岩波昭彦（1966年長野県茅野市生まれ）は、多摩美術大学日本画専攻（加山又造クラス）卒業後、松尾敏男に師事し、1991年に院展初入選、1993年に上野の森美術館大賞展佳作賞受賞、2012年には第97回院展奨励賞を受賞するなど活躍を重ね、現在は院展院友、美術記者会会員として活動しています。都市風景と歴史の重なりに強い関心を寄せ、特に長年にわたり描き続けている「都市の肖像」シリーズでは、ニューヨークの高層ビル群を細密に描いた屏風絵《摩天楼》など、変貌する都市の記録を志す姿勢が鮮明に表れています。また、故郷諏訪への愛着を込めた《平成・諏訪大社三題》では、歴史ある諏訪大社とその風景を繊細な筆致で表現し、滲みやぼかしを用いて時の流れと記憶の蓄積を感じさせる作品世界を築いています。日本画の新たな表現を追求し続ける気鋭の作家です。

岩波昭彦「クライスラービル」日本画 10号 金箔金泥仕様 共シール
深く澄んだ群青の夜空を背景に、優雅にそびえ立つ摩天楼。中央に描かれるのは、ニューヨークの象徴的な建築「クライスラービル」。アール・デコ様式の美しい尖塔が金泥で繊細に描かれ、現代都市に宿る光と影のコントラストを鮮やかに浮かび上がらせています。本作は、日本画家・岩波昭彦が長年取り組んでいる「都市の肖像」シリーズの一作です。伝統的な日本画の技法を基盤としながらも、現代都市を主題に据える独自の視点により、都市に内在する記憶や時間の積層を詩情豊かに表現しています。

画面下部を横切る赤や白の光跡は、まるで車のヘッドライトやテールランプの残像のように、都市の喧騒と時間の流れを象徴的に映し出しています。建物の直線的な構造と、かすかなにじみや擦れの表情が交差することで、静けさと躍動感が同居する不思議な空間が生まれています。

岩波昭彦は現在は院展院友、美術記者会会員として活躍し、日本画の新たな地平を切り開いています。《クライスラービル》は、過ぎゆく時の中で変貌し続ける都市の姿を、確かな筆致と静謐な美意識によって捉えた秀作です。日本画の伝統と現代性が調和した、岩波作品の真髄を示す一枚といえるでしょう。