語りかけるような挨拶に、海の記憶と島の自負が宿る声の記録

レーベル：Hafa Adai Records
品番：HALP 3305
フォーマット：LP, Stereo
国：Guam
リリース年：ca.1971
タグ：Chamorro, Pacific Folk, Indigenous Music, Island Soul, Cultural Archive

「Hafa Adai（ハファ・デイ）」はただの挨拶ではない。それは植民地下における生存の言葉であり、Johnny Sablanはこの声を、記憶のうねりとして、レコードという時空の裂け目に封じ込めた。『Hafa Adai, Todo Maulick (How Are You?)』は、グアムという地理的周縁から発されたにもかかわらず、明確に制度と音楽史の中心へと抵抗の渦を持ち込む、文化的エクリチュールである。バンジョーにも似たスチールギターの鳴き声、ポリリズミックな手拍子、優しく重なる英語とチャモロ語のコード進行は、いわば「島嶼ポップスのユートピア」だが、それは観光資本に従属する表象としての「アイランド・ミュージック」とは根本的に異なる。ここに聴かれるのは、植民地主義、言語の消失、戦後の軍事支配といった暗い地政の歴史を、家庭の窓辺や村祭りの笑い声の中にしのばせる知的な自己表象の技術である。Sablanの歌唱は、単なる郷愁の記録ではない。むしろ、それは「誰に向けてこの声を残すのか」という問いそのものが音になった瞬間であり、チャモロ語という周縁言語をポップの形式で再配置することで、語りえぬものの亡霊たちを呼び寄せている。島嶼における声の倫理、オーラル・トラディションの記録性、ローカル・アイデンティティとメディアの関係性——この作品はそれらの複雑な層を、愛とともに編み上げる。1970年代初頭に自主制作された本盤は、単なる民俗音楽の資料ではなく、脱植民地主義的な声のアーカイヴである。

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