シリーズ第一作の『二丁目の犬小屋盗難事件』のみ、2009年に別の出版社からカバー絵も挿絵も替えて再刊されていますが、元版にあったユーモラスで躍動的な挿絵の魅力はやや薄れてしまっています。シリーズ第二作の『児童館の黒キリン事件』と第三作(最終話)の『桃太郎の赤い足あと事件』のほうは再刊されておらず、おそらくは初版しか出ていないため、シリーズ全作を揃えるのはきわめて困難です。各巻の状態は以下のとおり:
『二丁目の犬小屋盗難事件』
講談社。1988年刊、初版。カバーの端に少ヨレ、表面に少スレ・傷、背にヨレ・端に少裂け・欠損。表紙の角に少ヨレ。カバー・本体ともに経年のシミ・汚れあり。カバー絵・挿絵:岡本順
『児童館の黒キリン事件』
講談社。1989年刊、初版。カバー欠の裸本。表紙の角に少ヨレ。本の天の背寄りの部分および奥付頁の余白部に押印(個人の三文判)。経年のシミ・汚れのほか、そばかす状の小さな汚れのある頁あり。カバー絵・挿絵:岡本順
『桃太郎の赤い足あと事件』
講談社。1990年刊、初版。カバーの端に少ヨレ、表面に少スレ・傷。表紙の角に少ヨレ。カバー・本体ともに経年のシミ・汚れあり。カバー絵・挿絵:岡本順
【内容紹介】
『二丁目の犬小屋盗難事件』
物語の語り手もつとめるワトソンこと和戸尊、トンこと飛田透、双子なのに背も顔も性格もまるで違う保積冴と麗の四人(画像6参照)は、夏休みだけという約束で探偵団を結成する。探偵小説が大好きで(冒頭の章には、シャーロック・ホームズ物の「まだらの紐」に関する考察あり)、本を読むだけじゃいやになって、ほんとうの探偵になりたくなったからだ。おりしもトンの愛犬パー太郎をロープでつないであった犬小屋が庭から消え失せるという怪事件があり、その近辺では、トンの向かいの家も含め、他にも三つもの犬小屋が消えていた。この四つの事件の前には、南西大学の守屋教授が鑑定のために預かっていたメディチ家の黒真珠のペンダントが、教授や五人の手伝いの学生たちがちょっと目を離した隙に、教授の家から入れておいた木の箱ごと持ち去られるという事件も起きており、その犯人とおぼしき男は逃走中にトラックにひかれて搬送先の病院で死亡していた。そのことを知った探偵団は、この犬小屋事件はホームズ物でいうなら「六つのナポレオン像」に当たるのではないかという推理を立てる。とはいえ、すでに死亡していたペンダント持ち去り犯に犬小屋を盗み出せるはずもなく、探偵団は犬小屋のほうの犯人を怪人ケンネルと命名し、黒真珠事件との関係をつきとめようとする。そんなさなか、さらなるおかしな事件が起きる。それは、トンの同級生の家の庭にあるシイの木の、てっぺんのところが何者かの手で切られ、切られた枝も持ち去られるというものであった。
巻末に添えられた「きみには、なぞがとけたかな?」なる作者の言葉に記されているように、手がかりはふんだんに用意されているので、〈夏休みだけ探偵団〉と同じような推理の筋道をたどれば、読み手にも真相は見抜くことは可能だが、ホームズ物へのオマージュの要素自体がレッドヘリングとして機能しているので、真相をずばり見抜くのはさほど容易ではない。終盤近くのスリリングな深夜の待ち伏せのシーンも圧巻で、とある目的のため、そこに現れる怪人ケンネルの意外な正体、その正体をめぐる推理を裏づけるため、ふたたびホームズ物になじみのある読者ならだれもが知っているある事実がクローズアップされてくる展開は、息をもつかせない。
探偵小説好きの琴線にふれる遊び心も満載で、〈夏休みだけ探偵団〉の事務所である保積家の家の裏手にある燃料小屋のなかに、入り口の小さなドアからは運び入れることのできない大づくえがいかにして出現したのか?という、ささやかな不可能犯罪に、ワトソンが頭を悩ませる場面も愉しい。
『児童館の黒キリン事件』
