インドネシア・東カリマンタン西クタイ県のドヨ製イカット(人物像)
東カリマンタン州のマハカム川流域。西クタイ県にあるカリマンタン最大の淡水湖ジェンパン湖周辺に暮らす、ダヤク民族の中でもベヌアクと呼ばれる人々は、その昔からドヨ(Doyo)と呼ばれる葉から採った植物繊維を用いてイカット(絣織り)を作ってきました。インドネシアのイカットと言えば、一般的に綿糸を用いたものが主流ですが、植物繊維から紡ぎあげた原糸を使って織るイカットは、インドネシア国内でも、おそらくこの東カリマンタンだけではないかと思います。
地元ではドヨから織り上げた布を「Ulap Doyo」(ドヨ製のサルン=腰巻の意味)と呼んでいます。ドヨ布は、沖縄の名護市のさらに北側に位置する大宜味村で今でも織られている、芭蕉布と極めて良く似た感触を持っています。芭蕉布が芭蕉の茎部分の植物繊維を用いるのに対して、ドヨ布は、ドヨの葉の繊維を使います。原糸は双方、区別がつきにくいほど良く似ています。
湖の畔に暮らすベヌアク民族のアスナワティさんの説明によりますと、ドヨの葉は四種類あるとのことで、それぞれ、Doyo Tomoya, Doyo Tulang, Doyo Pentih, Doyo Biangと呼称されています。また、モチーフは、次の五種類が良く知られています。Patung(人物像)、Brabang(花)、Benek(植物模様)、Limar(動物模様)、Bleking(動物模様)。ドヨ(三枚目の写真参照)は、乾燥地帯でも雑草のように力強く育ち、たとえ森林火災に見舞われても、最初に芽を出す植物がドヨといわれるほど、生命力に富んだ植物です。原糸の製作過程は、まずドヨの葉を川で水に浸しながら、竹製のナイフで削るようにそいでいきます。現れた繊維質を天日で十分干してから、いよいよ糸紡ぎです。均一な細さに裂いた、長さ50-70cmの繊維を、一本一本手で結んで長い糸を作ります。このプロセスは芭蕉の糸作りと同じです。糸作りから始めて、一枚のサルンを織るために要する時間はおよそ二ヶ月間。これまでは、黒色(原料は煤)以外の色は、主に化学染色剤を使用していましたが、最近では、自然染料を用いた作品作りが試みられるようになりました。
写真のドヨ布は人物像が描かれたティピカルなドヨ・モチーフです。サイズは約216 X 42.5cm、フリンジ部分は約30cmで未切断です。
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