
文庫です。 状態は並です。
きまじめなサラリーマンの河合譲治は、カフェでみそめて育てあげた美少女ナオミを妻にした。河合が独占していたナオミの周辺に、いつしか不良学生たちが群がる。成熟するにつれて妖艶さを増すナオミの肉体に河合は悩まされ、ついには愛欲地獄の底へと落ちていく。
性の倫理も恥じらいもない大胆な小悪魔が、生きるために身につけた超ショッキングなエロチシズムの世界。巻末に用語、時代背景などについての詳細な注解、解説、および年譜を付す。
本文より
ナオミを「偉くすること」と、「人形のように珍重すること」と、この二つが果して両立するものかどうか――?今から思うと馬鹿げた話ですけれど、彼女の愛に惑溺して眼が眩んでいた私には、そんな見易い道理さえ全く分らなかったのです。
「ナオミちゃん、遊びは遊び、勉強は勉強だよ。お前が偉くなってくれればまだまだ僕はいろいろな物を買って上げるよ」
と、私は口癖のように云いました。
「ええ、勉強するわ。そうしてきっと偉くなるわ」……(本書61ページ)
本書「解説」より
その対象がいかなる女性に向けられるにしろ、谷崎が終生求めつづけたのは、魅惑と同時に禁忌の色であるところの「白」だったということである。そしていつの時期にあっても、谷崎が模索した「白」の象徴は時代の風俗とともにある。(略)大正モダニズムの衣裳をまとったナオミの姿は、いまなお嫣然(えんぜん)とわれわれにほほえみかけてくるのである。
「悪」によっていよいよ磨きをかけられたナオミの肌のこの世のものならぬ白さ。……
――野口武彦(文芸評論家)
谷崎潤一郎(1886-1965)
東京・日本橋生れ。東大国文科中退。在学中より創作を始め、同人雑誌「新思潮」(第二次)を創刊。同誌に発表した「刺青」などの作品が高く評価され作家に。当初は西欧的なスタイルを好んだが、関東大震災を機に関西へ移り住んだこともあって、次第に純日本的なものへの指向を強め、伝統的な日本語による美しい文体を確立するに至る。1949(昭和24)年、文化勲章受章。主な作品に『痴人の愛』『春琴抄』『卍』『細雪』『陰翳礼讃』など。