基本情報|Release Information
デジタル黎明期の澄明な空気に刻まれた、四者四様の会話録
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レーベル:CBS/Sony
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品番:25AP 1035
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フォーマット:LP, Stereo
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国:Japan
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リリース年:1979
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タグ:Contemporary Jazz, Japan, 1970s, Audiophile, Master Sound, Studio Work
作品の解読|Decoding the Work
1979年、CBS/SONYスタジオ東京にて、クラリネットの名手・北村英治が、ジョン・ルイス(p)、ジョージ・デュヴィヴィエ(b)、シェリー・マン(ds)というアメリカン・ジャズの重量級メンバーと向き合った。録音方式は当時最先端のMaster Sound DR Digital Recording。この盤は、音楽と録音技術がともに進化の過渡期にあったことを静かに証言する。
北村のクラリネットは、ビバップ的な熱を帯びながらも、柔らかく空間を抱擁する。対するジョン・ルイスのピアノは、モダン・クラシカルのエレガンスを宿しながら、インタープレイに徹した姿勢を崩さない。録音全体を通じて聴こえるのは、ひとつの楽曲を通して複数の音楽観が擦れ合い、やがて穏やかに調和していくプロセスそのものである。
「Django」や「Two Degrees East, Three Degrees West」といったモダン・ジャズ・レパートリーは、ルイスにとって馴染み深い題材であり、北村がそれに日本的抒情性と機知で応答することで、国境を越えた会話が音の中で展開される。録音はDRデジタル・システムによる高精細ステレオで、一音一音の分離が極めて良く、空気の微細な粒子までも捉えている。
このアルバムは、国際的共演という「事実」を超えて、「録音芸術としてのジャズ」の可能性をも提示した作品である。1970年代後半という時代の肌理と、技術・演奏の両面での完成度が、記録と記憶のあわいに美しく配置された希少な一枚。
■録音メディア史における『April Date』の位置づけ|A Sonic Artifact of Format Transition
1979年――アナログとデジタルの境界線上。『April Date』はその特異点に位置する録音物である。ここには、単なる演奏記録を超えた「メディアの自己意識」が封じ込められている。
CBS/SonyのMaster Sound DR Digital Recordingは、PCM録音が黎明期を迎えていた日本において、音楽産業が“音の精度”と“商業的革新性”の両立を模索していた時期の象徴的フォーマットである。この時代、録音はすでにアーカイヴや芸術表現の手段であると同時に、音楽消費における商品価値の「保証機能」としてのメディア設計に強く依存し始めていた。
『April Date』の重要性は、録音対象がジャズであったことにもある。即興性、揺らぎ、呼吸を含むこの音楽形式において、デジタル録音技術がいかにその「一回性」を捉えうるのかという挑戦――つまり、可逆性(デジタル)によって、不可逆性(即興)を封じ込めるという録音史的逆説がここに展開されている。
さらに注目すべきは、録音環境としてのCBS/SONY STUDIO(東京)という場である。ここでは録音技術とアーティストの身体が、単なる対等ではなく、制度としての音楽制作の中で配置された構成要素として再設計されている。これはまさに、1970年代後半の「録音をめぐる政治」の縮図であり、パフォーマンスの本質がフィールドからスタジオへ、そしてスタジオからメディアへと「変調」されていくプロセスのひとつの端点だ。
レコードの物理性、録音の制度性、デジタル化の胎動、ジャズの国際的な対話――『April Date』はそれら全ての交点に置かれた、きわめて貴重なメディア生成的瞬間の音響的証言である。
状態詳細|Condition Overview
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メディア:NM(極めて良好な状態)
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ジャケット:NM(目立つ傷みなし)
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付属品:帯・インサート付属(ともにNM)
支払と配送|Payment & Shipping