高塚省吾（1930年7月26日～2007年5月28日）は岡山市出身の洋画家で、美人画・裸婦画で絶大な人気を誇った。東京芸術大学で梅原龍三郎、林武、硲伊之助に師事し1953年卒業、第7回から第11回まで日本アンデパンダン展に出品した。新東宝撮影所美術課勤務や谷桃子バレエ団美術担当、NHK広報室嘱託（1956～1968年）、小津安二郎監督映画のタイトル制作など多方面で活躍。1978年ジャパン・エンバ美術賞入選、1979年曹洞宗で受戒。禅の修行を経て作風を見つめ直し、春陽堂版江戸川乱歩全集の表紙絵や『高塚省吾素描集 おんな』（1980年）出版を機に裸婦美人画家としての名声を確立、作品はカレンダーやポストカード、画集として広く親しまれた。

高塚省吾「ビロードのローブ」油彩 6号
本作《ビロードのローブ》は、美人画・裸婦画の名手として知られる洋画家・高塚省吾による、静謐で格調高い一枚です。画面には、肩を露わにしながら、柔らかなビロードのローブを手にした若い女性が描かれています。彼女はややうつむきながら視線を落とし、その佇まいはどこか内省的で、見る者に静かな感情を呼び起こします。女性の肌は白磁のように滑らかで透明感があり、繊細な筆致によってその質感が丁寧に描き出されています。特に顔立ちは整っており、凛とした美しさと気品が漂います。引き締まった口元や伏し目がちの表情からは、単なる裸婦表現を超えた精神的な深みが感じられます。

タイトルにある「ビロードのローブ」は、柔らかく深みのある質感で描かれ、女性の肌との対比により作品に温もりと陰影を与えています。この布地をまとおうとする仕草は、身体を覆うだけでなく、女性の内面や心情をも象徴しているようです。高塚省吾は、東京藝術大学で梅原龍三郎、林武、硲伊之助といった巨匠に学び、映像美術や広報の分野でも活躍した異色の経歴を持つ画家です。1970年代後半、禅の修行を経て画業に新たな精神性を取り入れ、女性美を内面から捉えるような表現へと深化させていきました。本作もその代表的な成果の一つであり、繊細な写実力と深い精神性が融合した、まさに「見る者の心に語りかける裸婦像」と言えるでしょう。静けさの中に凛とした美を宿すこの作品は、高塚芸術の真髄を体現した名作です。