「
バンドによる生音」をコンセプトに作られており、前年の「
波乗りジョニー」や「
白い恋人達」といったヒットシングルは収録されず、作風は1960年代から1970年代の洋楽ロックが中心である。これについては前年の二曲がヒットした事の嬉しさと同時に、「自分の中で〈まわっちゃった〉気がした」「また違うことがやりたくなった」「等身大の音楽が作りたくなった」事を述べており、自身の「等身大の音楽」の定義を「中高生のころの自分」とし、あまり時代性は意識しておらず、ロックを作ることに強くこだわったわけではない旨と「中高生のころの自分に向けて曲を作ろう」というテーマになっていった事も述べている
[2]。
タイトルである「ROCK AND ROLL HERO」は、かつて
アメリカや
イギリスなどの欧米の
ロックンロールに憧れていた桑田自身に対しての皮肉が込められたものである事が言及されている
[3]。
桑田はこのアルバムを制作したことに関して反省点が多かったと後に著書で述べており、特に「影法師」「BLUE MONDAY」「質量とエネルギーの等価性」について「僕なりのロジックが先行し過ぎた」と述べている
[4]。
2001年のシングル曲に関しては、当初はそれらを軸にしたオリジナル・アルバムを作ろうとしたが時間的な理由で実現せず
[5]、ベストアルバム『
TOP OF THE POPS』に収録された。逆に「東京」および同シングルc/w「夏の日の少年」は未収録である。直後に発売されるベスト・アルバム『TOP OF THE POPS』とは、本人曰く「連作」である。そのために、『TOP OF THE POPS』のジャケットには『ex ROCK AND ROLL HERO』と書かれた看板が映っていると共に、本作から『TOP OF THE POPS』に収録された曲は無い。
初回出荷分はスリーブケースが付いており、ジャケットは「白地に黒文字」と「黒地に白文字」の2タイプが発売されている。歌詞カードにある桑田の写真もそれぞれ違う。収録内容は同一。ケースの裏には、
ジョン・レノンのアルバム『
ジョンの魂』の裏ジャケットを彷彿とさせる桑田の幼少時の写真、CD表面には“ROCK AND ROLL HERO?”と投げかけるように疑問符がつけて印刷されているなど、桑田なりの遊び心も含まれている。なお、当初はこの「?」も正式にタイトルに含めようとしていたことが語られている。
音楽ライターの大畑幸子は「個人的に今作を聴いて、桑田佳祐のミュージシャンとしての、また日本人としてのアイディンティティを感じずにはいられない」と評している
[3]。
また、大畑は作風に関しても「以前よりも柔軟性に富んでいる」「ロック・サウンドと日本語を対峙させた時に桑田から溢れ出した和の語り口が実に興味深い」と評しており、後者に関して桑田は「日本語をロックに当て込んでいくと、言葉自体もエッジの効いたゴツゴツしたものになっていく。活字で語るような感じになっていって、なんていうのかな・・・・
かすりの
着物を1枚ずつ着ていくような、そんな
和の世界になっていくんですよ。それが自分でも不思議だった」と述べている
[3]。
収録曲
- HOLD ON (It's Alright) (5:00)
(作詞・作曲:桑田佳祐/英語補作詞:岩本えり子/編曲:桑田佳祐 & THE BALDING COMPANY) アルバムリリース後の全国ツアー『けいすけさん、色々と大変ねぇ。』で1曲目として歌われた。ボブ・ディランを意識した作風で[2]、アルバム中でも最初に作られた曲であり、レコーディングの開始時からライブの1曲目で歌うことを見据えて制作された曲で、「僕のステージを見て頂戴」「僕のブルースを聞いて頂戴」という歌詞に現れている。桑田はこの曲について、「メッセージソングとはちょっと違っていて、歌で何かを変えてやろうではなく、大衆の声として。世の中の欺瞞や矛盾を皮肉ってみせる、というか」「感覚としてはクレイジー・キャッツの『おとなの漫画』に近い」「風刺というよりは酔っぱらいの愚痴みたいになっていたりもするんだけど、自分で言うのもナンだが、この曲は歌も演奏も素晴らしい」と語っている[9]。 - ROCK AND ROLL HERO (4:40)
