KESTERの中でもかなり古いモノのひとつとなりますが、そもそも何故にこの日本でもKESTER神話が罷り通っているのか？これを考えると今やルーツは謎に包まれたままとなる訳ですが、きっと70年代後期か80年代あたりではすでに秋葉原あたりでその時代の比較的新しいKESTERがブームになっていたことを鑑みると、当時のオーディオ製作家（自作を推奨する方々）の誰かが波及力のある雑誌でKESTERを謳っていたのかもしれません。

しかし、70年代後期あたりのKESTERを聴いてみると、それは中域の張り出し感に確かに特徴はあるものの、まっ、何もKESTERじゃなくてもいいよね的な音質に聞こえます。んじゃ、KESTERというハンダの老舗メーカーの何処らへんがゴイスなの？ってなことになりますと、確かに60年代からははっきりと良さがわかる実力を持つものが存在いたします。更に遡って50年代のRosin coreや44シリーズなどは味わい深いものと言えるでしょう。

しか～し！それだけでは、50年代60年代のNASSAUやALPHAやDutch boy、BOW、秘蔵っ子NEWYORK Solder などアメリカの名だたるブランドと比較しても、何故にKESTERがこれほど世界的に有名になったのかがさっぱり理解できません。

そこで、更に更にKESTERの製品の歴史を遡ると、このアールデコなデザインの戦前のKESTERに出会うこととなります。ここまで来ると泣く子も黙るみたいな凄みを帯びた音楽性と分解能を持った逸品を発見できます。緑、赤、黄缶などありますが、ある意味この黄色缶がスタンダードな位置にいるのかもしれません。しかしながら、今回のようにVirgin Metalと表記されているものは世界的に見てもほぼほぼ見つけるのは困難で、それほど球数も少なければ、音質も世界的に見て高い評価を得ているものだと思います。

それでは、その音質を探るべく、さっそくレポートしてみましょう！

まずは、THE BEATLES：Strawberry Fields Forever 2009リマスター
まずは、のっけからブライトな高域に驚きます。イントロ左のメロトロンによるフルートもさることながら右チャンの空っぽトラックのノイズさえ心地よいではありませんか！そして、シンバルのブライト感半端ない！次に気がつくギターの素晴らしい音色！エッジが立った強力なブライトな感じ。これは超イケてる。右ストリングスも普段より全然ゾリっと擦れる感が出ていて迫力あります。更に聞き入っていくと、背景に細かな音がめちゃくちゃ入っているこの曲が、その背景音が更に良く聞こえるわけです。勿論テープの転写も含めて・・笑。この時点で分解能の高さはかなりなものだということが理解できます！しかも音質の全体的印象が、このようにブライトでパワフルなのに気をてらった派手さとは無縁の落ち着き、Coolさ、正気な感じ！これ、KESTER本来の持ち味ですね。イントロから優しく響き、Rchのジョンのギターアルペジオが極極自然な倍音率でスタジオのVOXアンプでいい感じに鳴っていたかを感じ、どんな空気の中で録っていたいたかも感じられる！凄いことです！後半、ホンキートンクピアノのハンマーが当たるアタックと繊細な倍音の変化は、見事な再現力としてこのハンダの実力を知ることとなりました。
見事な空間に マジ感動いたします！！

お次は、HOLST：Jupitor：1978ロンドンフィル
これは驚き！！！！
明らかに雄大で見通しも良くアンサンブルとしてものすごく向上しています！このハンダを使う前のストレートワイヤリングとこれを一箇所だけ使ったワイヤリングでは、全く別物のホルスト世界が広がります。細かな楽器の一つ一つの奏者のニュアンスや位置までも克明に表現し、しかもパワフル。しかしパワフルといえどマッチョな感じでは全くありません。したがってスピード感はすこぶる自然。そう、全体の印象も作為的なエンハンスされた感じではなくすこぶる自然と言えます。上品と言っても良いかもしれませんね。トゥッティのダイナミクスとパワー感も圧倒的で、しかも自然でまとまり感もGood! 暴れない・乱れないのです。細やかなPP時の空気その中での木管の響きも素晴らしく。和声の表現力もこれはNASSOUなどの古いものとも全く引けを取らない実力。定位も良く、整然と聞かせる落ち着き感が、このKESTERの最もすごいところ！
いやいや、ここまで交響曲をうまく鳴らすハンダも滅多にない。クラシックの最上級ハンダです！！！

では、比較的最近のBob Dylan：Time Out of MindよりLove Sick
名プロデューサー：ダニエルラノワによる強烈なアナログ・レコーディング・ワーク。いやもう何層に何層にもダビングされた大量の空気の量は、勿論このBob Dylanの曲にも生かされていて、それこそ一体何本のギターが入っているのか数えるのが面倒で、しかもそれらが全部豊かな空気の位相で持って何層にも重なり合う。それを底の底まで聞けるのは、このハンダのおかげ！そう、強力な分解能はここでも発揮され、しかも何層もある空気の時間軸の流れを克明に楽しめる！強力なアンビエントな構造。しかもそれぞれがめちゃくちゃ歌う。つまり高い芸術性のハンダ！決してシラケさせない魅力。こんなに落ち着いて整然としているのにまったく平坦ではなくシラっとしていないのは、もうひとつの奇跡なんでしょうね。ギターサウンド、とにかくフィンガーノイズなどの細かいところまでものすごく音楽的！ヴォーカルは、良質なレコーディングをされた後に、なんと最後にフェンダーのツィードアンプで再生して歪ませた音をリレコーディングしてあり、それが、下手をするとけっこうノイジーな印象さえあったのですが、これがこのハンダ一箇所で実に気持ちいいではありませんか！
これが、本物のKESTERの実力っす！！！

さらにフェンダー系、ギブソン系のギターに一滴！試してみました。これはですね、試さない方が損をするとでもいいましょうか！激変します。マッチョな方向ではありません。何かしら本来的なギターの自然倍音を捉えてくれます。凄いですこれ！

う～む、欠点を探すのが非常に困難なハンダです。

RCAピンケーブルの配線材、自作のアンプ用配線材に、ギターやベースに使ってみるだの、楽器のケーブルに使うだの、とにかくレベルの全く違うハンダということだけはお伝えしておきます。是非このワイヤーの極繊細で自然な「品格・気品」とハイファイ感とGROOVE感 を お楽しみください！！