
スターズオンESP/ヒズネームイズアライヴ
ブランド:日本コロムビア
米ミシガンのインディー・シーンにおける最重要グループ、ヒズ・ネーム・イズ・アライヴ(His Name Is Alive)の4thアルバム(1996年発表)。
ヒズ・ネーム・イズ・アライヴ(以下、HNIA)の中心人物、Warren Defeverは1969年、ミシガン州リヴォニアの生まれ。幼少期から、ミュージシャンだった祖父のバンドでギターやフィドルを演奏したり、テープレコーダーを用いてフィールド・レコーディングを行うなど、音楽に親しみます。高校生の頃には、ジャズ・バンドでベースを演奏する傍ら、HNIA名義で、フィールド・レコーディングで録音した音を加工して作品を制作するようになります。1989年には、バウハウス(Bauhaus)やコクトー・ツインズ(Cocteau Twins)、ピクシーズ(Pixies)らを輩出したロンドンのインディー・レーベル、4ADと契約。翌1990年、Karin Oliverをボーカルに据え、1stアルバム『Livonia』でデビューします。1991年には2ndアルバム『Home Is In Your Head』を発表。1993年の3rdアルバム『Mouth by Mouth』ではTrey Many(Ds)も加わり、同年、Warren、Karin、Treyの3人編成で、初の北米ツアーも行います。そして1996年、HNIAの4thアルバムとして4ADから発表されたのが本作です。
本作は前作『Mouth by Mouth』完成直後の1992年から、3年以上の歳月を費やして制作されました。メンバーのラインナップは前作同様、Warren Defever(Gt、Bs、Key、etc)、Karin Oliver(Vo)、Trey Many(Ds)の3人。曲は基本的にWarrenによって書かれたものですが、他のミュージシャンとの共作のものまあるようで、アウトレイジャス・チェリー(Outrageous Cherry)のMatthew Smith、レッド・ハウス・ペインターズ(Red House Painters)のMark Kozelek、ゴズーキー(Godzuki)のErika Hoffmann、ペイル・セインツ(Pale Saints)のIan Mastersが、ソングライティングでクレジットされています。
時期によってその音楽性が大きく異なるHNIAですが、本作は初期の幽玄な作風から大きく変化し、よりメロディを重視したポップで親しみやすい内容となっています。制作にあたっては、Defeverがよく聞いていたというオールディーズ・ラジオからインスピレーションを得ているようで、前作でのシューゲイザー / ドリーム・ポップ的要素に加え、モータウン、ガールズ・ポップ、サイケデリア、サーフ・ロックといった60年代のポップ・ミュージックから、フォーク、カントリー、ゴスペルといったルーツ・ミュージックまで、様々な音楽の要素を大胆に取り入れつつ、シンプルでポップな作品に仕上げています。また、所々曲間にジングル的なものが挟まれており、ザ・フー(The Who)の『Sell Out』のように、アルバム全体が架空のラジオ放送のようになっている点も特徴です。
M1「Dub Love Letter」、M3「Bad Luck Girl」、M5「The Bees」、M6「What Else Is New List」、M8「Universal Frequencies」は、60年代のガールズ・ポップやサイケデリアからの影響を感じさせるナンバー。いずれも弾けるようなポップなメロディに、M1ではトレモロのかかったファルフィッサ・オルガン、M3ではロネッツ(The Ronettes)の「Do I Love You」を元にしたリフ、M5では音響処理されたスタッカートピアノ、M6ではダークなサーフ・ギターが、それぞれサウンドを特徴づけています。また、M8はWarrenがビーチ・ボーイズ(The Beach Boys)の「Good Vibration」の "続編" として書いたもので、オリジナルのメロディーに「Good Vibrations」とそっくりのアレンジを施した、ユニークなナンバーとなっています。
M10「I Can't Live In This World Anymore」 は、Warrenが本作のために書いた最初の曲で、フォークやカントリーの影響が感じられます。また、M2「This World Is Not My Home」とM15「Last One」は、M10のアレンジを変えて再録したもので、M2ではシカゴ音響派風なギター・リフがフィーチャーされ、M15ではのちにボーカリストとしてグループに加わることになるゴスペル・シンガー、Lovetta Pippenがコーラスで参加しています。
その他の曲は、前作でのシューゲイザー / ドリーム・ポップ的な雰囲気を継承しつつ、エコーやリヴァーブといったエフェクトを抑えた、アコースティックで具象的なサウンドとなっています。どことなく物憂げな雰囲気に、耀うような瑞々しいギター、シンプルながら洗練されたメロディ、初期とはスタイルの異なるKarinの甘いボーカルなど、どの曲も他のHNIAの作品にはない魅力があります。個人的にはこの方向性をもう少し突き詰めてほしかったところですが、彼らのサウンドは次作以降、どんどんブラック・ミュージック寄りにシフトしていくことになります。
なお、出典は不明ですが、Wikipediaの解説では本作を "ESPディスク・レーベルのシングルの疑似コンピレーション" であるとしています。ESPとは、1960年代中頃〜70年代中頃に、サン・ラやファラオ・サンダースといったフリー・ジャズから、フリーキーなロック、前衛フォークまで、ジャンルの枠を超えてアンダーグラウンドな作品をリリースしたNYブルックリンの伝説的レーベル。本作には同レーベルのような前衛性は感じられませんが、 "Stars of E.S.P." というタイトルや、裏ジャケットの各曲タイトルに附されたシリアス・ナンバーと架空のバンド名のようなもの(例えばM8は、"No6010.8 BEECH BOYS Universal Frequencies" と記載されている)から察すると、本作を、15組の架空の "ESPのスターたち" の作品を集めた架空のコンピレーション、と解釈することも出来そうです。
HNIAのアルバムの中では決して知名度の高くない本作ですが、個々の楽曲のクオリティは素晴らしく、本作をフェイバリットに挙げるファンも多いようです(個人的にも、彼らのアルバムの中で本作が一番好きです)。本作発表後、HNIAは、R&Bやファンクなどブラック・ミュージックの要素を取り入れた5thアルバム『Ft. Lake』(1998年)を発表。その後、KarinとTreyの脱退を経て、6thアルバム『Someday My Blues Will Cover the Earth』では、Lovetta Pippenのボーカルをフィーチャーした本格的なR&Bサウンドへ移行します。7thアルバム『Last Night』(2002年)を最後に4ADを離れ、その後はメンバーの交代やサウンドの変化を遂げつつ、現在はデトロイトを拠点に活動しているようです。
<Tracklist>
01. Dub Love Letter
02. This World Is Not My Home
03. Bad Luck Girl
04. What Are You Wearing Tomorrow
05. The Bees
06. What Else Is New List
07. Wall of Speed
08. Universal Frequencies
09. The Sand That Holds the Lakes in Place
10. I Can't Live in This World Anymore
11. Answer to Rainbow at Midnight
12. Famous Goodbye King
13. Across the Street
14. Movie
15. Last One
試聴のみ。大変綺麗な状態です。
プラケースなし。ビニールケースに封入して発送予定。
邦盤。解説、帯付き。