以下、所謂ブラクラ妄想ショートショートです〜〜
タイトル：デコポンの丘、喜平の誓い
第一章：鈍色の遺光と旅立ちの予感
埃っぽい屋根裏部屋の空気は、まるで凝固した時間そのものだった。祖父、海堂宗助が亡くなって半年。遺品整理の手伝いを母に頼まれ、海斗は重い腰を上げた。古ぼけた桐箪笥の奥深く、ずしりと重い感触が指先に伝わる。取り出したのは、黒ずんだ革の袋。中から現れたのは、鈍い銀色の輝きを放つ極太のプラチナ喜平ネックレスだった。添えられた小さなカードには、「最高級Pt850無垢 長さ61.5cm 重量50.71g 幅4.7mm」とインクが掠れた文字で記されている。
「こんなもの、じいちゃん持ってたのか…」
海斗の知る祖父は、質素で寡黙な元漁師だった。派手な装飾品などとは無縁の人。それが、こんなにも重厚で、明らかに高価なネックレスを隠し持っていたとは。手に取ると、ひんやりとした金属の感触が妙に生々しい。それは単なる貴金属の重さではなく、誰かの人生の重み、あるいは秘められた想いの重さのようにも感じられた。
ネックレスを光にかざすと、細かく連なったコマの一つ一つが、職人の手仕事を感じさせる精緻な作りをしている。しかし、その輝きはどこか寂しげで、長い間誰の目にも触れず、暗がりで息を潜めていたかのようだ。ふと、ネックレスの表面に、微かに甘酸っぱい香りが残っているような気がした。気のせいだろうか。柑橘系の、どこか懐かしい香り。
祖父の日記が数冊見つかった。几帳面な文字で日々の出来事や漁の記録が綴られている中に、時折、感情の昂りを示すような乱れた筆跡のページがあった。その一つに、若き日の祖父と、見知らぬ男が肩を組んで笑っている色褪せた写真が挟まっていた。写真の裏には「親友、橘誠一郎と共に。昭和三十五年、春」とある。橘誠一郎。聞いたことのない名前だ。
日記を読み進めると、その橘誠一郎との間に、何か深い確執があったことが示唆されていた。「誠一郎、なぜだ」「あの約束は、どうなった」「俺は、まだお前を…」断片的な言葉が、海斗の胸を締め付ける。そして、あるページにこんな記述があった。「いつか、あの丘で採れたデコポンを腹一杯食いながら、お前と笑って話せる日が来るだろうか。この喜平に誓った約束を、果たせる日が…」
デコポン。あの甘酸っぱい香りは、これだったのか。そして、喜平のネックレス。これが、その約束の証だというのか。
母に尋ねても、橘誠一郎という名には首を傾げるばかり。ただ、「おじいちゃん、若い頃に一度だけ、四国の、確か愛媛の小さな島の話をしていたことがあったわね。ミカンが美味しい島だって…」
愛媛の島。デコポン。喜平のネックレス。そして、釣り人のシルエットが浮かぶ夕暮れの海の風景。海斗の脳裏に、一枚の絵が浮かび上がった。それは、数年前に一人旅で訪れた瀬戸内海の小さな島で見た光景に酷似していた。あの時、寂れた港の防波堤で、夕日を浴びながら黙々と釣り糸を垂れる老人の姿に、なぜか心を奪われたことを思い出す。
「行ってみよう…」海斗は呟いた。祖父の果たせなかった約束とは何なのか。橘誠一郎とは何者なのか。この重いネックレスに込められた想いとは。それを知りたいという衝動が、海斗の心を突き動かした。
旅の準備を始めた週末、海斗は気分転換に近所のサウナへ足を運んだ。数年前からハマっているサウナ活動は、彼にとって心身をリセットするための重要な儀式だ。薄暗く、木の香りが漂うサウナ室。熱い蒸気が肌を刺し、玉のような汗が噴き出す。じっと熱さに耐え、思考がクリアになっていくのを感じる。水風呂の冷たさが全身を引き締め、露天スペースでの外気浴は、まるで生まれ変わったような爽快感をもたらす。「ととのった…」
