部屋の中で、BBCの「トップ・オブ・ザ・ ポップス」を見ながら、ポップ・スターに憧 れていた少年が、
今'80年代の新しいポップ・ ファンの熱いまなざしを浴びている。ときめ きとひらめきと才能と、
デヴィッド・オース ティン初のミニ・アルバム、あなたのもとに お届けします。
初めてデヴィッド・オースティンに会ったのは、
日本でデビュー・シングルの「君にフ ラッシュ・ハート」が発売になる少し前、9 月のロンドンだった。
その時のことについて、雑誌の「オリーブ」 に「若さが全身にみなぎっている。まだ22歳。
長身のスポーツマン・タイプ。健康そのもの が歩いている、というのが、
ロンドンではじめて会った時のデヴィッド・オースティンの 印象」と書いたんだけれど、
彼ってホント元気ハツラツ。
そして明るくって、おしゃべり好きで、建前と本音を使いわけるなんてことは絶対なさそう。
ともかくもカッコつけたスター気取りなんて全然ないスカッと爽やかな個性が話していて
気持ちいい。
1962年7月14日、イギリスはエッジウェアの生まれ。かに座の22歳。
'62年というとピー トルズがデビュー・レコードを出した年。「トースターみたいなラジオで
ビートルズの曲を聴いていたんだ。ビートルズが解散し た時のこと、よく覚えているよ」
ビートルズが解散した時といえば1970年に なる。デヴィッド・オースティンはまだ8つ。
この70年代にデヴィッドは、ロックにのめり こんでいく。デヴィッド・キャシディ、スレイド、
マーク・ボラン&ザ・Tレックス、そ して彼が見つけた最大のヒーローがプライアン・メイであり、
クイーンだった。少年時代 から今もずうっとクイーンの大ファン。
1度 チケットもないのにバック・ステージからう まいことコンサート会場に入りこんで
しまったこともあった。
デヴィッドの子供の頃の話を少し紹介しておこう。デヴィッド・オースティンは、早熟な男の子
だった。但し音楽についてね。女の 子とは、最初のデートが14歳の時だったそう。
音楽は、おやじさんが楽器の会社に勤めていたこともあって、5歳の時にギターを手にし た。
最初はクラシック・ギターをずうっと勉 強していたんだ。でもそれほど熱心だったというわけ
でもないらしい。おやじさんからは毎日ギターを練習しろよ、とよく云われてた。
「夏休み、仲間がサッカーをやっている時 も、ぼくは家でチャイコフスキーを練習させられて
たんだ」子供心にサッカーの方に目が 行ってしまっても無理はない。でもギターは 好きだった。
「学校は熱心じゃなかったね。美術と英語 は良かったけれど、あとはギターばかり弾いてたからね」
クラシックからポップス/ロックに目ざめ、 エレキ・ギターを手にしたのは12歳の時。
最初に買ったのは12ポンドの安物。クイーンや ステイタス・クォーのコピーをはじめた。
今ではギターも15台にもなっているという。さて少年時代、一緒にギターを弾きながら
憧れのポップ・スターを一緒に夢みていた幼 な馴染みがワム!のジョージ・マイケル。
デヴィッドとジョージの家は隣り同志。「隣りに住んでたジョージとは、一緒に育ったし、
いつも同じ興味を持ってた。他の連 中がラグビーやクリケットをやっている時も、
音楽だったね」
最初にデヴィッドが作った曲もジョージ・マイケルとの共作だったという。
C.F.Gの3 コードだけのロックン・ロールだった。初め てのバンドもジョージと一緒。
エグゼクティ プというスペシャルズみたいなスカ・バンド で現在ワム!のアンドリューも
メンバーにいた。このバンドは、ビートのいたゴー・フィ ートというレコード会社と契約寸前
までいく けれど、話は流れてしまう。
その後ジョージと別々の道を歩むことにし たデヴィッドは、1度オランダのキュードースと
いうバンドに参加したりしていたけれど、 結局、ソロでやっていくことになり、
'84年「君 にフラッシュ・ハート」でデビューというこ とになったのでした。
作品は、ジョージ・マイケルとの共作。プ ロデュースもジョージが担当したこの曲の
レコーディングの際、デヴィッドはかなりプレ ッシャーを感じて、あがっていたとか。
でも 興奮の出来事だったという話ですが、なかなかデヴィッドってナイーブなんでしょうね。
さて、このミニLP。そのデビュー・シングル、「君にフラッシュ・ハート」のシングル・ ヴァージョン
とロング・ヴァージョン。
そして、イギリスでのセカンド・シングル、「素敵 なサニー・ボーイ」。タイトルからして
いかにもデヴィッド・オースティン以外に考えられない明るいサマー・ソングです。
その「素敵なサニー・ボーイ」のミキシングをスタジオでやっていた時、隣りのスタジオで
レコーディングしていたのがデュラン・ デュラン。デヴィッドはその曲のミキシング がどうも
うまくいかなくて、悩んでいたとこ ろアドバイスしてくれたのがデュラン・デュランのシングルを
プロデュースしていたシックのナイル・ロジャース。
その内にデュラン・デュランのメンバーた ちは現われるし、ローリング・ストーンズの
ミック・ジャガーやキース・リチャーズもや ってきてとても賑やかだったということでし た。
その時ナイル・ロジャースが気に入ってく れたというのが、まだデモ・テープの段階だった
「胸いっぱいのLOVE」。このアルバムの B面最後に収められている作品。
デヴィッド はダンス・ミュージックでアイズレー・ブラ ザースの「ディス・オールド・ハート・
オブ・ マイン」 (1966年のヒット) みたいなモータウ ン・サウンドを意識して作ったということで、
彼自身なかなか気にいっていて、イギリスでも3枚目のシングルにしたいと言ってました。
他にもう1曲ジョージ・マイケルとの共作曲、 「涙のワン・ウェイ・ラヴ」も収められています。
レコードを1枚出すごとに勉強になるし、 より良いものを作っていきたい、と言っていたデヴィッド、
音楽のこと、レコードのことを話していると限りないアイデアがとびだしてくる。
スウィートの「ブロックバスター」 みたいなロックン・ロールもやりたいとか、 ブラスを使うより、
これからはもっとベーシ ックなバンドのサウンドにしたいとか、5人 のギタリストが一緒にプレイ
するようなフィ ル・スペクター・サウンドのようなレコードにしたいと色々。デヴィッド・オースティ ン
のレコーディング・アーティストとしての キャリアは今まだはじまったばかり。
これか ら'80年代の後半に向けてどんなポップ・ミュ ージックをロンドンから届けてくれるか
期待してます。
ライナーノーツから引用【1984.11/大森庸雄—TSUNEO O'MORI/AQUARIUS]】
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