(作詞・作曲:桑田佳祐/英語補作詞:Tommy Snyder/編曲:桑田佳祐 & THE BALDING COMPANY/管編曲:山本拓夫) 自身出演のコカ・コーラ「No Reason」キャンペーンCMソング。当時世の中に流れていたニュースに刺激され作られた楽曲で[10]、歌詞は日本とアメリカの関係をパロディー的に表現したものになっており[1]、アメリカの音楽に刺激や影響を受けた桑田自身への自嘲が入り交じっているともいわれている[11]。また、「『NO』と言えぬまま、米国に追随する政治家がいるならば、彼等を選んだ我々国民も同罪」といった考えも語っている。歌詞で使われているコカ・コーラという単語は清涼飲料水ではなくドラッグの隠語の意味である。イントロのフレーズは桑田が斎藤誠に「中学生が試し弾きできるフレーズ」を求め、斎藤が簡単なフレーズを弾いたところ、「もうそれ!」と即座に決定したという[12]。最後に聞こえる鳥が羽ばたく音は、マニピュレーターの角谷仁宣が朝方の公園で録音したものである[13]。なお、前述のとおり桑田はアメリカの音楽の影響も受けており、アメリカの存在・文化や日米同盟そのものを全否定しているわけではない節を見せており、2006年のAct Against AIDSのチャリティーライブのテーマをアメリカン・ミュージックにしたり[14][15]、東日本大震災を受けて在日米軍が行った「トモダチ作戦」に感動した事を自身のラジオで述べる側面も見せている[16][注 1]。Suchmosのボーカルで桑田と同じ茅ヶ崎市出身のYONCEは、11歳の頃にこの曲を聴いて歌詞の社会性に感銘を受けたことを述べている[18]。本作収録の新曲としては、唯一PVが存在している。内容は、レコーディング風景や同年初出演したROCK IN JAPAN FES.02でのライブ映像に音源を組み合わせたダイジェスト的なもの。このPVは、『桑田佳祐 ビデオクリップス 2001~2002 D.V.D. WONDER WEAR』に収録された。 - 或る日路上で (3:48)
(作詞・作曲:桑田佳祐/編曲:桑田佳祐 & THE BALDING COMPANY) - 影法師
(作詞・作曲:桑田佳祐/編曲:桑田佳祐 & THE BALDING COMPANY/弦編曲:島健) コカ・コーラ「No Reason」キャンペーンソング。 - BLUE MONDAY (4:48)
(作詞・作曲:桑田佳祐/英語補作詞:Tommy Snyder/編曲:桑田佳祐 & THE BALDING COMPANY) 同じレコード会社所属で、青山学院大学の後輩であるLOVE PSYCHEDELICOが、コーラスとして参加している。ニュー・オーダーの『Blue Monday』との関連はない。 - 地下室のメロディ (3:04)
(作詞・作曲:桑田佳祐/英語補作詞:Tommy Snyder/編曲:桑田佳祐 & THE BALDING COMPANY) - 東京 (6:28)
(作詞・作曲:桑田佳祐/編曲:桑田佳祐 & THE BALDING COMPANY) 8枚目シングル。 - JAIL ~奇妙な果実~ (3:42)
(作詞・作曲:桑田佳祐/編曲:桑田佳祐 & THE BALDING COMPANY) - 東京ジプシー・ローズ (4:19)
(作詞・作曲:桑田佳祐/英語補作詞:Tommy Snyder/編曲:桑田佳祐 & THE BALDING COMPANY) タイトルの「ジプシー・ローズ」とはストリッパーを指している。 - どん底のブルース (4:55)
(作詞・作曲:桑田佳祐/編曲:桑田佳祐 & 小倉博和) 社会で起こっている問題を切り取り、ひたすらどん底の境遇に陥ったことを歌っている。大畑幸子は「自分の安泰や利益のためには犠牲もかえりみない、そんな社会のあり方を嘆き、自らもその中のひとりであることを認識しながら社会の矛盾を鋭く突いた歌詞は、悲痛な叫びとともに胸を切り裂くほど。衝撃的な1曲だ」と評価している[11]。後に桑田はこの曲の歌詞を「ちょっと青臭いかな」と自己評価している[19]。 - 夏の日の少年 (4:24)
(作詞・作曲:桑田佳祐/英語補作詞:Tommy Snyder/編曲:桑田佳祐 & THE BALDING COMPANY) シングル「東京」のカップリング曲。シングルバージョンと基本的に同じだが、一部ボーカルが別テイクである。 - 質量とエネルギーの等価性 (5:40)
(作詞・作曲:桑田佳祐/英語補作詞:Tommy Snyder/編曲:桑田佳祐 & THE BALDING COMPANY) 歌詞中には、ケミカル・ブラザーズやビートルズ、そして桑田本人の名前も登場する。 - ありがとう (4:09)
(作詞・作曲:桑田佳祐/編曲:桑田佳祐 & 原由子/弦編曲:島健) 伴奏はピアノとストリングスのみであり、このアルバムのコンセプトとは大きく異なる曲で、大畑幸子は「清らかな小学唱歌を思わせるクラシカルなナンバーだ[注 2]」と評している[11]。歌詞には桑田を育んだ茅ヶ崎への思いや、自分に関わったすべての人たちへの感謝が綴られている[11]。