ドラ・モレレンバウムは、カエターノ・ヴェローゾや坂本龍一らの作品への参加で知られるチェロ奏者ジャキス・モレレンバウムと歌手パウラ・モレレンバウムの娘として生まれた。著名な音楽一家に生まれた彼女は、デビュー曲となったバラード「Do a do」(ゼー・イバーハのソロアルバムにもカバーが収録されている)から、ただならぬ才能を滲ませていた。2021年には1stソロEP『Vento de Beirada』(2021)を発表。アナ・フランゴ・エレトリコ、ルーカス・ヌネス、ギリェルミ・リリオとの共同プロデュースで制作されたこのEPは、彼女がブラジルの伝統に根差した類まれなシンガー・ソングライターであることを確かに示していた。翌年には、ゼー・イバーハ、ジュリア・メストリ、ルーカス・ヌネスと共にバーラ・デゼージョを結成。「トロピカリアの再来」とも称されたバーラ・デゼージョの1stアルバム『SIM, SIM, SIM』(2022)は、ブラジルに限らず世界中でセンセーションを巻き起こした。
同じくバーラのメンバーであるジュリア・メストリとゼー・イバーハがソロアルバムをリリースする一方、ドラにはこれまでアルバムのリリースがなかったが、2024年、ようやく彼女の待望となる1stソロアルバム『Pique』がリリースされる。共同プロデュースには『Vento de Beirada』に引き続きアナ・フランゴ・エレトリコが参加し、コーラスとアレンジには父ジャキス・モレレンバウムと母パウラ・モレレンバウムが参加。他にも、ジュリア・メストリ、ゼー・イバーハ、ルーカス・ヌネスといったバーラの面々から、ギリェルミ・リリオやトン・ヴェローゾなど豪華なゲストが集結した。
スロー・バラードを基調としていた『Vento de Beirada』と比較すると、本作『Pique』ではディスコ、MPB、ファンク、ジャズ、ソウルを織り交ぜたより煌びやかなサウンドへと変化。インナー・ファンク・テイストの「Venha Comigo」、ストリングス・アレンジが一際美しいメロウな「Essa Confusao」、エレピが躍動するジャズファンク「VW Blue」など、多彩なテイストの楽曲を楽しむことができる。このファンキーなサウンドへの変化は、共同プロデュースで参加したアナ・フランゴ・エレトリコの美学が反映されているのだろう。しかし、身体的というよりはどこか内省的で、ドラの楽曲の大きな魅力である「包み込むような幽玄のムード」を存分に堪能することができる。