けられた花々とともに、落ち着きのある空間を演出しています。こうした細やかな舞台設定が、モデルの存在感を一層際立たせています。

佐藤照雄は、戦後の混乱期に社会の底辺で生きる人々を描いた「地下道の眠り」シリーズなどで注目され、人間の尊厳や生の重みを描き続けた画家です。本作においても、単なる裸婦表現にとどまらず、人物の内面や人生の静かなドラマが丁寧に表現されています。12号のキャンバスに込められたこの作品は、構図や光の扱い、肌の質感、背景の調和においても完成度が高く、画家の円熟した技術と感性が光ります。穏やかな時間が流れるような静謐な一枚として、多くの人の心に深く響く作品です。