サウナ後の空腹を満たすのは、もちろんサウナ飯だ。今日は併設の食堂で、定番の生姜焼き定食を注文した。熱々の鉄板でジュージューと音を立てる豚肉と玉ねぎ。甘辛いタレが白いご飯によく合う。キンキンに冷えたビールを喉に流し込み、生姜焼きを頬張る。この瞬間がたまらない。シンプルだが、最高の贅沢だ。
満たされた心と体で、海斗は改めてネックレスを見つめた。その重みが、少しだけ変わって感じられた。それはもう、ただの謎や過去の遺物ではなく、これから始まる旅への羅針盤のような気がした。祖父が見たであろう海の風景、そしてデコポンの実る丘へ。海斗の心は、静かに、しかし確かに、動き始めていた。
第二章：潮風とデコポンの島
フェリーがゆっくりと港に着岸すると、潮の香りと共に、微かに甘い柑橘の香りが風に乗って運ばれてきた。海斗が降り立ったのは、愛媛県の沖合に浮かぶ小さな島、柚木島（ゆきじま）。記憶の中の風景と、目の前に広がる穏やかな瀬戸内海の景色が重なる。あの時見た、夕暮れの防波堤も見える。
島は、山の斜面一面に柑橘畑が広がり、特に目を引くのは、たわわに実ったデコポンだった。独特の愛嬌のある形をしたオレンジ色の果実が、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
海斗は、まず島で唯一の民宿に宿を取った。女将に橘誠一郎という人物について尋ねてみたが、心当たりはないという。ただ、「橘という姓なら、この島には多いですよ。特に、あそこの山の上の大きなデコポン農家は、代々橘さんですね」と教えてくれた。
教えられた通り、急な坂道を登っていくと、立派な門構えの農家があった。表札には「橘」とある。意を決して声をかけると、作業着姿の若い女性が出てきた。日に焼けた健康的な肌に、快活な笑顔が印象的だ。
「こんにちは。あの、橘誠一郎さんという方をご存知ないでしょうか？」
女性は少し驚いたような顔をしたが、すぐに柔らかく微笑んだ。「橘誠一郎は、私の祖父の名前です。五年前に亡くなりましたが…何か御用でしたか？」
彼女は橘柑奈（たちばな かんな）と名乗った。海斗は、自分の祖父、海堂宗助の名前を告げ、遺品整理で見つかった喜平ネックレスと日記の話をした。柑奈は宗助の名前にピンときた様子はなく、怪訝そうな表情を浮かべたが、海斗の話を黙って聞いてくれた。
「祖父の日記に、誠一郎さんと親友だったと…そして、何か約束があったようなんです」海斗は革袋からネックレスを取り出し、柑奈に見せた。
柑奈は息を呑んだ。その重厚な輝きにではなく、ネックレスの形状、そしてそれが放つ独特の雰囲気に何かを感じたようだった。「これ…どこかで…」呟いたが、はっきりとした記憶はないようだった。「祖父は、あまり昔の話をしない人でしたから…でも、海堂さん、というお名前は、もしかしたら…」
柑奈は海斗を家に招き入れ、冷たい麦茶と、採れたてだというデコポンを出してくれた。皮を剥くと、芳醇な香りが部屋いっぱいに広がる。一口食べると、濃厚な甘みと爽やかな酸味が絶妙なバランスで口の中に広がり、果汁が溢れ出す。
「美味しい…こんなデコポン、初めて食べました」
「ありがとうございます。うちの自慢なんです」柑奈は嬉しそうに笑った。「デコポンは、正式には『不知火（しらぬい）』という品種なんですよ。熊本県で、『清見』と『ポンカン』という品種が偶然交配して生まれたんです。このてっぺんの凸、これがデコポンの特徴で、見た目は不格好かもしれないけど、これが美味しい証拠でもあるんです」
