●兵士アレッサンドロ・ジュリアーニ 上下巻 マーク ヘルプリン
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河出書房新社 １９９７．５．初版第一刷．ハードカバーＢ６サイズ．約415+406項．マーク ヘルプリン (著), Mark Helprin (原著), 中川 美和子 (翻訳) 1100g
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全体状態評価「Ｂ」・経年劣化「小」・カバーイタミ「小」・スリキズ「小」・小口手あか「無」・日焼け「小」・水濡れ「無」
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大学の創作科で教えるぐらいなら、薪割りで稼ぐよ 物語は、１９６４年の夏、第一次世界大戦で戦い、人生を知りつくした美学の老教授アレッサンドロ・ジュリアーニが、プロペラ工場の見習いをしている少年ニコロ・サンブーカと出会い、これまでの人生を語り出す、というところから始まる。イタリア人弁護士の裕福な家庭に生まれたアレッサンドロは、家族の愛情に守られ、何不自由ない少年時代、青春時代をおくる。若枝のようにしなやかでエネルギーに満ち溢れる青年時代のアレッサンドロには、怖いものはひとつもない。彼はローマやミュンヘンなどの都市、そしてボローニャの大学で、街そのもや絵画の美しさ、つまり、人間の創り出した美を学び、吸収し、称賛する一方で、父親や親友とともに山や岩登りをし、厳しい自然の中の美も存分に味わう。こうして育てていく美に対する愛情、彼を困難な人生に立ち向かわせる原動力なのだ。そうして幸福な青春時代をおくっていたアレッサンドロも、第一次世界大戦の勃発によって、家族から、そして彼が愛した美しいものたちから否応なく引き離され、戦争の泥沼の中に突き落とされてしまう。アレッサンドロの父親の事務所で働いていたときから狂気の片鱗を見せていたオルフェオ・クワッタが、ここでその本領を発揮する。戦争を混乱に陥れるオルフェオは、まさに戦争の気まぐれと狂気の象徴となる。そんな中で、アレッサンドロはなす術もなく翻弄される・・・。 小説を書くとき、ヘルプリンはいつも、最後の一行を決めてから書き始めるという。その最後の一行という石をできるだけ遠くに放り投げ、それに向かって書き進めていくのだそうだ。「すべてが一斉に流れ出した。それは歌声にも似ていた」七年かかって書き上げたこの作品は、スケールも長さも豊穣さも申し分ない。濃い緑の軍服に、羽を立てたチロル帽といういでたちのアルプス兵は、北イタリアの若い男女がもっとも惹かれる軍隊だという。スキーと山登りが堪能であることが必要で選ばれることは名誉でもある。第一次世界大戦で６０万人の犠牲者を出したイタリア軍の最先鋒にアルプス兵がいたことを国民は知っている。１９８０年、ドリミティ・アルプスを妻と登ったとき、たどり着くだけでも困難なこの場所で、戦いがあったことにヘルプリンは驚く。清らかな場所で、戦争があったことを想像するだけで、背筋が寒くなったという。この作品を書くきっかけになったという。 ジョルジョーネの絵画「ラ・テンペスト（嵐）」がライトモチーフのように使われている。「これは、ぼくの人生の物語になるはずだった。ぼくは兵士だった。世界は嵐に打ちのめされ、彼女は光の天蓋の下で、傷ひとつ負わずに赤ん坊を抱いていた。」 「ジョルジョーネの絵には赤がほとんどないことにおまえは気づくだろう。緑と金色が圧倒的に多い。緑はもちろん自然の色で、金色は神聖、そして平穏の色。完璧なものと同様、ほとんど存在しない色だ。ジョルジョーネの時代には、一般的にこんなふうに色を使っていた。赤は人間の死にゆく運命を描き、緑は自然、金色は神だった」 戦場に流れる愛の旋律…。数奇な運命をたどったイタリアの一兵士の物語。アーヴィングと並ぶ現代アメリカ文学の旗手が、豊かな幻想性をもって築きあげた壮大な物語空間。 イタリア人弁護士の裕福な家庭に生まれた主人公アレッサンドロは幸福な少年時代をおくる。第一次世界大戦の勃発によって家族と引き離され兵士として戦争の泥沼の中に突き落とされてしまう。 ステラ・マリス、暗い海に煌めく星のような収容所、そして、風が歌う要塞「鐘楼」で、仲間たちの血が流れた。戦争の狂気のさなかアレッサンドロはなお愛と美を求めつづける。 戦争の狂気の中で囚われの身となりアレッサンドロは暗い海に煌めく星のような収容所、ステラ・マリスに送られた。