● シェーンベルク:
『グレの歌』
カリタ・マッティラ(ソプラノ)
アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(メゾ・ソプラノ)
トーマス・モーザー(テノール)
フィリップ・ラングリッジ(テノール)
トーマス・クヴァストホフ(バス・バリトン)
ベルリン放送合唱団
ライプツィヒ中部ドイツ放送合唱団
エルンスト・ゼンフ合唱団
2001年のベルリン芸術週間の目玉となった公演をライヴ収録したもの。当公演のためにおこなわれたリハーサル日数は、ベルリン・フィルとしては異例に長い、オーケストラ全体の練習が4日、パートごとの練習が4日間の計8日間となっています。演奏は非常にクオリティが高く、ベルリン・フィル初の『グレの歌』にふさわしい強力なサウンドが最大の聴きものとなっています。指揮者のラトルが打楽器出身で近・現代音楽に造詣が深いということもあってか、特殊奏法への配慮や打楽器パートの強調が実に面白く、歌曲的なアプローチとはだいぶ雰囲気の異なるものになっています。
大人数の合唱も凄い迫力で、第3部での幽霊たちの合唱にはまさに鬼気迫るものがありました。5管編成オーバーの巨大オーケストラと十分に渡り合う彼らのパワーは圧倒的ですが、それもラトルの適切な誘導があればこそでしょう。名高い男声12部合唱での仕上がりも完璧です。静かな部分でのアプローチも優れており、各パートが十分に見通せる透明度の高さは、この作品におけるシェーンベルクのスタンスが、完成までに10年を要したという年月の経過ゆえに微妙に変化していたことさえ窺わせる精妙なもので、さすがはラトルと思わせます。
独唱者陣では、山鳩役のアンネ・ゾフィー・フォン・オッターが圧巻。『グレの歌』の内面的なクライマックスでもある「山鳩の歌」における重みと深みのある歌は過去最高といいたくなる感動的な内容です。その他では、クヴァストホフの農夫&語り、ラングリッジの道化が見事な仕上がりです。
【グレの歌について】
『グレの歌』は、実在のデンマーク国王ヴァルデマール(在位1157~1182年)をめぐる伝説にもとづいています。国王とその愛人トーヴェとの、悲しくもグロテスクな物語のあらましは以下の通りです。
この手の寓話に良くあるパターンですが、国王ヴァルデマールには嫉妬深くわがままな妃ベヴィヒがおりました(出演はナシ)。嫌気がさしたヴァルデマールは、トーヴェという美しく気立ての良い女性を愛人とし、グレの地にある狩猟用の城郭で逢瀬を重ねます。
以上が第1部のオーケストラ間奏までに描かれる部分で、間奏後に現れる『グレの歌』随一の人気曲、「山鳩の歌」では、山鳩がトーヴェの死と悲しむ王について伝え、トーヴェの死は、不倫を知った妃による毒殺であると歌います。(以上、第1部)。
短い第2部では、ヴァルデマール王が激昂して神を呪い、それが原因で天罰によって落命する様子が描かれます。
第3部は、昇天することが許されないヴァルデマール王の魂が、家来である大勢の兵士の幽霊を引き連れ、トーヴェの魂を求めて夜な夜なグレの地を徘徊する場面で始まります。
時は流れ、夏の嵐に替わって実りの秋が到来。収穫の季節にふさわしく農夫も登場し、やがて道化師と語り手も登場して、幽霊たちの壮絶な男声合唱を交えながらも、二人の魂の救済に向けて盛り上がりをみせます。
最後は混成8部合唱による壮大な太陽の賛歌となっており、女声合唱の参加による色彩の変化が、魂の救済の可能性について暗示しているかのようです。
この作品は最初、シェーンベルクがまだ若い頃に一編の歌曲として書き上げられ、その後巨大化の道を歩んだという後期ロマン派風の作品。ワグネリズムの影響、特に『神々のたそがれ』や『さまよえるオランダ人』を髣髴とさせる場面があるなど、シェーンベルクらしからぬ親しみやすさと、通常のレパートリーではおそらく最大音量と言われるその迫力ある音調、および変化に富む曲調から、これまでにも注目すべきレコーディングがいくつもおこなわれてきました。
オーケストレーションするにあたり、シェーンベルクが48段の五線紙を特注したというエピソードはよく知られるところで、その編成は、ティンパニ6、バスドラム、スネアドラム、ガラガラ、タム・タム、それにハープ4ほかを含む150人近い巨大なオーケストラに、5人の独唱者、3群の男声四部合唱、混声八部合唱を加えた300人近い声楽陣を要するという大規模なものです。(HMV)
録音:in concert: IX.2001, Philharmonie, Berlin