柑奈は、デコポンの歴史を語り始めた。偶然の産物から生まれたこと、糖度13度以上、酸度1%以下という厳しい基準をクリアしたものだけが「デコポン」として出荷されること、その栽培の難しさ、そして何よりも、この島の人々がデコポンに注いできた愛情。それはまるで、予期せぬ出会いや困難を乗り越えてこそ生まれる価値、そして人と人との絆の尊さを語っているかのようだった。
「もしよかったら、祖父の遺品を一緒に見てみませんか？何か手がかりが見つかるかもしれません」柑奈の提案に、海斗は頷いた。
その夜、海斗は民宿の近くにある小さな銭湯兼サウナを訪れた。地元の人々で賑わう、昔ながらのサウナだ。ヒノキの香りが心地よい。サウナでじっくりと汗を流し、水風呂でクールダウン。外気浴スペースからは、満天の星空と、遠くに漁火が見えた。心が洗われるような感覚。サウナ飯は、民宿の女将が作ってくれた島の魚を使った煮付け定食。素朴だが、滋味深い味わいが体に染み渡った。
柑奈の祖父、誠一郎も、このサウナで汗を流し、この海の幸を味わったのだろうか。そして、海斗の祖父、宗助との間にあった「約束」とは何だったのか。ネックレスの謎は、まだ始まったばかりだった。
第三章：過去の影と揺れる絆
翌日、海斗は柑奈と共に、誠一郎の遺品が残された納屋を調べ始めた。古い農具や漁具に混じって、段ボール箱に詰められた書類や写真が見つかった。その中の一冊の古いアルバムに、海斗の祖父、宗助と誠一郎が一緒に写っている写真が何枚もあった。若い二人は、まるで兄弟のように親密に見えた。
「本当に、仲が良かったんですね…」柑奈が呟く。
しかし、ある時期を境に、宗助の姿は写真から消えていた。代わりに、誠一郎が一人でデコポン畑に佇む姿や、何か思い詰めたような表情の写真が増えていく。そして、一通の古い手紙が見つかった。差出人は海堂宗助。消印は昭和三十八年。
「誠一郎へ。あの件は、やはり俺の力が及ばなかった。お前に多大な迷惑をかけることになり、本当に申し訳ない。約束した事業も、このままでは…このネックレスは、お前に渡すつもりだった友情の証、そして再起を誓うためのものだったが、今はもう、その資格もない。いつか、必ず埋め合わせをする。それまで、どうか達者でいてくれ。宗助」
手紙の内容は衝撃的だった。二人は共同で何か事業を計画し、それが失敗したらしい。そして、喜平のネックレスは、その友情と再起の証だった。しかし、何らかの理由で、宗助は誠一郎にネックレスを渡すことができず、二人の仲も断絶してしまったようだ。
「事業の失敗…」柑奈は顔を曇らせた。「祖父は昔、新しい柑橘の加工品を作る工場を建てようとして、大きな借金を抱えたことがあったと聞いています。結局、その計画は頓挫して、大変な苦労をしたそうです…もしかして、その時に海堂のお祖父様も関わっていたんでしょうか」
もしそうなら、宗助の日記にあった苦悩や後悔も理解できる。親友を裏切る形になってしまったのではないか、という自責の念。そして、渡せなかったネックレスは、その罪悪感の象徴として、宗助の手元に残り続けたのかもしれない。
「私の祖父は、その後、必死に働いて借金を返し、デコポン栽培に人生を捧げました。でも、時折、遠くの海を見つめて、寂しそうな顔をすることがありました。きっと、海堂のお祖父様のことを思い出していたのかもしれませんね」柑奈の声は震えていた。
海斗もまた、祖父が抱えていたであろう重荷を感じ、胸が痛んだ。二人の祖父の間に横たわる、長年の誤解と果たされなかった想い。その重みが、まるでプラチナのネックレスのように、海斗と柑奈の心にのしかかる。
「どうすれば…」海斗は呟いた。自分たちに何ができるというのだろうか。
その日の夕方、海斗は再び島のサウナへ向かった。今日は柑奈も一緒だった。「私も、少し頭を冷やしたくて」と、少し疲れた笑顔で言った。二人で並んでサウナに入り、黙って汗を流す。熱気の中で、言葉にならない感情が交錯する。水風呂の冷たさが、火照った体と心を鎮めてくれるようだった。