そして風が歌う要塞で仲間たちの血が流れた。戦争のさなか彼はなお愛と美を求めつづける 【波乱万丈、それがこの物語りにふさわしい言葉】 1947年生まれ。主人公アレッサンドロはそれこそ匂い立つような香しい青春を送る中で、唐突に、しかし起こるべくして起こった戦争に巻き込まれ、いつしか鋼鉄の兵士へと転身しておりました。死を恐れず涙を流さず。 軍隊に入る前は恋をしていました、失恋をしました、美について何ごとか極めてみたい、そんな望みがありました。戦争が始まってからは仲間や家族の死、別離、など実に悲しいことばかりが連続するのはよくある話、と言われればそうだけどそうじゃない！どんなに残酷なことが起ころうともこの主人公の青年というものの伸びやかさ鮮やかさ忘れられない残像が常に背後で輝いているのです。兵士である彼自身はもう忘れてしまっているもの、でもいつもそこにある。その主人公の魅力にすっかり捕えられてしまいました。戦争を生き抜き年を取りもうすぐ彼は生涯を全うしますが、その決着の付け方は何とも心に残ります。彼のお話は、バスを共に降りた少年と目的の町まで歩いて行こうとする偶然の成りゆきの道すがらに語られるものです。年老いて足もよろよろした老人がひたすら歩いて行く‥そうそう、主人公は山登りの名手だったのですわ。あぁこの山というもの。私は登りたい気は更々ございませんが、その登山経験の描写こそこの小説の白眉であります。父親との子供時代の楽しい登山、そして兵士としても山登りはしますがそれは何と悲しい登山となったことか。 大円団のストーリーにはあらず。苦味も痛みも不可解もたんと用意され、でも「物語り」というものを著者はよくご存知でこの空間で私は久々に大遊びしましたとも。何だか細かく感想を書いているのがいやになるぐらいこの物語は飛んでいます。 最後にすごい脇役オルフェオの名も忘れてはいけません。傑作ではありますが、戦争が生み出した魔物として。 【第一次大戦のイタリアを舞台に物語の森に彷徨いこみたい大長編】 ある少年と出会った老教授が自分の体験した戦争について語り始め・・・というお話。 と一言で書くとそれだけになりますが、上下２冊、上下二段組み８００ページというボリュームで読者を圧倒する大長編。一人の人間が一生で体験するであろう営為と総体を一冊の書物に落とし込んだ巨編。 家族との葛藤、熾烈な戦闘、山岳冒険行、虜囚体験、などなど至れり尽くせりの盛り沢山で読者を虜にすること必至の物語。これだけ長い小説を集中力を途切れさせることなく描き切った著者の執念ともいうべき筆力に脱帽の大作。 最後に著者ヘルプリンの戦争感が出てくるので引用しておきます。この長い台詞にヘルプリンの戦争に対する感情が凝縮されているようにおもいます。 「わたしが見る限り、戦争の一番の問題点は、それが生みだす悲惨と悲しみではない。そういったものは、遅かれ早かれやってくるものだ。戦争の一番の罪は、その唐突さなんだ。戦争がなければ美しく積み重なったひとつの人生を作っていくはずの様々な段階が、突如として抜け落ちてしまう。 幼子は母親を奪われ、親は子供たちがこの世界にたったひとり残されてしまうという耐え難い思いを抱えたまま死んでいくんだ。男女間の愛は成就することなく、炎のように燃え上って消えていくことも許されない。新しい世代は生まれず、家族は消滅する。血筋とともに、家の歴史が幕を閉じる場合もある。わたしに言わせれば、それが戦争の一番の罪だ。」 長さに怯まず機会があったら読まれたい傑作です。 【欧州大戦を戦った一兵士の闘争と遍歴の物語】 冒頭、とんでもない頑固ジジイとして登場する主人公アレッサンドロが、 若いときからやっぱり頑固に戦場を生き抜き、その頑固さで何を得たのか。 そして何を失ったために、こういう頑固ジジイになったのかという話といえる。 印象的な登場人物としては、やはり代書人オルフェオにつきる。 「神聖な樹液が樹液が」とか言って、何を指し示した言葉なのかと思ったら、 なんの事はない、単に気が狂ってるだけでしたというキャラクター。 しかし、成り行きで軍中枢に君臨してしまった彼が、 理屈も何にもなく、ただ気まぐれに主人公の人生を破壊する様は、 まさに戦争の狂気を象徴していて、滑稽であると同時にすごく怖い。 歴史小説にリアリズムを求める人は読まないほうがいいが、 面白い物語が読みたいという人には、ぜひとも薦めたい本。 |
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