藤田喬平（ふじた・きょうへい、1921年東京都生まれ、2004年没）は、日本を代表するガラス工芸家で、文化勲章受章者。東京美術学校工芸科彫金部を卒業後、金属造形で日展初入選を果たし、のちにガラス工芸へ転向。1949年に独立し、借工房での制作を経て、百貨店での個展などで評価を高めた。流動するガラスの一瞬を捉えた「流動ガラス」や、琳派に影響を受けた「飾筥（かざりばこ）」シリーズで独自の作風を確立。1976年に日本ガラス工芸協会会長に就任し、ムラノ島でも制作を行うなど国際的にも活躍した。1996年には宮城県松島町に「藤田喬平美術館」が開館。伝統美と現代性を融合させた作風で、日本におけるガラス・アートの発展に大きく貢献した。

藤田喬平「手吹 飾筥 藤娘」ガラス工芸 共箱 高さ16cm 七角形 金箔・プラチナ箔仕様 銀覆輪
本作「藤娘」は、日本を代表するガラス工芸家・藤田喬平（1921-2004）による「飾筥（かざりばこ）」シリーズの一点であり、その詩情あふれるタイトル通り、藤の花のたおやかさと女性の気品を思わせる優美な作品です。七角形という稀少な形状の容器は、すべて手吹きによって成形され、柔らかくも精緻なフォルムを湛えています。表面には金箔とプラチナ箔が施され、ひび割れ模様のように繊細に広がるその装飾は、まるで風に舞う花びらや藤棚の揺らめきのような風情を漂わせます。そこへ紫、白、淡桃の色彩が点描のように重ねられ、静と動、光と影が溶け合う豊かな表情を生み出しています。

さらに、蓋と胴の接合部には銀覆輪が施され、構造美と機能性を高めながら、全体に気品と格調を添えています。刻銘が施されており、作家自身の手による真作であることが保証されています。また、共箱付きで保存されており、完成度の高さを物語ります。藤田喬平は、伝統的な美意識と現代的な感性を融合させ、ガラスという素材に新たな命を吹き込んだ芸術家です。本作「藤娘」は、琳派の装飾性と日本女性の典雅さをガラスの中に凝縮した、まさにその真骨頂とも言える作品です。飾るだけで空間を一変させる華やぎと、細部に宿る静かな緊張感。見る者の心に余韻を残す、現代ガラス工芸の傑作です。