外気浴をしながら、海斗はポツリと言った。「じいちゃん、きっと後悔してたんだろうな…誠一郎さんに会って、謝りたかったんだろうな」
「祖父も…きっと、同じだったと思います」柑奈も静かに応えた。
サウナ飯は、柑奈が家にあったもので簡単なものを作ってきてくれた。おにぎりと、デコポンを使った自家製マーマレードを添えたヨーグルト。シンプルだが、温かい心遣いが感じられる食事だった。
「このネックレス…」海斗は首にかけられたままの喜平を見つめた。「ただ重いだけじゃない。二人のじいちゃんの、叶わなかった想いが詰まってるんだ」
柑奈は黙って頷いた。その瞳には、悲しみだけでなく、何かを決意したような強い光が宿っていた。過去の影は色濃く二人を包んでいたが、その中で、新たな絆が芽生えようとしているのを感じていた。
第四章：デコポン祭りと繋がる想い
「何か、私たちにできることはないでしょうか」翌朝、柑奈は力強い目で海斗に言った。「祖父たちが果たせなかったことを、このままにしておきたくないんです」
海斗も同じ気持ちだった。二人の祖父が望んでいたのは、おそらく互いの和解と、かつて誓った友情の再確認だったはずだ。
島の古老たちに話を聞いて回るうちに、一つの事実が明らかになった。昔、柚木島では秋の収穫祭に合わせて「デコポン祭り」という盛大な祭りがあり、それは宗助と誠一郎が若かりし頃、中心となって始めたものだったという。しかし、二人の仲がこじれ、誠一郎が事業に失敗してからは、いつしか祭りも途絶えてしまったのだと。
「デコポン祭りを復活させませんか」海斗の提案に、柑奈は大きく頷いた。「それなら、きっと二人の祖父も喜びます！」
しかし、話は簡単ではなかった。島の高齢化は進み、祭りを運営する人手も資金も不足していた。古老たちの中には、「今さら昔のことを掘り返しても…」と難色を示す者もいた。
海斗と柑奈は諦めなかった。島の人々を一軒一軒訪ねて説得し、祭りの意義を訴えた。二人の熱意は、少しずつ頑なだった島の人々の心を溶かしていく。宗助の日記や誠一郎の手紙に残された、互いを思いやる言葉、そして祭りへの情熱を伝えることで、かつての賑わいを知る老人たちの目に、再び灯がともり始めた。
「あのネックレスですが…」祭りの準備が本格化したある日、柑奈が少し遠慮がちに切り出した。「もしよろしければ、祭りが終わるまで、私に預からせていただけませんか？二人の友情の証として、そして祭りの成功を祈るお守りとして、大切にします」
海斗は少し考えたが、頷いた。このネックレスは、もともと誠一郎に渡されるはずだったものだ。一時的にでも、柑奈の手に渡ることは、祖父たちの意志を継ぐことになるのかもしれない。「お願いします」海斗はネックレスを外し、柑奈に手渡した。ずしりとした重みが、柑奈の手に確かに伝わった。
祭りの準備は想像以上に大変だった。飾り付け、屋台の準備、イベントの企画。海斗は都会でのイベント企画の経験を活かし、柑奈は島の人々との連携役として奔走した。疲れ果てた日の終わりには、二人で島のサウナへ行くのが習慣になった。
熱いサウナストーンに水をかけ、立ち昇る蒸気（ロウリュ）を浴びながら、一日の反省と明日への活力を語り合う。水風呂で火照った体を冷やし、外気浴で島を渡る夜風に吹かれながら、満天の星を見上げる。その時間は、二人の間に言葉では言い表せない深い信頼関係を育んでいった。サウナ飯は、島の食材を使った持ち寄りの簡単なものだったが、共に汗を流し、同じ目標に向かって努力する仲間と食べる食事は、何よりも美味しかった。
