縦:約48mm(枠56㎜・バチカン含まず)
横:約38mm(枠45㎜)
作者:-(アンティーク)
QR:ミュージアムクオリティ
19世紀当時カメオの流通の主流となっていたイギリスでは現在多くは見られないモチーフの作品が存在していました。
キリスト教をモチーフとしたものはその中のひとつですが、中でもマリア像はイギリスに引き続きアメリカおよびオーストラリアが流通の主役であった20世紀中頃まで頻繁に見られ、年代に応じた様々な様式のものがみられます。
19世紀の作品は、当時の非常にハイレベルな彫刻技術をもってして素晴らしい作品がみられるのですが、今回のお品物はそれらのマリア像のカメオのなかでも一線を画する名品です。
当ギャラリーをよくご覧になられている方はおそらく一度目にしており、忘れることは無いであろうと貝の瘤を用いた非常に立体的なこのマリア像が再び見つかりました。
貝の瘤が発達した素材は通常よりも立体的な表現に優れ、彫刻色の強かった19世紀とは相性が良く思われるものですが、よりリアルな造形が好まれた当時においてはこの複雑な形状を活かすことが難しく、むしろパスクアーレ・エスポジート作などモダンカメオで見かける方が多い物。
しかしながら本作の作者は同様の作品を複数制作しており、その活用と表現力の豊かさはさすがのもの。
基本的には語るに及ばずというレベルにありますが、あえて少し触れるならばやはり目を引く手で、今回の作品も以前ご紹介した作品と同様に手はもはや立像のもの。
合わせた手の小指はアーチ状に彫り抜かれており、この部分だけを見ればもはやカメオの定義を逸脱しているといってもいいかもしれません。
また気になる顔つきもミケランジェロのピエタを思わせる美しさである一方、肩にかかるヴェールは貝の色を巧みに活かして半透明に仕上げられており、布の細かくやわらかなうねりも合わさって全体をみればカメオでしか表現できない作品であることが明白で、まさにカメオの神髄といえる逸品となっております。
19世紀から現代まで多くの傑作を見てきた私でも見れば見るほどに唸るしかない作品のひとつであり、同系統の作品で本作および本作者に比肩しうるのはサウリーニやノトといった超々一流のみと断言できる大変に素晴らしい作品です。
貝はカフェオレ色の地にくっきりとしたわずかに黄色がかった白色層のサルドニクス。
状態があまり安定しない瘤材であることを思えば非常に高品質といえるもので、この部材ではよく入る淡褐色のマーブル模様や色の入った薄ヒビといったものが見られず、ヘアラインや表面の損耗もないため無欠点といっていいでしょう。
この点においては以前ご紹介した類作よりも綺麗で、フレームが残っていることも併せて状態の良さも本作のポイントとなっております。
フレームは18ktゴールド製とのこと。
現代のフレームと違い全体がそうなわけではなくカメオを裏から固定するパーツは違う金種とみえますが、カメオとフレームの品質にある程度比例関係があった当時の傾向と19世紀イギリスでは18ktは非常に珍しかったことを思えば大変に豪華な仕様で、当時においても本作は他と一線を画する扱いをされていたことが分かります。
もとはブローチだったようですが針およびキャッチは取り除かれており、バチカンが溶着されていて現在はペンダントとなっております。