【F3989 深淵藍光】前方後円墳の霊気で浄化！3.21ct大粒サファイア Pt850無垢リング
ご入札をご検討いただき、誠にありがとうございます。
これは単なる宝飾品ではございません。一つの物語であり、哲学であり、これから人生の荒波に漕ぎ出す、すべての勇敢なる魂に捧げる護符（アミュレット）でございます。
長文となりますが、このジュエリーが宿す本当の価値をご理解いただくため、しばし私の拙い筆にお付き合いいただければ幸いです。
第一章：古墳と青
「おい、木田君。ぼさっと突っ立っているんじゃない。ただの丘と池だと思って見ているだろう、この素人めが」
淀んだ生温かい風が、古代の濠の水を撫で、草の匂いを運んでくる。俺、陶芸家であり美食家、そして自称「美の探求者」貝代（かいしろ）は、傍らで感心したように古墳を眺めている若い編集者の木田君のうなじを、言葉でひっぱたいた。
「は、はあ……。しかし貝代先生、壮大ですね。この石積みの壁、葺石（ふきいし）というんでしたか。一つ一つが人の手で積まれたかと思うと、古代人のエネルギーに圧倒されます」
「ふん、エネルギーか。そんな陳腐な言葉で片付けるな。お前は何も見えとらん。この古墳が、ただの王の墓だとでも思っているのか。違う。ここは時間そのものが澱（よど）み、凝縮された巨大な『器』なのだ。千数百年の歳月、人々の畏敬、土地の霊気、天体の運行……そのすべてを吸い込み、熟成させてきた大地の壺よ。今日、我々がここに来た理由は、ピクニックのためではない。この指輪の『浄化』のためだ」
俺はそう言って、人差し指と親指でつまんでいた一つの指輪を、木田君の目の前にかざした。
太陽の光を浴びて、指輪は沈黙している。プラチナの白銀の腕に抱かれているのは、一つの深く、昏（くら）い青。まるで、晴れた日の昼間だというのに、真夜中の深海をそのまま切り取ってきたかのような、吸い込まれそうな蒼色だ。
「うわ……！先生、これが例の……」
「そうだ。ナチュラルブルーサファイア、3.21カラット。脇石のダイヤモンドが0.41カラット。台座はPt850。この数字が、お前のような素人にも価値を伝える唯一の言葉だろうが、俺にとってはそんなものはどうでもいい。問題は、この石が持つ『気』だ」
俺は指輪を陽光に透かす。クッションミックスカットとやらのモダンな切り方だが、その奥に宿る色は、人間の小細工を超越している。ただの「青色」ではない。藍染めの甕（かめ）の底に溜まった最も濃い部分の色であり、雨上がりの夜空の色であり、賢者の瞳の奥に宿る諦観の色だ。
「このサファイアは、スリランカか、マダガスカルか、生まれた場所は知らん。だが、数多の人の手を渡り、市場の喧騒に揉まれ、俗人の欲望に晒されてきた。宝石というものは、それ自体が記憶媒体なのだよ、木田君。持ち主の念を吸い込む。だから、俺のコレクションに加える前に、一度その記憶を洗い流し、生まれたままの魂に戻してやる必要がある。そのために、この日本随一のパワースポット、前方後円墳まで足を運んだのだ」
木田君がごくりと喉を鳴らす。俺は古墳の濠を囲むフェンスに近づいた。そこには、一枚の素っ気ない看板が掛かっている。
『古墳の池でコーフンしてもフェンスを越えたり釣りはしないでくれ。そこはフンばってガマンしてくれ！ よろしく』
くだらん。実にくだらんダジャレだ。だが、このふざけた看板の裏にある本質を、木田君は理解できまい。
「『興奮しても我慢しろ』か。言い得て妙だな。美というものは、人を興奮させる。所有したい、支配したいという欲を掻き立てる。だが、真の美とは、その一歩手前で踏みとどまり、ただ静かにその存在と対峙することでのみ感得できるものだ。この看板は、俗人への警告であると同時に、美を解する者への道標でもあるのだよ」
俺は指輪をそっと懐から取り出した絹の布の上に置き、古墳から吹いてくる風に当てた。千五百年前の王が見たであろう空、その下で、この数十億年前に地球の奥深くで生まれた石が、新たな呼吸を始める。俺にはその微かな振動が、指先を通じて伝わってくる。