デコポン祭りの開催日が近づくにつれ、島全体が活気づいていくのが分かった。かつての色褪せた写真の中で笑っていた二人の祖父の姿が、海斗と柑奈の姿に重なって見えるようだった。ネックレスは、柑奈の家の神棚に、デコポンと共に供えられ、静かにその日を待っていた。それはまるで、長年の時を経て、ようやく本来の役割を果たそうとしているかのようだった。
第五章：夜明けの誓い、輝く未来へ
デコポン祭りの日、柚木島は久しぶりの賑わいに包まれた。島民だけでなく、噂を聞きつけた近隣の島々や本土からも多くの人々が訪れていた。特設ステージでは島の子供たちによる太鼓の演奏が披露され、屋台からはデコポンを使った料理やスイーツの良い香りが漂ってくる。
祭りのクライマックスは、夕暮れの港で行われる灯籠流しだった。かつて宗助と誠一郎が、豊漁と島の繁栄を願って始めたものだという。海斗と柑奈は、祭りの成功を見届けながら、あの防波堤の先端に立っていた。夕日が海を黄金色に染め、かつて釣り人がいた場所に、今はたくさんの人々の笑顔があった。
「じいちゃん…見てるかな」海斗が呟くと、隣の柑奈が静かに頷いた。
「海堂さん、これ…」柑奈は大切に持っていた喜平ネックレスを海斗に差し出した。「ありがとうございました。お陰で、祖父の想いを少しでも形にできた気がします」
海斗はネックレスを受け取った。不思議なことに、以前感じた重苦しさは消え、代わりに温かいものが胸に込み上げてくるのを感じた。それは、過去のしがらみから解き放たれ、未来への希望を繋ぐものの重さに変わっていた。
「こちらこそ、ありがとう。柑奈さんのおかげだよ」海斗はネックレスを再び首にかけた。プラチナの冷たさが心地よい。
祭りが終わり、静けさを取り戻した夜。海斗と柑奈は、デコポン畑が広がる丘の上にいた。満月が、たわわに実ったデコポンを柔らかく照らしている。
「じいちゃんが本当に伝えたかったのは、このネックレスそのものじゃなかったのかもしれないな」海斗は言った。「これを通じて、人と人との繋がりを大切にしろってことだったのかもしれない」
「そうですね…」柑奈は微笑んだ。「デコポンも、偶然の出会いから生まれた奇跡の果実。人も、きっと同じなんですね」
夜が明け始め、東の空が白んでくる。朝日に照らされたデコポンの実は、まるで黄金のように輝いていた。その光景は、新しい時代の始まりを告げているかのようだった。
「俺、またこの島に来るよ」海斗は言った。「今度は、ただの観光客としてじゃなく…」
「待っています」柑奈は力強く頷いた。二人の間には、友情とも愛情ともつかない、しかし確かな絆が生まれていた。それは、二人の祖父が果たせなかった想いを引き継ぎ、未来へと繋いでいく固い絆だった。
数年後。海斗は再び柚木島を訪れていた。島のデコポンを使った新しいスイーツ開発の仕事で、彼は島と本土を繋ぐ役割を担っていた。柑奈は、島の若手農家のリーダーとして、デコポン栽培に新たな風を吹き込んでいる。
二人は、あの頃のように島のサウナで汗を流し、語り合った。サウナ飯は、柑奈が作ったデコポンをたっぷり使った特製カレーと、採れたての魚の塩焼き。変わらぬ美味しさと、心地よい疲労感が二人を包む。
海斗の胸には、あのPt850喜平ネックレスが輝いていた。それはもはや過去の遺物ではなく、二人の祖父の想いを受け継ぎ、海斗と柑奈、そして島の人々の未来を照らす希望の光となっていた。
デコポンの丘から見下ろす瀬戸内海は、今日も変わらず穏やかで美しい。潮風が、また新しい物語の始まりを運んでくるような、そんな予感がした。
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