プールに向かおうとしたワトソンは、自転車に乗ったトンに「とびっきりの大事件だ」と呼びとめられ、ふたりして冴と麗の待つ〈夏休みだけ探偵団〉の事務所へと向かう。それは、二年生の男の子が児童館で作った工作のキリンが、遊戯室のまんなかでまっ黒にされていたというもので、だれかが窓ガラスを破って入りこんだらしい。キリンは厚紙製で、ペンキのスプレーで黒くされていた(画像7参照)。キリンはまっ黒にしたものの、床は汚さないように、壁にはってあった絵の描かれた四枚の画用紙がはがされ、キリンの脚のところに敷いてあった。その四枚の絵に描かれていたもののなかに手がかりがあると考えた探偵団は、それらを描いた子どもたちに話を聞く。すると、そのうちのひとつに、つつじ山公園で写生したウインクする家(!)が描かれていたことが判明する。探偵団はさっそくつつじ山公園に向かうが、公園のとなりのあき地にある、その家はあき家で、ウインクもしていなかった。さらなる調査の結果、三十年ほど前に起きた、やはりキリンのからんだ事件が浮上してくる。それは公園脇のあき地にかつて建っていた、西洋風の木造建築として有名なつつじ山屋敷から、金の品物ばかりを盗みまわる怪盗ゴールドによって、黄金のキリン像が盗み出されたというもので、くだんの像はいまだに発見されていなかった。そしてその当時、警察の捜査に協力した探偵の保積荘六(ほづみそうろく。いうまでもなく、かの名探偵の名前をもじっている)というのは、〈夏休みだけ探偵団〉の冴と麗の祖父に他ならなかった!
怪盗ゴールドと黒キリンと命名されたふたりの怪盗のひき起こした事件を〈夏休みだけ探偵団〉が解決する本編は、意外な素姓であったことが判明する保積姉妹の祖父を介在させることで、過去と現在の事件を交差させる構成が、秀逸。容疑者が三人にしぼられるなか、そのうちのひとりを犯人として特定する推理も読みどころで、作者自身が巻末に寄せた「推理小説のきまりを知ってるかい?」(ヴァン・ダインの二十則に関する記述あり)でも記しているように、注意深く読みさえすれば犯人にたどりつけるようになっている(いうほど簡単ではないが)。前作同様、ホームズがらみのネタも愉しく、同業であったことが判明する保積荘六に加え、ワトソンが夏休みの読書感想文用に薦められる作品も、ホームズ物のあれで、それに対してワトソンの抱く疑問も面白い。
『桃太郎の赤い足あと事件』
バードウォッチングをするために早朝から城の森公園に出かけた〈夏休みだけ探偵団〉は、草むらにあるタイヤのまん中でのびている、ビニールひもがからだじゅうにからんだ、頭と背中がまっ赤なネコを見つける(画像8参照)。それは桃太郎と呼ばれているノラネコで、血と思われたものは赤いペンキであった。地面についた桃太郎の赤い足あとをたどっていくと(画像9参照)、使われていないボロ倉庫のなかにまで続いており、内部を調べてみると、赤いワゴン車が置いてあった。それは白い車を赤ペンキで塗った消防車のニセモノで、どうしてそのような偽装をしたのか謎だったが、その理由はじきに明らかになる。その日の未明に貿易会社の社長の自宅からピカソの絵が持ち去られるという事件があり、その際に犯人は発煙筒で火事を偽装したうえで消防士になりすまし、絵を安全なところまで運び出すのを口実に、通りにとめてあったニセ消防車で持ち去っていた。倉庫のなかで見つかったニセ消防車こそが犯行に用いられたものと思われ、警察は、くだんの倉庫の近くに住み、ピカソの絵のことも知っていた、画家のたまごを逮捕する。ところが、その青年はワトソンと冴と麗の学校で音楽を教えている先生の婚約者に他ならず、このままでは結婚式が中止になりかねないと悲しむ先生を見かねた〈夏休みだけ探偵団〉は、夏休みが終わってしまっているにもかかわらず、真犯人を見つけるべく、探偵活動を再開する。事件現場付近で聞きこみを進めた結果、不可思議な事実が判明する。事件の起きた早朝、ニセ消防車が通ったと思われた道は実際には通り抜けることができなかったのだ。この特異な状況の不可能犯罪はきわめて魅力的で、保積姉妹はそのトリックを説明するため、ワトソンらが見ている前で、消しゴムを教室から音楽室へとテレポートさせてみせる。
不可能犯罪好きにはたまらない内容で、犯人の用いたシンプルだが効果的なトリックも秀逸。本書でも前作同様、限られた容疑者のなかから犯人の可能性のある人物をしぼっていく推理法がとられ、犯人特定のためのさりげない手がかりも作中に巧妙にちりばめられている。
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