・書籍名:Ritter in Colour, Cacti in South America
・著者名:Paul Hoxey & David Hunt
・写真:Friedrich Ritter et al.
・出版社:Gordon Roley Foundation
・発行年:2025年
・言語:英語
・様式:ペーパーバック, 210×148mm, 550p
手元に1冊だけ余分があるので出品します。新本になります。
サボテン関係書籍では、久々の名著クラスとなります。南米サボテン好きなら持っておいて損はない書籍かと思います。下記に詳細を書きますが、長年F. Ritterの文献を読み続けた身としては、モノクロプレートがカラー化することで、ここまで取れる情報量が増すのかと改めて認識しました。
<書籍説明>
本書はFriedrich Ritter(フリードリヒ・リッター、1898〜1989)が、自身の25年に渡る南米諸国でのフィールドワークを元に研究したサボテン科の分類学的な研究の総決算として、1979年〜1981年にかけて自費出版した4冊組の国別モノグラフ'Kakteen in Sudamerika'のプレート写真のカラープレート部分の復古版となります。なお、同書は古い書籍ですが、現在においても南米サボテンのバイブルとなり、現在でも各種文献や論文では殆どで引用されています。なお、扱っている国はブラジル、ウルグアイ、パラグアイ、アルゼンチン、ボリビア、チリ、ペルーとなります。
'Kakteen in Sudamerika'には1,467枚のプレート写真を巻末に掲載していましたが、カラー写真は48枚しかなく、残りは全てモノクロ印刷でした。異様に情報量の多いドイツ語の本文には、各種の様々な部位の色情報も掲載されてはいますが、完全に網羅されているわけでもなく、やはりカラー写真がないと花色や刺色などの判別がつかず、文章だけでは実態が掴みきれない種が幾つもありました。本書は、このモノクロ印刷のプレート部分のカラースライドが発見された事から、モノクロプレートをカラー化した待望のプレート写真集となります。FRナンバーのデータ集となる'ENGRELA 16, 1995'と共に、原典を補完する重要文献となっています。
本書発刊のきっかけは、ドイツサボテン協会(DKG)の図書担当者であったElse Gdde(エルゼ・ゴッデ)夫人が2002年に死去した事に始まります。F. Ritterは晩年、カナリー島で隠居生活を送りますが、それまで南米のフィールドワークで集めた写真資料や手帳、参考にしていた文献一式をDKGのカッセル支部に寄贈しています。この中で、当時DKGの図書担当者であった、Else Gdde夫人にスライドを送付していた模様です。そのままスライドは彼女の自宅に眠っていたようで、死去後にアパートメントの部屋に残されていた大量の書籍と一緒に、約40,000点のサボテン関係のポジスライドが発見されます。このうち約2,000点がF. Ritterのスライドでした。これを英国の故David Hunt(デヴィッド・ハント)とNigel Taylor(ナイジェル・テイラー)が検品し、'Kakteen in Sudamerika'のプレート写真が多数含まれている事が判明したことで、本書発刊の企画が持ちあがりました。
発見されたスライドはポジスライドとなり、コダック社コダクローム(Kodachrome)と推定され、これらがガラスに挟まれてゲぺ・スライドマウント(Gape slide mount)に収納され、F. Ritter本人による整理ラベルやペンによる書き込みが付されていました。保管状態もそこまで悪くはなく、多くのスライドは半世紀を過ぎてもなお鮮やかなカラーが再現されています。一方で、紛失したスライドや劣化したスライドもあったようで、カラー化したプレートは1,167枚と約8割の再現率となっており、カラー化された一部のスライドは劣化による色落ちや変色がありましたが、画像処理での再現を行っています。ここに340枚の未公開カラー写真を加えて、約2割のモノクロプレートや色劣化したプレートを補完している構成となっています。また、元々カラーであった写真もスライドから再スキャンすることで、原本よりも高密度かつ高彩度の美しいプレートにリニューアルしており、ここは時代による印刷技術の差を感じる部分です。やはり、カラー写真はモノクロ写真に比べて取れる情報が圧倒的に多くなっています。
ところが、技術的に1,500枚を超えるポジスライドのデジタル化は非常に手間が掛かったようです。スライド自体も半世紀以上を経過していたため、ものによっては色補正が必要となりました。また、そもそも発見されたスライドセットは完全ではなく、一部に関係者から借用している写真もあり、著作権の関係から本書を出版するにあたり、その出自を明らかにする必要もありました。巻頭の説明書きにありますが、F. Ritter自身の間違いの修正、同じ株を撮影したスライドの中でもより保存状態の良い画像への置き換え、カラー化していなくとも高画質なモノクロ画像への置き換え、他人から借りていた写真や他の文献からのコピープレートについて原典または元写真からのスキャン画像への置き換え等を行っています。
なお、本書はD. Huntが、大著’New Cactus Lexicon’の編纂と並行して編集・出版を主導していたのですが、この技術的な難作業を買って出たのが、 米国のPaul Hoxey(ポール・ホクシー)と英国の故Roy Mottoram(ロイ・モトラム)の両研究者となります。書籍自体も1980年前後に自費出版したマイナーなサボテン書籍のアナログ写真のカラー図版となると、一部の研究者やマニアは大喜びでしょうが、書籍としてどれだけ売れるのかが読めませんので、資金繰りに苦労している状況の吐露もありました。ようやく出版の目途が立ったのが2019年で、D. Hunt個人レーベルの’Succulent Plant Reseach’シリーズとして発刊する予定だったそうです。
ところが、同年にD. Huntが逝去してしまいます。この関係で、このプロジェクトは5年間ほど凍結状態となったそうです。その後、P. HoxeyがD. Hunt夫人のMargaret Philips(マーガレット・フィリップス)の協力を得て、故D. Huntの部屋に残されていたデスクやPCを捜索し、本書の編集に必要な索引や前書きなどのデータを回収し、ようやく完成に至ったそうです。なお、発刊自体は元英国キューガーデンのサボテン・多肉植物研究の大家の名を冠した’Donald Gordon Rowley foundation(ドナルド・ゴードン・ローリー財団)’の資金提供により発刊されています。
書籍の様式やレイアウト、書籍サイズについても様々な案があったようですが、最終的にはP. Hoxey の提案で'Kakteen in Sudamerika'の再現様式となっており、原典と異なるのはドイツ語の説明を英語翻訳した部分となります。様式の再現は細部に及んでおり、なかなか粋な計らいとして背表紙のテキストについても、こだわりが見られます。通常、イギリス様式書籍の背表紙は表紙側を天面にするのですが、ドイツ様式は逆の裏表紙側を天面にします。ここを書籍名は英語なのにドイツ様式で再現しているため、本棚で原本4冊組の横に並べても違和感のない作りとなっています。
上記のように数奇な運命を辿ったF. Ritterカラースライドは、再発見から実に20年以上の年月を掛けて書籍として出版されました。本書は、かの’New Cactus Lexicon’を主筆で編集したD. Huntが生前最後に手掛け、多くのサボテン関係者の努力と協力によって出版された記念碑的な書籍だと思います。本書をもって、実に45年の歳月を経て、ようやく名著'Kakteen in Sudamerika'は一定の完成を見たかと感じており、翻せば、それぐらいF. Ritterの南米におけるフィールドワークや分類学研究は世界中の研究者から大きく支持され、尊敬されているという証左かと感じます。