第二章：不完全なる調和
しばらく古墳の霊気に指輪を晒し、その青が一層の深みを増したように感じられたところで、俺たちは墳丘へと続く階段を登り始めた。石段の一段一段を踏みしめるたびに、現代の喧騒が遠のいていく。
頂上には、復元された円筒埴輪がずらりと並んでいた。素焼きの、素朴で力強い造形。俺が作る備前や信楽の壺にも通じる、土と炎の芸術だ。俺は埴輪の一つに近づき、そのざらりとした表面を撫でた。
「先生、この指輪のデザインですが……」
木田君が、息を切らしながらも質問を投げかけてくる。良い傾向だ。ただ感心しているだけの猿から、疑問を持つ人間に一歩近づいた。
「このサファイアの周りを囲むダイヤモンド、すごいですね。太陽みたいに……」
「馬鹿者ッ！」
俺は一喝した。
「太陽だと？このサファイアが夜空なら、ダイヤモンドは月や星だとでも言うつもりか。陳腐な比喩も大概にしろ。よく見ろ。この脇石のダイヤモンドは、二種類あるのがわからんか」
俺は再び指輪を木田君の目の前に突きつける。彼は目を凝らした。
「ああ……本当だ。四角くて長い『バゲットカット』のものと、丸い『ラウンドブリリアントカット』のものがありますね」
「そうだ。そしてそれが味噌なのだ。もしこれが、すべて同じ形のダイヤモンドで取り巻かれていたら、ただの凡庸で退屈な指輪に成り下がっていた。それは『調和』ではない、『同一』だ。芸がない。だが、この職人はわかっている。中心に鎮座する絶対的な『静』であるサファイア。その周りに、氷柱のように静謐な光を放つバゲットカットの『凛』とした輝きと、閃光のように瞬間的な煌めきを放つブリリアントカットの『動』の輝きを配置した。静と動、凛と閃。この異質な光の共演が、互いを引き立て、殺し合い、そして高め合う。まるで……」
俺は言葉を切り、遠くの山並みを見つめた。
「まるで、夫婦のようではないか」
「夫婦、ですか？」
木田君が、きょとんとした顔で聞き返す。
「先生のような孤高の方が、夫婦を語るとは意外です」
「孤高だからこそ、見えるものがあるのだよ」
俺は鼻を鳴らした。「世の凡俗どもは、大きな勘違いをしている。結婚相手とは、自分と最も『相性の良い』人間を選ぶべきだ、と。笑わせるな。そんなものは、ただの馴れ合い、傷の舐め合いだ。楽なだけの関係に、何の成長がある。何の発見がある。退屈なだけではないか」
俺は木田君の目を真っ直ぐに見た。
「いいか、よく聞け。人は、自分と最も『相性の悪い』人間と結ばれるのが道理なのだ。それこそが、人間がこの世に生を受けてきた意味、すなわち『修行』だからだ」
第三章：最悪の相手こそ、最高の砥石
木田君は完全に呆気にとられている。その顔が面白くて、俺は話を続けた。
「考えてもみろ。趣味も、金銭感覚も、味覚も、笑いのツボも、何もかもが同じ人間と一緒にいて、面白いか？それは自分自身と一緒にいるのと同じだ。何の化学反応も起きん。自分にはない価値観、理解しがたい感性、時には癪に障る癖を持つ相手。そういう異物と四六時中向き合い、時にぶつかり、時に呆れ、時に許し、時に受け入れる。その摩擦こそが、自分という歪で傲慢な石ころを磨き上げ、角を取り、丸くしていく唯一の『砥石』なのだ」
俺は自分のゴツゴTシャツした指を見つめた。長年の土いじりで、爪の間には土が詰まり、指の皮は硬く、厚くなっている。
「俺が作る器もそうだ。備前の土は、粘りがなく、焼けば縮む。扱いづらいことこの上ない。だが、その扱いにくい土と格闘し、千三百度の炎という、これまた制御不能な暴力と対峙させることで、初めて人の心を打つ景色が生まれる。灰が降りかかり、自然の釉となって、二つとして同じものがない景色（けしき）を生む。これを『窯変（ようへん）』という。人生も同じだ。相性の悪い相手という予測不能な炎に焼かれてこそ、思いもよらなかった自分だけの景色、『人生の窯変』が生まれるのだ」
