レーベル:Cotillion SD 9052 フォーマット:LP, Stereo, RI (Philips Press) 国:US リリース年:1972年 タグ:Soul, Funk, Northern Soul, 1970s, Female Vocal, Deep Soul
■ 作品の解読|Decoding the Work
ニューオーリンズ出身のTami Lynnが唯一遺したこのアルバム《Love Is Here And Now You're Gone》は、ただのソウルLPではない。それは〈語り〉と〈歌〉が交錯する構成によって、私的な情動のドキュメントとして編み上げられている。A面に配置された「Monologue:~」シリーズでは、失われた愛の残響がモノローグという形式を介して静かに語られ、Ray EllisやWardell Quezergueらによる洗練されたアレンジが、感情の緩急に寄り添うように編み込まれる。B面に入ると空気は一変し、Northern Soulの古典「I'm Gonna Run Away From You」が、胸を突くビートとともに躍動を始める。Brad ShapiroとJerry Wexlerがプロデュースを務めた「Mo Jo Hanna」「One Night Of Sin」に至っては、南部由来のファンクネスとブルースの磁力が濃密に交錯し、シスターTamiのヴォーカルが教会と酒場、どちらのスピーカーも鳴らす可能性を感じさせる。A&RやMalacoなど複数スタジオでの録音、Philips Pressによる重量盤プレス、マスタリングはAtlantic Studiosという制作陣の布陣からも、この作品が一過性のサイド・プロジェクトではなく、Cotillion=Atlantic周縁における“語りうる女声”の試みだったことが読み取れるだろう。ジャズでもR&Bでもなく、Tami Lynnは“声そのもの”を祈りと告白の媒体として召喚する。その声が、ソウルという形式を通じてどこまで届き得るのか——その問いが本作の全編に刻まれている。