「相性の悪い相手が……砥石であり、炎……」
「そうだ。自分を殺し、相手に合わせるのではない。相手をねじ伏せ、自分に合わせるのでもない。互いが互いの『異質さ』を認め、その距離感を測り、自分自身の輪郭を確かめ合う。その緊張感にこそ、人生の醍醐味がある。愛だの恋だのという、一時の熱病のような感情は、すぐに冷める。だが、互いが互いにとっての『最高の砥石』であるという関係性は、一生続く。いや、続けるべきなのだ。それが、この世で最も困難で、最も尊い芸術作品を創り上げること、すなわち『家庭』を築くということだ」
俺は再び、指輪に目を落とした。
深淵のごときサファイア。その静寂を乱すかのように煌めく、二種類のダイヤモンド。プラチナという、決して錆びることなく、そのすべてを冷静に受け止める器。
「この指輪を見ろ。この3.21カラットのサファイアは、動じない。妻の深い慈愛か、あるいは頑固な沈黙か。その周りで、ある時は理路整然と（バゲットカットのように）、ある時は感情的に（ブリリアントカットのように）輝き、主張するのが夫だ。そして、それらすべてを黙って支えるPt850の台座こそが、幾多の困難に耐えうる『家』そのものだ。この指輪は、ただ美しいだけではない。理想的な『不調和の調和』、すなわち、夫婦と家庭の在るべき姿を体現しているのだ。6.17グラムの重みは、その関係性の重みそのものだ」
第四章：現在地
俺たちは墳丘を降り、麓に設置された案内板の前に立った。そこには、この古墳が鍵穴の形――前方後円墳であることを示す、見取り図が描かれていた。
「なるほど、鍵穴の形か。面白いな」
俺は呟いた。
「古代の王の魂を封じ込めた『錠』であり、未来の我々がその謎を解き明かすための『鍵』でもある、と。過去と未来を繋ぐ形か」
案内板には、赤い文字で「現在地」と記されたポイントがあった。後円部、つまり円形の主丘から前方部へと続く、くびれた部分だ。王が眠る最も神聖な場所へと至る、参道のような場所。
俺はふと、いたずら心が湧いた。指輪をそっと指から外し、その「現在地」のマークの上に、そっと置いた。
まるで、この指輪がこの古墳の主であるかのように、その場所に鎮座した。
サファイアの深い青は、案内板の印刷された色とは全く違う、生命を持った色としてそこにあった。周囲のダイヤモンドは、古代の封印を解く呪文のように煌めいた。
「木田君」
「は、はい」
「お前もいつか、結婚するだろう。その時は、決して自分と似たような、居心地のいい女を選ぶな。お前のくだらん常識をことごとく覆し、お前の価値観を根底から揺さぶるような、面倒で、手強くて、訳の分からん女を選べ。お前にとって『最悪の相手』こそが、お前の人生を豊かにする『最高の相手』だ。覚えておけ」
俺は指輪をそっと拾い上げ、自分の小指にはめた。ひんやりとしたプラチナの感触と、指に伝わる確かな重み。浄化を終え、古代の王の霊気と、俺の哲学を吸い込んだこの指輪は、もはやただの宝飾品ではない。一つの物語であり、一つの宇宙だ。
空を見上げると、太陽は少し西に傾き、雲の切れ間から射す光が、まるで天からのスポットライトのように、この古墳全体を照らしていた。
「さて、帰るか。腹が減った。とびきりの穴子と、最高の純米酒で、この指輪の『魂入れ』の祝いをするとしよう。お前の奢りだ」
「ええっ！？」
驚く木田君の背中を叩き、俺は古墳を後にした。小指にはめた深淵の青が、俺の歩みに合わせて、静かに、だが確かな存在感を放っていた。相性の悪いもの同士が惹かれ合い、磨き合う。それは宝石も人間も、そして、俺がこれから口にするであろう、最高の料理と酒の関係もまた、同じ道理なのだ。まったく、この世は面白いことだらけだ。
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